第11話 眼鏡スーツ姿の窶れた社長

「お願いします!銅貨でもいいんです!どうかお金を貸してください!会社が…会社が危ないんです!」


「うるせえよ!もうお前に貸せるだけの価値がねえって分かれねえのか!さっさと出てけ、この眼鏡野郎!」


「グフ!」


眼鏡を付けたスーツの男性はギルドから蹴り飛ばされ、道端で転がっている…。


――動かない…、大丈夫かな…。


僕は、ほおって置けず、その人に話しかけた。


「あの…大丈夫ですか…。馬車呼んだ方が良いですかね…」


「う…ううう…」


その人は動けないのではなく、その場で泣き崩れていたのだ。


「あの、そんなに泣いてどうしたんですか?まぁ僕なんかに話しても、意味ないかもしれませんが、少しは楽になるかも知れませんよ」


「いえ…すみません。みっともないですよね。大の大人が…、いや…ホントにみっともない…。ここで10件目ですが…当たり前のように断られました…」


要約顔を上げて話し始めたその人の顔は相当窶れている…、寝てないのかもしれない、夕日に照らされ頬の影がくっきりと見える。


その所為もあってか、さらに不健康に見えてしまう。目下のクマも相当ひどい…


「お金を借りようとしてましたけど…どうしてなんですか?どうしても買いたい物があるとか…誰かが病気だとか…ですかね。出過ぎたことを聞いて申し訳ないですけど…」


「あ…そのですね、私、会社を設立したんです…。親友だと思っていた奴と…。ただ…私が得意先へ出張に行っていた矢先に…会社の有り金を全部持って行かれまして…。情けないですね…まさか自分が騙されてたとは思ってませんでしたよ…。はは…このままだと、会社もお金…社員…家族すら…」


その人は地面に頭をこすりつけ、強く握りしめた拳を地面に強く叩きつける。何度も何度も…。


「あの…いったい、いくら持って行かれたんですか…」


「白金貨4枚…大金貨10枚…合わせて、5000万…です…。丁度…大きな仕事が終わり…波に乗ってきた矢先の事でした…」


――5000万…大金じゃないか…、そんなお金持って行かれたら、こうなっちゃうのもうなずけるな…。でもそれなら…


「もし、今ここに5000万あればまた会社の経営を立て直すことが出来るんですか?」


「へ…そうですね…。何が何でもやるつもりですよ…。自慢じゃないですが、仕事だけはできるんです…。ただ…周りの人間関係が…ははは、親友だと思っていた人に裏切られるのもこれで何回目か…。…あっちは僕の事を親友とも何とも思っていなかったんでしょうね…。ただの金蔓…そう思われていたんでしょう…何度も言いように使われてきましたね…ほんと学習しないですね…」


この人は窶れているが…眼はまだ死んでない、そう見えたのだ。


「あの…、貸しましょうか?」


「へ…いったい何を…」


「何って…、お金ですよ。お金」


「いやいや…どう見てもお金を持っているようには見えませんけど…」


「まぁそう見えますよね。でもこの袋に…白金貨5枚入っています。これを使って貴方は今から自分の未来を変えるのか…。それとも、そのまま地獄に落ちるのか…どっちがいいですか?」


「…それは……」


僕は持っていた白金貨10枚のうち5枚を抜き取り、袋ごとその人に手渡した。


その人は中身を見て驚愕する。


「ほ…ホントに…白金貨5枚入ってます!どういうことですか!」


「あんまり大きな声を出すと周りの人が反応してしまうので…もう少しボリュームを下げてください」


「す…すみません…えっと、えっと…この白金貨5枚をほんとに借りてもいいんでしょうか…」


「いいですよ」


僕はあっさりと答える、元々そんなに使う気は無かったんだ。


残りの白金貨5枚でも僕にとっては十分すぎるくらいに大金である。


「いいですよって…そんなあっさり」


「僕が持っていても仕方のないお金ですから。使ってもらったほうがお金も喜んでくれますよ」


「そ…それで、金利は…どれくらいでしょうか…。できれば年利15%くらいにしていただきたいのですが…」


「え…別に0%でもいいですよ」


「いやいやいや…どう考えてもおかしいでしょ。それじゃあ逆に怖すぎて借りれませんよ。普通お金を借りたら15%くらいの年利が掛かるものなんです、しかもそれはまだ安い方だ、もっと年利の高い所なんて30%とか40%何てザラです!」


「あー、そういうモノなんですね…じゃあ15%でお願いします」


僕はこの時、適当に言ったが、5000万円の15%…750万円を1年後に貰えるようになった…。


ちゃんとこの人が返してくれたらの場合だけど…。


「はい!必ずお返しします!何があったとしても、例えこの身が朽ち果てようとも、借りたこのお金だけは返します、神に誓って!それでは私は会社に戻らなければなりませんので先に失礼します!」


その人は…名前もな載らず、さらには僕の名前も聞くことなく…走り去っていった。


「僕の名前聞かなくてよかったのかな…。まぁなんか真面目そうだし、良いか…元々使う予定の無かったお金だ。使ってもらったほうが皆の為になるでしょ…」


僕は人を簡単に信用してしまうたちなのだろうか…それともあの人が凄い人に見えたからなのだろうか…。


これ以上面白い話もなく、僕は宿についてしまった。


「へぇこんなに広いんだ…」


外見からは想像もできないほど広い受付に僕は身を縮めてしまう。


どうも僕より歳の低そうな女の子がそこに座っており、受付係をしていた。


「あの…1泊いくらですか?」


「銀貨3枚です」


「一部屋貸し切りですか?」


「はい!」


満面の笑みで答えられ、こんな時間なのに元気だな…と感心してしまった。


銀貨3枚が高いのか安いのか王都の相場が分からないけど、多分安い。


「それじゃあ、1泊お願いします」


「分かりました。ではお部屋までご案内しますね」


その少女は椅子を降り、カギを手に取って階段の方へと向かっていく。


僕はその子についていき宿の事を聞いてみた。


「ここの宿は他の人が泊っているんですか?」


「はい、何人かの方が止まっていますよ」


「ここのお値段って高いのですか?それとも安いんでしょうか?僕王都に来たばかりだからよく知らなくって」


「そうですね、大分安い方だと思います。その分、お食事もお水も別料金ですから。お腹がすいたら、下の食堂で料理を注文してくださいね。もし、部屋まで届けてほしいのでしたら時間と場所、料理名、を書いた紙と料金のお金を私に渡していただければ、その都度対処いたします」


「そうですか、分かりました。ありがとうございます」


「いえいえ、どういたしまして」


――小さいのにしっかりしてるな…。


そうこうしている内に、僕が泊る部屋の前にやって来た。


「こちらの5号室になります」


カギを開けてもらい、少女からカギを受け取る。


「ではごゆっくりお休みくださいませ」


その少女はその場から離れて行った。


部屋に入ると、丁度良い広さで僕1人が止まるには勿体ない部屋だと思った。


今の季節は8月だが、部屋が涼しい…多分部屋の隅に置かれている魔道具のお陰だろう…。


僕はすぐさまベッドへ倒れ込む。


天日干しされて日の匂いが心地良い羽毛布団と、ふかふかのベッドの感触を肌で感じ取ると…在り得ないくらいの睡魔に襲われ、すっと眠りに落ちてしまった。


せっかくの宿だったが…どうやら僕は相当疲れていたらしい…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る