麗と一季
授業が終わった。
「麗、帰ろう」
「うん」
僕は、みんなに見つからないようにお姫様を連れ出すんだ。
手を繋いで、帰る。
麗の家の前に、やってきた。
「王子様は、お姫様にキスをするのよ」
囚われのお姫様のラストで、王子様はお姫様にキスをした。
誰も見た事のないお花の国。
死んだ人が、行く場所。
「ファーストキスだよ。いいの?」
「うん」
僕と麗が、キスをしようとした時だった。
「この獣」
バチン
ママハハが、現れた。
「ママ、やめて」
「私の麗に
バチン、バチン、バチン
「痛いなー、クソババア」
「ふざけんな、獣」
バチン、バチン、バチン
「あんた。」
「はあ?」
「私の可愛い、いっちゃんに何してんのよ」
母さんが、やってきた。
「この獣が、私の麗に近づくからよ」
「いっちゃんは、獣なんかじゃない」
「うるさい」
バチン
叩かれたのは、母さんだった。
「私のいっちゃんには、手を出させないから」
「麗、行くよ」
「待って」
強い力で、麗は連れて行かれた。
「お母さん」
「いっちゃん、帰ろうか」
「何で、いたの?」
「ちょうど、検診やった」
大和が、まだお腹にいた時だった。
あの時、囚われのお姫様だった麗はどう思ったのかな?
「いっちゃん、お兄ちゃんだよ」
「赤ちゃん、可愛い?」
「お母さんは、いっちゃんが一番だよ。」
「赤ちゃんにとられるやろ?」
「大丈夫、お母さんは、どっちも愛せるから」
「お母さん」
母は、その通りの人だった。
片寄った愛情は、なかった。
僕も大和も、分け隔てなく愛してくれた。
あの日から、麗に会わなくなった。
1ヶ月後、僕は、一年生の先生に声をかけた。
「先生?」
「藤木さん、今日引っ越すって」
「えっ?」
「今なら、間に合うんじゃない?」
「ありがとうございます」
僕は走った、麗の家まで…。
「麗」
「一季」
親は、いなかった。
「逃げよう」
僕は、麗を連れて行った。
「はぁ、はぁ、はぁ」
少し離れた一本の桜の木のある公園にやってきた。
「一季」
「僕が、必ず助けに行くから」
「約束してくれる?」
「必ず、約束する。」
「僕の誕生日ね、4月4日なんだよ。会いに来てくれる?」
「会いに行く」
「じゃあ、まず八歳からね」
「うん」
「約束」
「約束」
僕は、麗と指切りをした。
「キスだけは、してくれる?」
「うん」
僕は、麗にキスをした。
「他のも、僕にくれる?」
「うん、約束」
「約束」
僕は、麗と強く抱き合った。
「ママに怒られるから帰るね」
「わかった」
僕は、麗が家に帰ったのを見届けていた。
「どこ行ってたんだい、行くよ」
麗は、腕を引っ張られて車に乗せられた。
この日を、最後に、麗には、もう二度と会えなかった。
.
.
.
.
.
「夢子ちゃんが、殺されたのは僕のせいだ。ごめんね」
「一季君は、関係ないですよ」
「僕は、さっきまで麗との約束を忘れていた。」
「それって、一季君」
「夢希君、どうしたらいいかな?僕は、どうするべきかな?」
「わかりません。」
「いつか、答えが出たら。何て言ったら、君も殺人犯になってしまうかな?」
「いえ、待ってます。麗さんとの事が終わるまで、僕は、待っています」
「本当にいいの?」
「いいですよ」
「夢希、ごめんね」
「大丈夫ですよ。僕は、いつまででも、一季君を待ちますよ。もう、15年も、一季君を待ちました。もっと、待てますよ。」
「一季って呼んでくれない?」
「一季」
「夢希が、30になるまでにはキチンと答えを出すから…。だから」
「三年後の4月4日、あの桜の木の下で待ってます。」
「夢希」
「一季」
僕は、夢希に優しくキスをした。
「もっと先に進むのは、三年後に…。」
笑った夢希は、あの日僕が見た夢希だった。
僕は、夢希を抱き締めた。
その日、僕達は抱き合いながら眠った。
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