第8話 大金の使い道

僕は、いい意味で倹約家だったのだ。


「コルトさん、こちらが白金貨と大金貨になります」


イーリスさんは黒いボードの上に白く光り輝く白金貨を9枚、黄金色に輝く大金貨を10枚並べ僕の元へ持ってきた。


「そしてこちらが、ギルドカードになります」


ギルドカードにはウルフィリアギルドのエンブレムである剣、弓、盾、双剣、槍、杖、が重なる背景にウルフィリアの象徴である鋭くとがった牙が描かれている。


「こちらの中に残りが虹硬貨99枚分が入っておりますのでご自由にお使いください」


「は、はぁ……。あ、あの……」


「はい、何かご質問ですか?」


「えっと、虹硬貨100枚ってどれくらいですか? 全く想像できないんですけど」


「そうですね、王都で働いている一般男性の年収が大金貨4枚ほどですので、24975倍つまり王都の一般男性が24975年働いた金額になります」


「えっと……やばいですか」


「はい、大分やばいですね。1日大金貨1枚使っても99900日かかります。つまり、1年を365日として計算した場合、273.7年で使い終えることが可能ですね」


「それって田舎者の一般男性が全額使いきる事って可能ですか?」


「そうですね……。博打をすれば一瞬で解かせますがコルトさんはそのようなことに興味はなさそうですので、普通に生活していては使い切るのは難しいでしょうね」


「そうですよね……。えっと、僕これだけお金をもらっておいてあれなんですけど、こんなにお金は要らないです」


「と、言いますと?」


「このカードの中にお金を眠らせておくだけなんて、なんか……他の人に申し訳なくて」


「それでしたら、こちらはどうですか?」


 イーリスさんはスキルボードの一画面を僕に見せた。


「それは何ですか?」


「投資になります」


「投資? 投資ってお金を誰かに貸し出すっていうやつですか?」


「そうですね。ウルフィリアギルドでは冒険者さん達に一定額投資することが可能となります。一株大金貨1枚から白金貨1枚と言った具合に株の価格が設定されており、儲かっている冒険者さんたちに投資すれば、冒険者さん達が儲かった分だけ配当金を受け取ることが出来ます」


「なるほど……」


「ただ、人気の冒険者さんは皆多くの投資家さんたちによって抑え込まれておりますので株を中々購入することが出来ません。しかし、未来有る冒険者さん達に投資することによって、新米冒険者さん達を助け、もし凄い成長を遂げた場合は配当金の額も上がるようになっています」


「おお……」


「注意してほしいのは、新米冒険者さんに投資をしたとしても依頼中に死亡したり、冒険者を止めてしまうと、投資した金額は全て没収されてしまうのでご注意ください」


「えっと……。つまり、僕のお金で冒険者さんたちを応援できるってことですか?」


「簡単に言えばそう言うことになりますね。誰か投資を行いたい冒険者さんがいらっしゃるのですか?」


「はい! そりゃあもう、応援したい冒険者さんばっかりですよ! えっとえっと……まずは絶対にこの人、アイリア・シーリスさんに投資したいんですけど、大丈夫ですかね。アイリアさんはBランク冒険者だから結構人気があるんじゃ……」


「アイリア・シーリスさんですね。少々お待ちください」


イーリスさんはスキルボードをスワイプし、アイリアさんの投資状況を確認した。


「はい、問題なく投資することが可能です。いくら投資されますか? 一応D~Aランク帯の投資限度額は虹硬貨10枚となっております。Sランクは無制限となっております。アイリアさんの株は一株白金貨1枚で販売されております。ですが、最近はアイリアさんの株があまり買われていませんね。ほぼ、売りに出されてしまっていますので安めに買うことができますよ」


「限度額いっぱいまでお願いします!」


「了解いたしました。それではスキルボードにギルドカードを翳してください」


「はい!」


 僕はスキルボードにギルドカードを翳す。


『ガオウ』


 スキルボードから音が鳴る。


「はい、これで投資は終了いたしました。ギルドカードの裏面を見れば分かると思いますがこちらから進行状況をご連絡させていただくこともできますがどういたしますか?」


「えっと何かおかしな状況になったら連絡してください。特にこのお金は無くなっても良いと思っているのでアイリアさんの少しでも力になれれば僕は幸いです!」


「そうですか、では出口はあちらに……」


「いえ、イーリスさん。僕にはまだ応援したい冒険者さんたちがいるんです! さっき、新米冒険者の方たちを見てたんですけど、すごく頑張っているのにどうしてもお金のせいで苦労している人たちがいると知りました。僕の有り余るお金で応援したいんです!」


「そ、そうですか。では先ほど私が行ったようにこちらからご自由にどうぞ」


 イーリスさんは僕にスキルボードを手渡してきた。


「ありがとうございます!」


その後、僕は新米冒険者3組と中堅冒険者1組に投資を行った。


これで1名と4組に投資を行ったことになり総額虹硬貨60枚分の投資を行った。


――もう金額がおかしすぎて感覚が狂ってくる。こんな感覚はさっさと手放さないと僕が僕じゃなくなりそうだ。


「では、ギルドカードに残っている金額は虹硬貨39枚となりますので、カードを無くさないようお気を付けください。無くされた場合は再度こちらの受付まで申し出て頂ければ再発行可能になります」


「ありがとうございました、僕。この王都でちょっと美味しいものを食べて観光して田舎に帰りたいと思います。どうも御親切にしていただきありがとうございました」


 僕はイーリスさんに頭を下げる。


「いえいえ、こちらこそ貴重なスキルをお売りいただき誠にありがとうございます。コルトさんのこれからが少々心配ではありますが、私が見てきたスキル売却者の中で最も幸せそうな顔をされておりますので問題ないと思います。何かお困りであればまたこちらの受付までお越しください」


「はい、分かりました」


「最後に1つだけお伝えしておきます。今回の件はウルフィリアギルド、ギルド長である『ラタニア・ウルフィリア』本人と鑑定士である私『イーリス・ポリシス』だけがコルトさんのスキル売却を知っております。『勇者』のスキルは匿名での買取、販売となりますので他人に知られることはありません。ギルド長及び私が他の人物にコルトさんの同意なく個人情報を放す又は流出させる等の行為を働こうとした場合、魔法によって我々の頭が飛ぶことになっておりますのでご安心ください」


「え、なんかちょっと怖いな。そんな頭が飛ぶだなんて……」


「これも販売者、購入者、冒険者さん達を守る1つの決まり事ですので。お気に慣らさず。コルトさんだけの秘密ではありませんから」


「そうですか。分かりました。何から何までありがとうございました!」


 僕はもう一度深くお辞儀をした。


「こちらこそ、誠にありがとうございました」


 イーリスさんも僕にお辞儀を返してくれた。


 僕はコンプレックスだった『勇者』を売ってやったという達成感を噛み締めながらギルドを出ていく。

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