麗の気持ち

僕は、手紙の次のページを捲る。


一季と過ごした三ヶ月は、僕にとって夢のような時間だった。


僕は、一季が僕の世界の全てだった。


引っ越し先は、母が男についていって勝手に決められた。


僕は、向こうで11歳を迎えた日、母に嫌われた。


原因は、声変わりだった。


母は、僕を殴り続けた。


ほとんど、家にいなかった母との生活。


そして、また男がかわりこの街に戻ってきた。


この頃には、僕の心は墨汁をこぼしたように真っ黒だった。


何も感じなかった。


それでも、生きていたのは、一季に会いたかったからだよ。


この街の一本桜を目印に一季を探したんだ。


そしたら、あの日の一季みたいな子にたくさん出会ったんだ。


逆恨みだって、今ならわかるよ。


でもね、許せなかったんだ。


幸せそうに笑って、僕が手に出来なかったものを掴んでいた。


あの日、一季のお母さんが一季に与えたみたいな愛に包まれていた。


それでも、人を殺そうとはまだ思ってなかった。


母が、男と駆け落ちをしたある日。


一季を、一本桜の下でやっと見つけた。


女装した男の子と楽しそうに話していた。


真っ暗な闇の中に、さらに一滴の黒が落ちたのに気づいた。


こいつを殺してやりたい。


そう思った瞬間から、僕の気持ちは止められなくなった。


まずは、力でねじ伏せれるやつからお試しでやってしまおう。


そう思った。


そして、一季が迎えに来てくれなかった年齢の僕から殺そう。


何故か、そう思った。


体液をかけたのは、赤と白のコントラストをうまくつくるためだった。


全員にやったけれど、綺麗にできずに拭いた。


僕は、何故か警察に見つからなかった。


ウジをはったものを食らい生き長らえる。


全ては、一季に会うためだと信じた。


いつのまにか僕の目標は、一季に絶望を味合わせる事になっていた。


最後の2皿になった、一季とあの子。


ただ、双子だとは誤算だった。


うまく出来た。


なのに、一季は何も知らずにいた。


壊れたのは、間違った方だった。


男の子の泣き叫ぶ声に、僕は、自分の性癖がイカれた鬼畜だとハッキリと気づいた。


あの王子に近付いたママハハのように…。


死刑になると信じていたのに、大人達は僕を生かしてくれた。


それはまるで、拷問だった。


外の世界に出て、名前を変えた。


ならばと肉体も改造した。


でも、下半身だけは弄れなかった。


暗闇の世界の中で、僕は、一季に会う事だけを願った。


願えば、願うほど、その倍以上の憎しみや悲しみや痛みが降り注いだ。


そんな日々の繰り返しで、李光人は僕を見つけてきた。


僕は、李光人に、一季の事を託した。


あの日僕は、飛び降りる李光人の後ろを歩いていた。


特等席で、ずっと一季を見ていた。


あの日だけじゃないよ。


ずっと見ていた。


許されたいなんて思わない。


だけど、知って欲しかったんだ。


僕の世界には、君しかいなかった事…


君だけが、僕の幸せだった事…


君に、僕が心を預けた事…


一季、さよなら。


あの日のキスは忘れない


【麗】


「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


僕は、その手紙を握りしめて泣いた。


残りの手紙は、どれだけ僕を探したか、どれだけ愛していたか、どれだけ願っていたかを書いていた。


僕は、あの日、麗の世界を救ったつもりでいた。


僕は、破壊しただけだったんた。



麗は、けして許されない事をした。


でも、そこへ向かわせたのは紛れもなく僕だ。



僕もまた、償いきれない罪を犯したのだ。


「いっちゃん」


「帰ってたんだ」


母さんの声に振り返った。


「いっちゃんのせいだって思ってる?」


僕は、その言葉に頷いた。


「そんな事ないって、母親なら言うべきかもしれないけど…。あの時の彼を見たら言えない。ごめんね。いっちゃん」


「大丈夫」


「彼が、いっちゃんを待っていたのが凄くわかった。犯罪者に同情なんかしないって思っていたのに…。彼を見たら、同情してしまった。駄目だね、お母さん」


母さんは、僕の肩を抱き寄せる。



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