一本桜のその下で

三年後ー


僕は、この一本桜の下に立っていた。


「一季」


「夢希」


僕は、夢希を迎えにやってきた。


あれから僕は、工藤さんに頼んで何度も麗とやり取りを繰り返した。


僕は、やっと前に進める気がした。


麗からの手紙に書いてあった。


【夢希さんと、幸せになって下さい。僕が、犯罪者になったのは一季のせいではありません。僕は、僕の意志で殺人を犯したのです】


そう言われて、少しだけホッとした自分を感じていた。


「夢子ちゃんと美代の命日だ。」


「麗さんのお誕生日でもあるんですよね」


「麗は、どうして誕生日に殺害したのか教えてくれなかった。」


僕は、桜の木を見つめていた。


「一季、本当は自分を責めたんだよね。この、三年」


「僕は、夢希に会わせる顔がなかった」


「どうして?」


「この事件を導いたのは、僕だったから…」


「一季は、麗さんを救ってあげたかったんでしょ?ただ、救うだけじゃいけなかった。子供だったから気づかなかったんだよね」


夢希は、僕の手を握りしめてくれる。


「僕が、大人だったら麗を救ってあげれた。麗より先に、僕が見つけてあげてればこんな事件は起きなかった。」


「たらればを言ったってキリがないよ。麗さんは、僕にも一季にも痛みをつけた。それは、自分の痛みを理解して欲しかっただけなのかもしれない。でも僕は、麗さんを許す事は出来ないって。殺してやるって思っていた。なのに、あの日。一季にすがるような目を向けた彼を見て、彼がどんなに孤独と絶望の中に生きていたのかを知った。そしたら、急に同情してしまったんだ。」


「母さんも同じ事を言っていたよ」


僕の言葉に、夢希は僕の頬を撫でる。


「得体のしれないモンスターだと思っていた殺人鬼は、僕と変わらない人間だった事に驚いた。そして、僕より小さな人間で、ただ愛を欲しがっていた子供だと知った。許せはしない。だけど、同情は出来た。不思議だよね」


「僕も、同じだよ。夢希」


僕は、夢希の頬の手を掴んで握りしめた。


「ただ、愛されたかった。でも、その愛を貰うことも許されなかった。あの日、麗さんは一季に心を感じた。だから、一季に心を預けた。でも、それに気づかずに大人になった。体は成長していくのに、心は止まったままだったんだね」


「僕が、ちゃんと麗の心を返しにいくべきだったんだ。預けられた事にも僕は気づいていなかったんだ。」


涙が頬を濡らしていく。


夢希の頬も濡らしていくのがわかる。


「もう、囚われなくていいんだよ。王子様」


「夢希」


「一季、これからは、幸せになろう。」


「うん、一緒になろう。夢希」


夢希は、僕の唇に優しい優しいキスをしてくれた。

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一本桜のその下で 三愛紫月 @shizuki-r

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