第23話 『ポロトの剣』

「え…えっと、じゃあ…この剣を買ってくるから…」


「あ、あの!名前を教えてもらっても良いですか!!私の名前は『ポロト・ぺタス』と言います!」


その少女は僕が行こうとすると、服の裾を引っ張りそう言ってきた。


一瞬服が破られるかと思うほどの怪力…。


――可愛い顔して、凄い力を内に秘めてるんだな…。


何とか腕の力を抜き、服が破れるのを阻止しながら振り向く。


「あ、えーと僕の名前は『コルト・マグノリアス』ただの観光客だよ。ごめんね、冒険者じゃないから、ポロトさんの剣を宣伝してあげる事は出来ないんだ…。ホントはもっと凄い冒険者さんに買ってもらいたかったよね…」


「いえいえ!!私の剣を良いって思ってくれた人が、私の剣を買ってくれるなんてこんなにうれしい事はありません!!私の生きてきた時間の中で1番うれしい瞬間でした!!ありがとうございます!!その剣、『ポロトのつるぎ』と言います。大事にしてあげてください!!」


ポロトさんは僕に深々とお辞儀し、無邪気で満面の笑みを浮かべた後、その場から駆けて行ってしまった。


「なんか…すごいパワフルな女の子だったな。でもこの剣が中金貨3枚で買えるなんて、凄く得した気分だ…。それに名前が『ポロトのつるぎ』ときたもんだ。ネーミングセンスが可愛い」


僕は、この『ポロトの剣』を持って店員さんの居る、売り場まで歩いて行く。


「すみません。この剣を買いたいんですけど。良いですか?」


――さっき大剣を買った時は凄い優しそうな人だったのに…、なぜか今回は凄く怖そうなお姉さんなんだけど…。


「あんた…これほんとに買うのかい?」


その人は威圧した目で僕を見つめる。蛇みたく細めた眼は僕の体を硬直させた。


「え、はい…凄く良い剣だと思って…」


――僕の周りには誰もいない…何故だろう、さっきまであれだけ冒険者さんが居たのに、今僕の周りには誰一人として見当たらない。


「ほう…」


――やばい空気が重いぞ…、この人の眼怖すぎるんだけど…。


その人は頬杖をつきながら、口角を上げ、目を見開いてくる…。


「じゃあ、あんたの買うこの剣とは違って…、こっちの白金貨1枚の剣が中金貨3枚だって言われてどう思う?」


怖いお姉さんは、棚の下から徐に剣を取り出し木台の上に置く。


「はい?え…よく意味が分からないんですけど。白金貨1枚の剣が中金貨3枚だって言われたらそりゃあ、おかしいと思いますけど…」


「そりゃそうだわな…」


――いったい何が言いたいんだ…。この人は。


「ちょっと試させてもらっても良いかい。あんたの目利きを…」


「へ?…目利き…。何をいきなり…。あの…どういう事でしょうか…」


怖いお姉さんは立ち上がり、奥の部屋に向うと剣を5本抱えて出てきた。


そして、目の前にある木台に見かけが全く同じ5本の剣を並べた。


「ここに5本の剣がある、鞘と柄は全部同じもので打ったやつはバラバラ…。名前もまだ彫られていない。この剣5本に値段を付けるとしたらあんたは、1本いくらでこの剣を買う…。ちょっとだけ付き合ってくれよ…」


怖いお姉さんは、椅子に座ると再度頬杖を突き、ニヤリと笑う…。


「え…ええ…。いきなりそんなこと言われても…」


「見ても触っても振ってもみても良い、さっきやってた見たいにな」


「僕が剣を物色していたのを…見てたんですか…、変わっていますね」


「あのコーナーに立ち寄る奴なんてほぼ居ないからね。つい珍しくなって見ちまったのさ。それでどうだい、やってみてくれよ。5本の剣に正確な値段は無いが、私の考えに近ければ、この店で好きな武器1本持って行っていいぜ…」


「え!ド…どういうことです…。そんなこと普通やっちゃだめですよ…、一店員の貴方が勝手に…」


「問題ない、なんせ此処の店は私の店だからな…」


いきなり、自分の店発言をされ、やっと合点がいった…。


「え…、それじゃあ…。貴方が『ドリミア・リドリンさん』…。女性の方だったんですね…」


「ま、初めて会ったやつらはそう言うな。ほら、ちゃっちゃとやってみてくれ。私には時間が無いんだ。今日だって偶々に店の様子を見に来たら、新米鍛冶師コーナーを覗く珍しい客が居たんでね…。時間を惜しんでここに居るわけなんだよ」


視線が一気に職人へと変わり、僕を睨むその視圧は先ほどの比に成らない。


睨まれることによって心拍数が上がり、緊張感が増す。


――どうやら逃げられないらしい…。


僕は、目利きをやらなければ成らない状況に追い込まれた。

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