手紙

あの事件から三ヶ月が経っていた。


「よお、一季。」


「おはよう、工藤さん」


工藤さんは、僕の家にやってきた。


「麗は?」


「5年って話しだ。ほら、これ」


「手紙ですか?」


「ああ。一季も執行猶予ついてよかったな。」


「一年です。」


「そっか」


「工藤さんが、麗から預かってきたんですか?」


「ああ、プリンスに何でなったか書いてるよ。悪いが、有栖と一緒に読ませてもらった」


そう言うと、工藤さんは煙草に火をつけた。


「ふー。なぁ、一季、約束守れなかった事、後悔してるか?」


「はい、僕が守っていたらあんな事にはならなかったはずです。」


「そうだろうな」


工藤さんは、煙草を吸っている。


「やっぱり、そうですよね」


「まぁ、そればっかりじゃなかったよ。藤木は、一季だけが世界の全てだった。それは、あの親に育てられたからだ。」


「僕が、ちゃんと麗の約束を守っていたら…」


「関係ないよ。手紙に書いてる。あいつは、今やっと被害者に手紙を書いてる。心ない謝罪文じゃなくて、ちゃんと自分の心を削って書いてる。有栖から聞いた。」


「やっと、心が出来たんですね」


工藤さんは、灰皿に煙草を押し当てる。


「一季に、心を返してもらったんだ。あいつは、あの日、あのキスで心を返してもらったんだ。お前に預けてた心を…。」


「麗は、僕が思ってるより純粋な人間だったって事ですよね」


「そうだな。体は、成長しても、心の中は7歳の一季と別れた日でとまったままだったよ」


工藤さんは、僕の頭を撫でる。


「なあ、一季」


「はい」


「あいつが、罪を償って出てきたら一回ぐらいはあってやれよ。許せなくたってよ」


「わかった」


僕の言葉に工藤さんは、笑った。


「じゃあ、またな」


「はい」


僕は、工藤さんを見送った。


僕は、二階にあがった。


「分厚い手紙だな」


僕は、その手紙を見つめていた。


あの日から、僕も止まったままだった。


【ねぇー。いち、これどうかな?】


【可愛いね】


モコモコのウェアを僕に見せた美代が浮かぶ。


読むのが、怖い。


それでも、心を削って書いた手紙なら読むべきだよな。


僕は、心を決めて開く。


【一季へ】


僕が、人を殺そうと思ったのは、13歳で再びこの街に戻ってきた時でした。


いい思い出は、一季との事しかなかった僕が、この街に戻ってきた。


探してしまうのは、当たり前だった。


一本桜、それしかわからなかった。


だから僕は、一本桜に君を探していたんだ。


初恋は、叶わないと言うけれど…


僕にとって、一季は全てだった。


母は、女の子を切望していた。


しかし、出来なかった。


兄のみなとは、母からの重圧に耐えられずに自殺した。


僕は、それから13年後に産まれた。


母は、女の子ではないかと喜んでいた。


父親は、産まれた時からいなかったと言う。


綺麗な顔の父親との間に出来たから、僕は母にとても期待されていた。


期待に応えるように僕は、成長した。


母は、僕に女の子の格好をさせた。


僕は、物心ついた頃からいじめの標的だった。


僕は、ずっといじめられて生きていくんだと思っていた。


家に帰れば、母親に耳をひっぱられたり、腕を引っ張られた。


そんな僕に、一季は興味を示してくれた。


図書室にいたのは、本が大好きな事を先生に話したら授業中は、図書室にいてもいいと言ってもらえた。


僕は、囚われのお姫様の話が大好きだった。


一季、覚えてる?


一季が、僕に囚われのお姫様は麗だねって言ってくれた日の事


僕は、そこまで読んで泣いていた。


麗の世界に幸せを与えたのは、僕だった。


その一滴は、波紋のように広がり麗の世界を包み込んだ。


なのに、麗はその幸せを二度と手に入れる事が出来なかった。


だから、麗は事件を起こした。


僕のせいで…。




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