夢子の死体

「死んでるのよ、やめなさい」


「うるさい、黙れ」


僕は、自分の着てるシャツを脱ぐ


「夢子、綺麗にしてあげるからな」


夢子の全身にこびりつく、この赤と白が気持ち悪かった。


「夢君、やめなさい」


「離せ」


夢希ゆめき、そんな事したら犯人がわからなくなるだろうが…。」


「うるさい、黙れ、黙れ、黙れ」


姉が、こんな汚いものにまみれて最後を迎えてるんだ。


両親は、何も思わないのか…。


「警察です。」


「離れなさい」


僕は、意図も簡単に夢子と引き離された。


「やめろー、離せー、見るなー」


僕は、無我夢中で泣き叫んだ。


夢子を犯人は、何度も殺していく。


「夢子に、さわるなー。見るなー、見るなー」


女の刑事さんが、近づいてきた。


「ちゃんと綺麗にしてくるからね」


その言葉に、この人にとって夢子は人である事を認識した。


「ぁぁぁぁぁあああああああ」


崩れ落ちた僕を、両親は支えてくれた。


富士丸と両親と家に帰る。


「お風呂に入りなさい」


血と何かわからない液体にまみれた体を洗えと両親は言った。


僕は、お風呂に入った。


「何してる、佐和子」


お風呂からあがると父さんは母さんに怒っていた。


「夢君は、今日から夢ちゃんよ」


「何で?」


「やめないか、佐和子」


「うるさいわよ。私は、女の子の双子がよかったのよ」


「佐和子」


「わかったよ」


僕は、夢子の服を着た。


夢子と僕は、同じ髪型にされていた。


「夢ちゃん、夢ちゃん」


母の心が、壊れたのがわかった。


夢希ゆめき、すまない」


「別に、気にしないから」


「お父さんとお母さんは、少し放れる。どっちに来るか考えておきなさい」


「そんなのを夢子が死んだ日に言わないでくれよ」


普通の家だって、誰が僕達家族を見ていた?


.

.

.

.

.


「一季君?」


「ごめん」


一季君は、僕の話に泣いていた。


「人から見たら、普通で平凡な4人家族だったと思う。」


「うん」


「でも、実際は違うんだよ。」


「うん」


「父と母は、三人目を望んだ。度重なる流産をしてね。父は、僕が8歳の時から不倫してた。七菜ちゃんって言ってね。16歳だったんだよ」


「えっ?」


「だって、母さんの従姉妹の子供だったもん。」


「そんな…」


「夢子が死んですぐに、父さんは七菜ちゃんと一緒に住んだ。それを僕だけが知ってる。母さんが、精神を病んで1ヶ月入院した時に、その家に行ったから…。」


「それで、お父さんは?」


「僕が、二十歳の時に七菜ちゃんと再婚したよ。今では、二児の父親だよ」


一季君は、複雑そうな顔を浮かべた。


「あのね、一季君のせいじゃないよ」


一季君は、黙って俯いた。


「夢子が死んだのは、君のせいじゃなくて僕のせいだから…」


バサバサと風に揺られて、桜の木が揺れた。


「僕が、あの日君に男だと伝えていたら死ぬのは僕だったんだ。」


桜の花びらが、散っていく。


「犯人も馬鹿だよね。愛されてない僕を殺せばよかったのに…。」


僕は、立ち上がった。


「ねえ。一季君」


「なに?」


「犯人は、未成年で、今も、この世界のどこかで生きているって知ってる?」


「ああ、知ってる」


「だったら、僕をりにきてくれないかな?あの日から、ずっと待ってるんだよ。僕は、ずっと…」



ニコッと僕は、一季君に微笑んだ。


「せっかく、生きてるのにそんな事いっちゃダメだよ。」


「なぜ?」


「夢子ちゃんの分も、生きなきゃダメだよ」


一季君の言葉に僕は、首を横にふった。


「生きてる意味ってなに?」


「何って言われても…」


「答えられないでしょ?」


「それでも、夢子ちゃんは生きれなかったんだ。だから…」


「もう、代わりなんて嫌なんだよ。家には、あの人が居て、毎日夢ちゃんって呼んで髪の毛をとかすんだ。僕は、ずっと夢子を生きてるんだよ。夢子の分なんて、もううんざりなんだよ」


僕は、その場に崩れ落ちた。

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