第10話 口内のオアシス

注文してから5分と経たずに、お待ちかねの料理が出てきた。


「はい、お待たせしました。ソースカツ丼定食です!スープがとても熱いので気を付けて飲んでくださいね」


「ありがとうございます…」


――うわ…凄い量だな。これほんとに1人前か…僕の見立てでは3人前くらいありそうだけど。


丼には溢れんばかりのソースカツが載り、1,2,3,4,5…枚も乗っている。


ご飯の量も凄く丼の80%を閉めていた。


塩味の海鮮スープと新鮮な野菜サラダ…これもだいぶ量が多い、しかもお代わり自由なのだそう…。


――そう言えば、まだ料金を聞いてなかったけど、このソースカツ丼定食はいくらなんだ…。あ、あそこの壁に料金が張り付けてある。えっと銀貨1枚!…つまり1000円…嘘だろ、これが1000円…凄いなホントにこれで儲けが出るのか、心配になるレベルだな。


僕は無心になり口にかき込んだ、王都まで来るのに出来るだけお金を使いたくなかったのでほぼ3日間、硬い干し肉と味気の無い水だけで過ごしてきた…。


久しぶりに食べる真面な食事…これ以上に美味しいものがあるのだろうか、今はもう食べる事しか考えられない。


僕は熱々のソースカツに齧り付く、牛肉と豚肉のミックスされたミンチがとにかく柔らかい。


噛み締めなくともソースカツから肉汁があふれ出し、口の中が火傷しそうなほど熱い…どうしようもなく、あふれ出す肉汁が溜まっていき、口内が肉汁の海になる。


ソースの深みと牛肉豚肉のうま味…それが揚げられた薄い衣によって、上手く纏まり、1つのオアシスとなって至極の逸品が口内で完成している。


オアシスの中にソースが掛かった真っ黒な宝石を口いっぱいにかき込むと、脳内が求めていた甘さ…食べ応え…食欲のすべてを満たしてくれる。


ご飯の甘さ…弾力…どれをとっても文句の付けようがなく、ソースカツとよく合う炊き加減んだ…。


「お…美味しい…。僕の田舎でも食べたいくらいだ…」


心中で発した言葉だったのだが…どうやら大きな声で口外に漏れてしまっていたらしい。


料理場の方から大きな声で…


『ありがとうございまーす!!』


僕は大声にびっくりしてしまうが、周りの常連さんらしき人達は、僕が『そう言うだろうと思てたぜ…』みたいな顔をして、此方を見ながら『グッジョブ!』のポーズをする。


僕も慌てながらに『グッジョブ』を返し、恥ずかしくなり残りの野菜とスープを胃の中へ一気に流し込む。


少しむせ返りながらも、サッパリしたスープと新鮮な野菜はどちらも高評価、これがお代わりしほうだいというのがもう訳が分からない。


僕は定員さんにスープとサラダのお替りをお願いした。


「かしこまりました」


定員さんは別の皿でスープとサラダを持って来てくれ、僕の空いた皿と交換して行った。


「うわ…ホントに来たよ…。お替り」


今度は少し味を確かめながらスープを飲むとほのかに海の香り…がする。


これは昆布か…ワカメか…具材は玉ねぎとコーンが少々。


それでもこれを無料でお変わりはさすがにやりすぎだ。


乾いた喉に、冷たい水を流し込む。


さすが、資源系スキル…とんでもなくクリアなのど越し…これ普通に売れるよな…。


ビンに入った水を全て飲みほしてしまい、自分でもびっくり…。あれだけあった定食が全て食べつくされていた。


「食べれたな…」


僕は大満足で食事を終えると…カウンターの方へ向かい、銀貨1枚を差し出した。


「えっと…これほんとに銀貨1枚で良いんですか…」


「はい、大丈夫ですよ。ワンコインの銀貨1枚です!」


「凄い美味しかったです。また王都に寄った時は必ず訪れますね」


「はい、お待ちしております!」


――やっぱりどこかで見て事ある顔だ…


「あの…どこかで見たことあるんですけど…名前を聞いてもいいですか?」


「え、えっと…名前ですか…。ルルカです…」


――ルルカさん…聞いたと無いな…。


「えっとごめんなさい、人違いでした…」


「いえ、大丈夫ですよ」


僕は定員さんに失礼なことをしてしまったが、満足しながらお店を出た。


「ふ~さてと、ご飯も食べたし…今日は王都に泊って行こうかな…、明日もまた観光できるし。丁度いい所に宿があるし…」


僕の目が届く範囲に宿の△マークが立てかけられている場所を見つけたのだ。


「この距離なら、歩いてでも行けるな。食後の運動にちょうどいいや」


カツ丼屋さんのあった場所は比較的、人の通りが少ない場所だったのだが…今僕が歩いている道は結構な大通りだ。


その為、多くのお店や飲食店などが立ち並んでいる。


一応この場所も王都に入るのだが、何処のお店も良心的な価格になっており、王都の庶民にとってなくてはならない場所なのだろう。


何処を見ても、庶民らしき人々で溢れかえっている。


野菜を売っているオジサン、肉を売っているオジサン、魚を売っているオジサン。

よく見ればオジサンばかりだな…。


しかし、仕事をしっかりと行っているオジサンは何をしていてもカッコよく見えるもので、自分も成人したことをちょっと実感する。


――僕も何時かはああなるんだよな…、カッコいおじさんになれるだろうか…


そんな事を考えながら、大通りを歩いているときにちょうど、ウルフィリアギルドではない他のギルド、多分だが…商業ギルドだと思う。


その前を通りかかった時…。

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