悲しみと悲しみ


僕は、立ち上がって夢希ゆめき君の傍に行く。


夢希ゆめき君」


「なに?」


「僕が、夢希君を支えていきたい」


「男は、好きじゃないでしょ?」


「そんなのどうだっていいんだよ」


僕は、夢希君を抱き締める。


「どうして?」 

 

「夢希君の悲しみが理解できるから」


「一季君」


夢希君は、僕を抱き締める。


「いつか話した絵本の話、今も覚えてる?」


サラサラの茶色の髪を撫でる。


「覚えてるよ。囚われのお姫様」


「夢希君は、それだったんだね」


「一季君」


「待って」


「何?」


「スマホで読めるかな?」


「囚われのお姫様?」


「そう、それだよ」


僕は、夢希君に尋ねた。


「残酷すぎるって廃版になったんでしょ?」


「そうだけど…」


僕は、日下部君が見せたノートが引っ掛かっていた。


「待って、検索してみる。」


夢希君は、僕から離れた。


「あった」


「待って、誰か来る」


「えっ?」


カツン…カツン…カツン


僕は、とっさに工藤さんに掛けた。


ポケットにスマホを突っ込んだ。


「夢希君、立って」


「うん」


カツン…カツン…カツン


ジャリっと砂を踏みしめる音に変わる。


「誰だ?」


「そんな所にいたら、殺してって言ってるようなものだよ」


「あ、あ、あんたは、結婚式の」


「一季君、知り合い?」


「うん」


そいつは、長い棒を持ってる。


「なに?それ?」


「痛くしないからね?言うこと聞いたら、何もしないからね?」


「殴ろうとしてんだろ?」


「別にしないよ。次は、死刑になっちゃうじゃん」


ニコッと微笑んだ。


夢希君を庇いながら、後ろにゆっくり下がる。


「お前、プリンスなのか?」


「そうだよーーーー。」


ニコニコ笑ってる。


「あっ、君は、僕に気づいた」


「そうだよ。仲良くなれると思ったのに」


ザザザザって、何かをすってる。


ゴルフクラブぐらいの細さの棒だ。


「何で、いるんだ?」


「何でって、一季を監視してたんだよー。ずっと」


「はあ?何でだよ」


「覚えてないの?」


「覚えてるって、なんだよ」


「何で、覚えてないのかな?」


そいつは、ヒールを脱いだ。


「真実を知ったら、ダメだよ。一季」


胸ぐらを掴まれた。


「ゆめき、逃げろ」


ドサッ…


僕は、突き飛ばされる。


「ヒッ」


「これ凄いでしょ?」


鉄の棒の先は、尖っていた。


「僕を殺すのか?」


「だーかーらー、やらないって。次は、死刑だから。ただし、お前が逃げたら一季を殺すよ」


「ゆめき、逃げろ」


夢希は、逃げずに止まる。


「一季に好かれる為に、こんな姿になったのに、一季は、またあっちを選ぶんだから」


そう言って、プリンスは僕の頬に手を当てる。


「やめろ、さわるな」


「一季が、私のものになるなら彼を殺さないよ」


「何で、僕にこだわるんだ。」


「一季、始まりは君だったんだよ。だから、終わりも君に関わったものだったでしょ?」


「意味がわからない」


「一季、怯えてるの?可愛いね。ねー。見てよ」


プリンスは、僕の手を下半身に持っていく。


「あえて、とらなかったんだよ」


「やめてくれ」


「一季」


口の中に、舌をねじ込まれる。


あの日の美代が、浮かぶ。


「一季、抵抗しないのは可愛いね」


「僕が、受け入れたらいいんだろ?」


「何、その顔?ムカつく。愛してるって言ってよ」


「あ、あ、あ、愛してる」


「一季、ほら立って」


僕は、立ち上がった。


「行こう」


僕は、プリンスに手をひかれる。


「ゆめき、君もだ。」


プリンスは、ヒールをはいた。


「どこに…」


「今から、夢希に見せてあげるよ。奪われるのが、どんなに痛いかって」


「どういう意味?」


「君は、ずっーと、一季が好きだったでしょ?今もだよね」


「何で、知ってるの?」


「何でも、知ってるよ。僕は、ずっと二人を見ていたんだから」


そう言われて、手をひかれていく。



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