第5話 美人な受付のお姉さん
冒険者になった気分を存分に堪能し、重い腰をやっとこさ持ち上げた。
冒険者でもない僕が依頼を見るのも何かと不思議だが、僕は今ギルドの至る所に張り付けられている掲示板を見ていた。
特に理由もないが、新聞との違いがないか興味本位で確かめたいと思ってしまったのだ。
国周辺の状況を知るためにはこの掲示板を見るのが最も有効な手段である。
何故なら困っている人が何に困っているのかをすぐ見て分かるようになっているのがこの掲示板だからだ。
「へ~、今ゴブリンが大量発生しているんだ…王都周辺の村が軒並みゴブリン駆除の依頼を出しているよ…」
この情報は新聞と同じだ、最近やたらとモンスターの出現率が上がっているらしい。
「報酬は…小金貨10枚か…なるほどね」
ゴブリン退治の報酬は大体このくらいだ、しかし…ゴブリン退治は結構大変な作業である。
ゴブリンの巣を見つけて、全てのゴブリンを討伐しないとすぐ増えてしまう、厄介な魔物だ。
怪我をした時の薬草、武器のメンテナンス、宿泊費、食費、何をするにもとにかくお金が掛かる。
有名な冒険者となれば莫大な報酬と名誉が手に入るが…そこまでのし上がるのは難しい…。
有る冒険者が言った大金貨10枚の報酬を得るために大金貨9枚の準備をして挑戦すると…。
そして白金貨10枚の報酬を得るために、白金貨9枚の準備をして挑戦すると…。
それだけお金のかかる仕事なのだが…冒険者になろうとする人は後を絶たない。
理由はこの世界が不平等だからだ。
お金を持っている者がお金を持っていないものを搾取する。
そう言った世界なのだ…ここは。
冒険者になれば人生を覆すチャンスがある、チャンスがあるからこそ皆冒険者を目指すのだ。
――え?じゃあ、僕も冒険者になりたいかって?いやいや…僕は冒険者になるつもりは微塵もないよ。
だって田舎で静かに暮らして、カッコいい冒険者さんたちを応援している今がとても幸せだからね。
新米冒険者さんらしきパーティーが次々とゴブリン退治の依頼を持って行く。
「やっぱりゴブリン退治はほぼ新米冒険者さん達が持って行っちゃったな…。頑張ってほしいけど、大体失敗しちゃう人が多いんだよね。もっと教育にお金を使えばいいのに…」
――さてと…そろそろ行きますかね。
僕は暇そうにしている美人な受付さんに話しかける。
「すみません、ちょっといいですか?」
「はい、大丈夫ですよ。何か御用ですか?」
「えっと…その…」
「冒険者登録でしょうか?それともアイテムの買い取りでしょうか?」
「その…『スキル』を売りに来ました…」
周りの冒険者さん達に聞こえないよう小さな声で話す。
「え…?何とおっしゃいましたか?」
「えっと…『スキル』を売りに来ました…」
ちょっとだけボリュームを上げ同じ言葉を繰り返す。
「ああ、『スキル』の売却ですね。分かりました少々お待ちください」
――ああ…緊張する、これでもう僕の人生は安泰も同然…。
するとさっきの女性から、変わりまた違う美人な女性へと移された。
「『スキル』売却のお方ですか?」
「は…はい」
「初めまして、私はこのウルフィリアギルドで鑑定士をさせて頂いております。『イーリス・ポリシス』と言います。今日はスキル売却でお間違いないですね?」
「は…はい!間違いないです」
「ではこちらの書類をお読みいただき、こちらにご本人様の名前、住所、年齢、などをお書きいただき最後にサインと指紋をお願いいたします」
「は、はい。分かりました」
僕は書類に掛かれていることを1つ1つチェックし、書くべき所は埋めていく。
「か…書けました」
「はい、お預かりいたします。…見た所、問題は無さそうですね。では次に何故スキルを売却するのかお聞かせ願えますか?もし金銭的な問題なのでしたら、ご本人様のスキルに有った職業をお探しすることもできますが…」
「えっと…別にお金には困っていなくて…、ずっとスキルが『コンプレックス』だったんです」
「コンプレックス…はぁ…、スキルがコンプレックスという人は初めてですね…。その、凄く弱いスキルだとか…使えないスキルだから…とかがコンプレックスの原因ですか?」
「いえ…そういう訳じゃないんですけど……」
「では、いったい何故…。この際、はっきり申し上げますが、スキルの売却はお勧めいたしません。鑑定士である私が言うのも何ですが…スキルを売るという行為は命を売るようなものですよ。確かに他のスキルも買うことが出来ますが…スキルを売ろうとしている人がそんな大金を持っていることなんて在り得ません。コンプレックスだと言うのなら、死ぬ気で働いて、さらに良いスキルをご購入いただくことを強くお勧めいたします」
――この人はきっと良い人だ、言っていることが全て事実…そんな事は僕自身も分かっている。しかし…僕はもう決めたんだ。
「僕は…売ります。自分のスキルを…」
「そうですか…意志は固いようですね。では、少々お待ちください」
数分待たされた後。
「お待たせいたしました。こちらが…スキル鑑定に使用する、スキルボードという魔道具になります。こちらに血を一滴垂らしていただきますと、コルト様のスキルが正しく判断されますので、こちらの針で指に小さな傷を付けていただき、こちらに血を付着させてください」
「わ…分かりました」
僕は言われた通り、指から少量の血を出しスキルボートに触れる。
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