第13話 マクリシス大聖堂

宿から退出した僕は、大聖堂に行くために馬車を探す。


しかし、いくら待っても道に馬車が通らず、仕方ないため馬車が現れるまで歩くことにした。


「歩いていれば馬車に出会えるだろう」


1つ目の目的地は教会だ。


王都には、いくつかの教会があるらしいが、聖地となっているのは『マクリシス大聖堂』と呼ばれている教会らしい。


ここでアイクさんが魔王を倒す際、神様からの神言を受けたらしいのだ。


神様からのお告げを神言と呼び、神言式やら神言祭などの行事が王都で1年に1度行われているらしい、確か…1月1日に神言式と神言祭が同時に行われると聞いた。


5歳の誕生日を迎え、4月の上旬に教会へ向かい神父様から神言を受けスキルを貰う事ができる場所も教会だ。


スキルを貰う行為自体も神言と呼び、人が一生で受けることのできる神言は5歳で受ける神言が最初で最後。


ある特定の人物にのみ、新に神言が与えられ、役割を果たさなければ成らないらしい…。


今までに2度以上神言を受けた人物は、この王国を作った国王一族、初代勇者パーティーを率いた『ガインさん』その後に登場してくる勇者達は皆新たな神言を受けているらしい。


そして『アイクさん』神言を2度以上受けた人の中で唯一、国王の一族でもなく勇者のスキルすら持っていなかった人物だ。


どうやらアイクさんの生きていた時代に勇者のスキルを持った人物が現れなかったらしい。


何故アイクさんが神言を受けたのかは謎らしいが、その謎もまたアイクさんの武勇伝の1つとして語られている。


バックから新聞を取り出し、マクリシス大聖堂までの道のりを確認する。


「えっと…『マクリシス大聖堂』までの道は…結構遠いな」


一瞬諦めようと思ったが、僕の諦めの悪さが通じたのか、目の前を馬車が通ってくれた。


「すみません!乗ります」


昨日のぼろい馬車ではなく今日は普通の綺麗な馬車に乗り、『マクリシス大聖堂』まで運んでもらった。


料金にして小金貨3枚つまり3万円…中々に高い。


これなら僕は、ぼろい馬車で十分だ、特に時間が早まる訳でも座り御心地が良いわけでもない、ただ見た目が良いか悪いかの違いだけで料金がだいぶ変わってくる。


しかし、歩くよりも圧倒的な速さで目的地まで到着し、等々僕の念願が叶った。


「うわぁ~、ここが『マクリシス大聖堂』…大きいな」


大聖堂というだけあって、田舎の教会とはレベルの違う大きさだった。


僕以外にも観光している人たちが大勢いる。


綺麗な格好をした人もいれば、田舎っぽい服装をした人たちもいる。


それと同じくらい…物乞いをしている大人たちや、子供たちもいる…。


どうやら観光客からお金をもらって生活している人たちらしい…。


出来るだけ目を合わせないようにして…僕は、大聖堂の中に入って行った。


中に入るには銀貨3枚が必要となり、物乞い達は入ってこれないため、静かで、とても神秘的な空間だった。


大聖堂の中には入るとすぐ、アイクさんの銅像が建てられており、囲むように七神器が周囲に飾られている。


「これがアイクさんの使っていた武器か…。凄い…」


1つ目にアイクさんが最も使ったと言われている『アクリシスの剣』

2つ目にドラゴンから多くの民を守ったとされる『アクリシスの盾』

3つ目に全ての悪を撃ち抜いたと言われる『アクリシスの弓』

4つ目にどんな物でも貫いたと言われる『アクリシスの槍』

5つ目に大地を割ったと言われる『アクリシスの斧』

6つ目に巨大な山をも切り裂いた『アクリシスの大剣』

7つ目に6つの武器を全て収納することが出来たリング型の秘宝『七宝室』


全て本物ではないだろうが、レプリカでもすごく嬉しい…。


因みに、『アクリシス』というのは伝説の鍛冶師だ。


どうも1人のドワーフらしいけど、アイクさん以外の武器を打たず、6つの武器を打った後は音信不通らしい。


「カッコいいな…。でも僕には荷が重すぎるよな…『勇者』なんて。そもそも、アイクさんは勇者のスキルを持っていなかったんだから。確か…『武器の手腕』ってスキルを貰ってたんだよな…。どんな武器でも達人のように使いこなすことが出来る、スキルを使って魔王を打倒した。ってギルドで見せてもらったプロフィールに書かれてたんだよね」


――アイクさんの居た時代に勇者のスキルを持った人はホントにいなかったのかな…。僕と同じように隠していたのかもしれないし…。


そんな事を考えながら、大聖堂を歩いて行く。


歩いて行くと、最も奥の大広間に祭壇があり長椅子がズラッと並べられていた。


「ここでアイクさんは神言を受けたんだ…凄い…」


クリスタルガラスから差し込む7色の斜光は、祭壇に近づくにつれ、真っ白な一筋の光りとなり祭壇を照らしていた。


祭壇前には立ち入り禁止の表示がされており、決壊が張られていた。


「あ…そうか、この先には行けないのか…」


それでも、その光景を見れるだけで十分すぎるほどに僕は満足したのだ。


「神言ってどんな風に聞こえるんだろう…僕にも聞こえるのかな…。まぁ、勇者のスキルを売った僕には、聞こえないか。だって『勇者』失格だもんな…使命から逃げたんだから」


そんな事を口ずさんでいると…後ろがやけに騒がしい事になっていた。


「おら…どけどけ!愚民ども。ここはきさまらのような、ただの愚民が立ち寄っていい場所じゃねえんだよ。それに加えて、汚ねえ…ドブネズミまで湧きやがって…。おら!邪魔だ!」


「グ!…」


全身ギラギラの鎧装備を付けた男性が、大聖堂の外で物乞いを蹴りつけている。


周りの者は勿論誰も助けようとしない。


――そりゃそうだ…だってあの人は…。


「Sランク冒険者…『ドマリス・マルチネス』…」


彼もまたアイクさんと同じSランク冒険者の1人だ…、素行が悪いって有名だったけど…まさかここまでとは…。


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