第17話 勇者の石碑
「あ…見えてきたぞ、アイクさんの銅像…うわぁ、やっぱり人が多いな…。アイクさん像の周り観光客でいっぱいじゃないか…。出来れば銅像に触れたかったんだけどな…」
アイクさんが堂々と剣を地面に突き立てながら、前を向き直立している姿が銅像となっており、聖地けん観光名所として有名なこの公園は観光客、冒険者、都民にとって憩いの場となっていたのである。
「これだけ人がいると、トラブルが起きそうなものだけど…、特に平和だな…。まぁ平和な事は良い事なんだけどさ。良し、次は石碑を見に行こう」
アイクさんの銅像を迂回し、少し先に進む。
すると、道の両脇に石碑がいくつも並んでおり、多くの名前が彫られている。
「ここに書かれている人たちが昔、魔族軍とたたかった戦士たちの名前か…。この人達がいたから今までの平和があったんだよな…。もし魔族軍に負けて、魔王の配下になっていたら世界はどうなっていたんだろう…」
少し怖い妄想をしながら少しずつ進んで行く。
僕は石碑が並ぶエリアを抜け、公園の最も奥にやって来た。
「ここが国立記念公園の一番奥…歴代勇者の名前が書かれた、巨大な石碑のある場所か…。僕が訪れてもいい場所なのだろうか」
しかし、ここまで来てしまったのなら仕方がない。
国のために戦っていた勇者さん達の勇姿を受け継ぐのは僕じゃない…。
僕はこの国に対して、命を懸けて戦うなんて…、そこまでの忠誠心が無いんだ。
それを伝えてこよう。
巨大な石碑に手を振れる。
――えっと…勇者の皆さん、ごめんなさい。勇者のスキルを売ってしまいました。僕は皆さんの勇姿を受け継ぐ事は出来ません。きっと僕以上にこの国を愛する者が勇者になってくれると思います。
謝罪の言葉を述べ、頭をぺこぺこしていると…。
「痛!」
どつかれた様な痛みが頭部を襲う。
――な!もしかして、勇者さん達の魂が怒っている…!
そんな事を思っていたが…僕の足もとを手に収まる程度の桃の実が転がってきた。
「何だ…ただの桃か…」
僕は桃が落ちてきたのであろう頭上を見上げると、巨大な桃の木にまだまだ青々とした桃が沢山実っていた。
「風で落ちてきちゃたのかな…」
桃の実が落ちてきた頭部を摩りながら次の目的地を考える。
「そろそろ別の場所に行こうかな…。次は王宮の方に行ってみよう。とりあえず…お金は大丈夫だと思うし、王宮付近を回ったらそのまま馬車で村へ帰ろう」
――でも…ここから王宮付近に行くまでには、結構な距離があるんだよな…。さすがにこの距離は歩けないから、馬車で移動しないと。
僕は押し寄せてくる人の波を抜け、元来た道を戻り国立記念公園を後にしする。
一度国立記念公園の入口て立ち止まり、一礼を行った。
「国立記念公園、良い所でした。今度いつこれるか分かりませんけどまたいつか来ます。アイクさん像、今度はしっかりと触れさせてもらいますね」
僕は公園を出た後、馬車を探していたらすぐ見つかった。
今回の馬車は王都を走る一般的な馬車だったが、今度いつ出会えるか分からない為すぐさま手を上げ止まってもらう。
「王宮付近までお願いします」
「了解しました」
すぐさま馬車に乗り込み、出発してもらう。
馬車から外の景色を眺めると…本当に色々なものが混ざり合った景色で見飽きない…。
様々な人々が住み、文化の混合したこの王都での生活もまた、人生の中で楽しい時間になるのだろうと思いながら、ふと田舎の景色と見比べる。
「こんな大きなお店も…大きな屋敷も…お菓子屋さん…大きな鍛冶屋…大きな宿…何でも大きなものが揃ってるこの王都…。これだけ煌びやかに見える景色の裏側は…。きっとどす黒くて…濁り、いろんな血が流れたんだろうな…」
全て表だけの景色を見て判断していた僕にとって、この国の裏は全く想像がつかない。
「僕はこの王都の事を何も知らない。だから…ただ表面上の景色しか見る事は出来ないし、そんな王都とは正反対の故郷…裏も表もない唯の村…。こんなにもかけ離れているのに…何処か近しいものを感じるのは何故なんだろう。よく分からないけど、僕はどっちも好きなんだろうな…」
こんな事を考えていたらすぐ王宮付近についてしまった。
「うわぁ、王宮付近なだけで、こんなに煌びやかになるもんなんだな…。僕ついさっき王都が好きとか思っちゃったけど、ここの雰囲気はあまり得意じゃないかも…」
ギラギラ、金ぴか…何もかもが眩しい…。
売っている物の値段も訳が分からない。
普通の水に見えるものが小金貨1枚からの値段となっている。
こんなのを見ていると僕の眼は段々と視界を失っていく気がした。
「ここに住んでいる人は、これが普通なんだろうか…どういう感性をしてるんだろうか…」
僕が今立っている場所は、先ほど馬車から降ろされた場所から1ミリも動いていない…。
眩しすぎて動けなかったのだ。
段々光物にも目が慣れてきたお陰か王宮付近の情景が見渡せるようになった。
「ちょっと見て回るか、もう人生で来るのも最後だろう…。目に焼き付けて良い思い出話にするんだ…」
少し歩くと、一泊中金貨5枚からという訳の分からない宿屋があることに気が付いた。
「いったい誰がこんなバカ高い宿屋に止まるんだよ…」
そんな事を呟いていたら、中から美人なエルフを連れた太ったオジサンが出てきた…。
両手指にはギラギラと光る宝石を付け、服装は明らかに上流階級の服装をしている。
はげた頭に、大きく出っ張った下腹…短い手足に太い首…。
そんなオジサンがとんでもなく美人なエルフさんを連れて歩いているのだ…。
しかし…そのエルフさんの首元には不格好な鉄首輪…、どうやら奴隷らしい…。
背中には鉄首輪と繋がれていたであろう鎖が15から20センチほどの長さで切断されていた。
だらしなく垂れ下がる鎖がエルフさんの綺麗な肌を傷付けるように打ち付けながら、階段に向い歩いてくる…。
「いやはや…飛んだ糞宿だったな…。白金貨1枚でこのレベルか…。は!王国の宿も落ちぶれたものだな」
――いや…白金貨1枚って1000万だぞ!それがクソって…。な!
オジサンがいきなり美人なエルフさんを蹴りつけた。
「おい!なぜゴミであるきさまが、儂の前を歩いている!!身の程を知れ!!」
「申し訳ございません!!何分寝ておりませんゆえ、意識が朦朧としておりました!どうかお許しを!!」
「ゴミが…何儂に向って話を呼応としておるのだ…きさまには喋る権利すらないだろうが!!次儂に何か口答えしたら殺す!!」
「申し訳ございません!!」
糞はげデブ爺は美人なエルフさんを蹴るは殴るは宿の入り口でやりたい放題…。
見てるこっちが胸糞悪くなる光景だ…。
しかし…誰もその行動を止めようとする者はいない…。
見て見ぬふり…いや違う、見てすらいない…。
これがこの街で当たり前の光景であるかのように…その光景を見もしないのだ…。
「おい…そこのガキ…、何か言いたい事でもあるのか…?その眼はなんだ…言いたい事が有るならはっきり言うがいい…」
「…………」
――駄目だ…反応するな…、さっきこのクソ野郎が言ったことを思い出せ…。喋ったら…殺される…。
僕はその場を無言で立ち去る…。
「ふん…ガキが…」
「う…う…」
「だから!喋るなと言っているだろうが!!何度言わせれば気がすむんだ!!奴隷の分際で!!」
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