第22話 新米鍛冶師さん

剣やナイフ、などの比較的簡単な武器が多々置いてあり、大剣や槍などもチラホラと陳列されている。


「え~何々…」


『此処の武器は新米鍛冶師が作成したデビュー作である…。すべての値段は一律、中金貨3枚である。ここの武器が売れた場合、武器の売上金は新米鍛冶師の手に渡り活動資金として利用される。冒険者の皆、新米鍛冶師の武器を使い応援してやってほしい。よろしく頼む。ドリミア』


「なるほど、ここの武器が売れたら、新米鍛冶師さんの所にお金が行くんだ…」


しかし、新米鍛冶師さんコーナーにある武器は、全く手付かずの状態だった。


どの武器にも埃が掛かり、打たれた当初は綺麗な状態であったであろう武器たちは見る影もない。


鞘、柄、剣身、刀身…どれもこれも埃がかぶっていると、良い武器だったとしても寂れて見えてしまう。


「どうして、埃が掛かっているんだろうか。中々手に取れられにくいからかな…。ん?」


だが、たった1本だけ全く埃の掛かっていない剣が、新米鍛冶師さんコーナーに立て掛けられていた。


――これだけ埃を被っている武器が多い中、大分綺麗に手入れされている。なんでだ…


僕は、その剣が凄く気になってしまい、見た目はとてもよく見かける当たり障りない物だったが、逆にそれも引かれる要因となった。


「あ…中々良いなこれ…、何だろう。しっくりくる気がする…。軽いし、持ちやすい、剣身は…うん、綺麗に打たれてる。…ん?柄に何か彫ってある…『ポロト』…ああ、打ってくれた新米鍛冶師さんの名前かな」


剣身を指ではじくと…『コン…』と言った感じで低い音が鳴る…。しっかりと不純物が取り除かれている証拠だ。


他の剣も手に取り同じような事をしてみると『カン!』といった具合に甲高い音がする。


これでは何時かぽっきりと折れてしまうだろう。


僕も、何回か剣身を追ってしまった事が有る。


僕は、剣身全体を鞘から引き抜き、一度縦に軽く振った。


『スー!』


と風を切るような感覚が剣身から柄、そして僕の掌へと伝わってくる。


剣先がブレてない…しっかりと均等に打たれている証拠だ。


手首のスナップも効く、切り返しも上手くできそうだ。


剣身の長さも、少し長い位で僕に丁度い、身長が伸びても使いやすそうな良剣だな…。


「うん…この剣良いかも、ハッキリ言ってさっきの中古品なんかより断然こっちを買いたくなったよ…」


「ほんとですか!!」


「!!」


僕は、いきなり声を掛けられ、驚きの声すら上げることが出来ず、その場で棒立ちになってしまった。


ゆっくりと振り向き声を掛けてきた主を確認する。


「えっと…誰ですか?」


身長は僕よりも低く、まだ幼そうな少女がそこに立っていた。


長めの茶髪を後ろで硬く結び、体型は小さいながらもその服装は、鍛冶師そのもの…。


「あ…ごめんなさい。その剣を打ったの私なんです。えっと…初めて手に取って貰えてうれしくて…、その見てたらまさか買ってくれるかもしれないと思っちゃって…。声を出してしまいました…」


その子は小さな手を顔の前でモジモジさせながら話している。


「これを君が作ったの…へぇ、凄いね。いや…この中にある武器で唯一、全く埃がかぶってなかったからさ、気になって手に取ってみたら凄く良くできた剣だと思って…」


「本当ですか…良かったです。そんなことを言ってもらえる日が来るなんて思っても見ませんでした…」


その少女は瞳に大粒の涙を浮かべ泣き出してしまった…。


「え…、ちょ…なんで泣いてるの?」


「ご…ごめんなさい…、嬉しくなっちゃって…。今までの事を思い出したら…ううう」


周りからは、変な目で見られ、とんでもなく逃げ出したい気持ちなんだが…。


まだ話が続きそうなので、その場に居続ける…。


「私、毎日毎日剣を打っては師匠に駄目だしされて…、やっとこさ新米鍛冶師コーナーに出しても良いって言われたとき…スッゴク嬉しくて…、でもだれも見向きもしないから。悲しくなっちゃって…、段々埃が掛かって行くのを見て、私の剣が埃をかぶるなんて辛くて…毎日見に来ては埃を拭き取って…、何日も何日も同じことを繰り返してたら…今日初めて私の剣を手に取ってくれた人が居て…」


「それが僕だたと言う事か…」


「はい…」


「えっと、僕はこの剣を買うよ。別に君のストーリーを聞いて買う訳じゃない。純粋に、この剣を好きになったから買うんだ。だから君は自信持って良いよ。君は1人の人間に良い武器だと思わせることが出来た立派な鍛冶師だ。きっとこれからも多くの人に良い武器だと言わせることが出来るようになるよ。そして君の武器は世界を探索する冒険者さん達の命を守り、活躍するためには欠かせない相棒になる!」


――僕は長々と何を言っているんだ…、でもまぁホントのことを言っているんだから良いか。


「う…ううう…。うう…うわぁあぁああ!」


「え、ああ…あの…」


その少女は無き止むどころか更に大粒な涙を浮かべながら泣き出してしまった。

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