第4話 新米冒険者

「ここが、ウルフィリアギルドだ」


「うわ…やっぱりでっかいな~」


馬車が豆粒に見えるほどの大きさを誇る、ウルフィリアギルドは王都内で最も大きなギルドだ。


ギルドは複数存在し、それぞれ得意分野と苦手分野がある。


ウルフィリアギルドは主に冒険者のギルドとなっており、各地から依頼を取り寄せ冒険者たちに働いてもらう…と言った、仕事の提供場所のような所だ。


他に、商業ギルド、医療ギルド、など様々な分野に特化したギルドも存在する。


僕の押しであるアイリアさんはこのウルフィリアギルドに所属しているのだ。


お爺さんに銀貨1枚を払い、一礼した。


「また移動するときはご贔屓に…」


そのまま馬車は見えなくなっていった。


「よし…行くか」


大きな門を潜り、様々な冒険者さんたちが行きかう中を僕は歩いて行く。


今はまだギルドの外側に居るのだが…既に人や獣人、リザードマン、エルフなど名だたる種族の方たちが行きかい、僕の眼は引き付けられていった。


僕は興奮しすぎて周りが見えていなかった。


『ドン!』


「痛た…」


前を見ていなかった僕は、誰かとぶつかってしまったらしい。


「あ!ごめんなさい、大丈夫ですか」


魔導士だろうか…大きな帽子をかぶり、簡単な作りをしたローブに身を包んでいる。


僕は尻もちをついてしまっている、その人に手を刺し伸ばす。


「あ…ありがとうございます」


魔導士らしきその人は僕の手を取り立ち上がった。


――僕より背が低い…それにこの声、女性だったんだ、帽子でよく顔が見えなかったから分からなかったよ。


「あの、ホントにごめんなさい。僕…目新し事があると周りが見えなくなってしまうたちでして」


「いえいえ、それなら私も同じようなものです。今も、魔法の使用方法を考えていて、周りが見えなくなっていただけですから。気にしないでください」


その女性は物腰の軟らかい良い人だった。


「えっと…冒険者の方ですか?その恰好から見ると魔導士…ですよね」


「はい、一応このギルドに今さっき登録してきたばかりの新米ですけど…一応冒険者です!もしかして貴方も冒険者登録に来たのですか?」


「いえ…僕はそんな。…僕なんかが冒険者になるだなんて、恐れ多くてできませんよ」


「それじゃあ…いったい何をしにこのギルドまで?もしかして観光でしたか」


「まぁ…観光と言えば観光ですかね。僕…冒険者さんたちが大好きなので、是非見に来たいと思っていたんですよ」


「そうでしたか、なら私の名前も覚えて行ってください。私の名前は『マリリ・ポーシャ』と言います。まだEランクですけどいつか有名になって見せますから。ぜひ応援お願いします」


「マリリ・ポーシャさんですか…分かりました、しっかりと覚えておきますね。僕、冒険者新聞毎週欠かさずに見てるので、是非新聞に大きくマリリさんの名前が載る時を祈っていますね」


「ありがとうございます。頑張ります!」


マイリさんはぺこぺことお辞儀を繰り返しながら歩いて行った…。


「いやぁ…。まさか新米冒険者さんとお話しできるとは…ラッキーだったな。サインでも貰っておいた方が良かっただろうか。是非とも頑張ってほしいな」


冒険者はウルフィリアギルドだけでも数10万人所属している。


この中で有名な冒険者に慣れるのはほんの一握り…。


ただ、例外も存在している。


この世界ではお金を持っているものが最も強い。


ウルフィリアギルドにはEランクからSランクまであるのだが…Sランクの8割が貴族などの大金持ちが独占しているのだ。


その理由はおいおい説明しよう。


ギルド内は多くの冒険者たちで賑わい、お祭り騒ぎだ。


昼間っからエールを飲み、ベロベロに酔っぱらっている人。


冒険先で得たアイテムをお金に交換している人。


依頼先から帰ってきた冒険者さんが受付嬢さんと交渉して問題でもあったのか、激怒している人…。


そして僕…。


このアウェイな空間で特にパッとしない人間が、個性あふれるこの空間に立っている。


それだけでもう感無量…心の底から叫びたい気分だ。


僕も冒険者になった気分で椅子に座ってみる。


見る景色はさっきまでと何もかも違う…。


これほどまで違うと…頭で状況を理解するのも難しい。田舎は好きだが、こういった色々な個性がぶつかり合っている場所も僕は好きだ。


――酔っ払いが殴り合っている…それを他の冒険者が止める…うん、冒険者のだいご味だよね…。

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