第12話 翌朝…

翌朝…僕が重い瞼をゆっくりと開けると…眩しいほどの斜光が、ガラスの貼られた窓から刺しこむ。


「ふぁ~~あ…、良く寝た…。昨日まで硬すぎる馬車の中で寝てたから…久々のベッド気持ち良すぎたな…。やっぱり寝やすい場所で寝ると凄く目覚めが良いんだな…」


当たり前の事を自分が初めて発見したかのように発言し、再度ベッド上で伸びを行った後、その場から床へ降りた。


「ああ…そうか、水は買いに行かないと無いんだった…」


喉が渇いたので、下まで降りていき座っていた少女に水を頼む。


「すみません、飲み水を2リットルと体を拭きたいので盥1杯分の水を買いたいんですけど…」


「飲み水は2リットルで銅貨5枚です。盥1杯分の水は、銅貨4枚です。盥の水は飲めないので飲料水に使わない事をお勧めします」


「分かりました、えっと…銀貨1枚でお願いします。お釣りはチップと言う事で取っておいてください」


「そうですか有難うございます。今持ってきますね」


少女は先に飲み水を持って来てくれた。


ガラス瓶に入っているので落とさないように注意してほしい…とのこと。


僕は落とさないよう慎重にコップとガラス瓶を持ち部屋まで戻る。


盥は後で持って来てくれるそうだ。


何とか部屋まで戻り、机にガラス瓶とコップを置くと気が抜けてしまった。


「はぁ…疲れたな…。ただ水を運ぶだけでも結構難しいんだな」


気が抜けた状態で、椅子に腰かけガラス瓶から水をコップに注ぐ。


案の定少し机に零してしまった。


「あらら…拭くもの拭くもの…まぁ僕の服でいいや」


着ている服を使いこぼれてしまった水を拭き取る。


「良し、綺麗になった。それじゃあ…戴ましょうかね」


コップに入った水を乾いた体に流し込む。


「ん~、美味しい…水がおいしい場所は最高だよね。それだけで評価が上がっちゃうし…」


水を飲んだ後、ベッドへ寝ころび、今日1日の予定を思い浮かべる。


――今日は…、まず王都を観光するとして…観光名所である大聖堂へ行くでしょ…。それから、冒険者の始祖であるアイクさんの銅像も見に行きたいな。確か有名な銅像が2か所くらい有るんだよね…。1つは大聖堂、2つ目は国立記念公園だったよな…。ここは必ず行かないと。


新聞に載っていた王都の地図を見て、僕は経路を確認する。


「すみません!盥をお持ちしました!」


「あ…はーい、今開けます」


扉を開けると、そこに居たのは何も入っていない盥を持った少女の姿だった。


「どこで体を拭かれますか?そこに盥を設置したいのですが…」


「あ~、そうだね…とりあえずトイレの方へ」


「分かりました」


とりあえずトイレとは言ったものの、何故トイレをチョイスしたのか僕にも分からない。


丁度トイレに盥がぴったりと綺麗に収まっている。


「では水を出しますね。『ウォーター』」


少女は掌から光を発すると、光から水が発生し滝のように盥へと流れ落ちて行く。


「へぇー、『ウォーター』のスキルを持っているんだ」


「はい、まぁ『魔法系スキル』なので飲める水じゃないのが残念ですが、洗濯や皿洗い、体を拭く用の水に代用できるのでとても便利です」


「お店の仕事にバッチリ会ってるし、いいスキルを貰えたんだね」


「はい!」


手から流れ出す水の飛沫が中を舞い、少女の笑顔と重なる。


日の光が水飛沫を輝かせ、何とも絵になる表情を見ることが出来た。


「それじゃあ、私はこれで。あ、もう朝食を提供できますのでいつでも食堂の方へお越しください。盥はそのままの状態で構いませんので」


「あ…そうですか、分かりました。色々とありがとうございます」


少女は手を振りながら下の階へと戻って行った。


「良し、体を拭いたら、朝食を食べて…今日の目的である聖地巡礼と行きますか。あいにく…お金は結構有るからね」


僕は寝汗に塗れた体を冷たい水で湿らせたタオルで入念に拭いた。


体を拭き終わった後、再度水をコップに入れ、一気に飲み干す。


「えっと…忘れ物は、無いな…良し!」


部屋を飛び出し、お腹が空いていたので食堂へと向かった。


「うわぁ、結構人がいるな」


広くは無いが、十分泊って居る人たちが食事をできるくらいの食堂だ。


食堂には既に数人が朝食を取っていた。


――冒険者さんかな、服装的にはそう見えるけど…。


そこには、肩幅が広くガッチリとした体を持った強面の人が食事をしている。


――あまりジロジロ見たら、失礼だよね。


僕は、すぐさま空いている席に座り、メニュー表を見る。


「朝食は何にしようかな…。朝だから、やっぱりサッパリしたものでも食べようか…」


やけに美味しそうに見えた、サンドイッチを食べることに決め、食堂に居る定員さんに話しかける。


「あの…、サンドイッチをお願いします」


「はい、承りました。すぐにお持ちいたします」


定員さんがキッチンの方へ向かい、ホントにすぐさま戻ってきた。


多分他の人もサンドイッチを頼むのだろう、あまりにも提供が速すぎる…。


「お待たせしました、サンドイッチになります」


――ほぼ待っていませんけども…。


お皿の上に3つのサンドイッチが載っている。


「ありがとうございます」


定員さんからサンドイッチを受け取り、机に置いた。


3つのサンドイッチは挟んである中身がそれぞれ違い、彩がとても綺麗だ。


赤色、黄色、緑色、…朝から綺麗な色を見るとテンションが上がるよね。


1つ適当に取り、口に運ぶ。


――うん、美味しい。キュウリとレタスの触感が気持ちいい。マヨネーズがちょうどいい具合にマッチしてる。


朝食の為、1つのサンドイッチでも十分お腹が膨れたのだが、残すのは行儀が悪いので何とか食べ進め胃の中に入れる。


どれも美味しく戴けたが…やはり朝は食べ物が喉を通りづらい…。


「ふ~、食べた食べた」


お会計を行いうため、定員さんの居るカウンターの方へ向かう。


「ここの食堂は、ギルドカード使えますか?」


「はい、使えますよ。こちらのスキルボードにギルドカードを翳してください」


僕は帰りの現金を残しておくため、ギルドカードを使用して会計を済ませることにしたのだ。


「ありがとうございました、又お越しくださいませ!」


「はい、又宿に止まる事が有ったら伺いますよ」


食堂から離れ、宿を退出するために少女へ一言、言っておくことにした。


「あ、朝食を取られましたか?」


「はい、戴きました。とても美味しかったですよ」


「そうですか、それなら良かったです。今日はもう退出されますか?」


「はい、今から王都を観光しようと思ってて、あんまりのんびりもしてられませんから」


「そうですね、有名な観光場所はすぐ人でいっぱいになってしまいますから。出来るだけ早く訪れておくことをお勧めしますよ」


「分かりました、それじゃあ僕はこれで」


「はい、ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」


少女は丁寧にお辞儀をして僕を見送ってくれた。


再度、忘れ物がないかを確認した後、僕は宿から退出した。

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