第19話 ミラクルなんてありえない

 きょう、久しぶりにしろみちゃんの楽曲を聞いてみた。


 未咲「……なんだろ、この感じ」


 春泉ちゃんのことをかぶせてしまっているせいか、もともとこういう歌だったのかすらちょっとわからなくなってきていた。


 未咲「もちろん彼女オリジナルの歌ではあるんだけど……なんだろこれ……」


 おなかの中が冷えていく感じ。むしろあたためようとしているのかも全然知らないけど。


 未咲「……聴くのやめよ」


 コトン、とヘッドフォンを机に置き、気分転換に外に出かけた。


 未咲「は、きょうもよく晴れてる……」


 まだ引きずってるのか、しゃべりかたや声の出しかたすらよくわかってない。


 未咲「い、いつも通り歩いていきたいんだけどな……」


 震えてるような気がしてきた。それは寒さじゃない。もちろん尿意でも。


 未咲「うぅさむっ……やっぱり帰ろうかな……」


 あとから寒さを感じるようになり、そこから先は行けなかった。


 未咲「いつまでこんな感じなんだろ……早く終わらないかな……」


 それもどうだろう……このときはそんなこともあまり感じなかった。


 未咲「そりゃ、春泉ちゃんのことを忘れたくはないんだけど……」


 まだ死というものにどう向き合っていいかわからない。だからこそ忘れたいなんて思ってしまった。


 未咲「ばかばかばかっ……未咲のばかっ……」


 春泉ちゃんみたいに自分の名前を呼んでしまった。これじゃ忘れたくても忘れられるはずなんてない。


 未咲「ことあるごとに思い出すんだろうな、きっと……」


 それでいいのかもしれない。むしろそうじゃないと困る。


 未咲「でもやっぱり、ミラクルなんてないのかも……」


 あの歌の世界のようにこの世界はできていない。べつの世界だと思った。


 未咲「あってもいい、って思わせてくれることはあっても、実際ちょっと違うことってあるはずだし……」


 そう。わたしはもう全部知ろうとしていた。


 未咲「ミラクルなんてない……だけど、現実はずっと陸続きで――」


 そのときだった。


 未咲「あっ、玲香ちゃんからだ」

 玲香「未咲、いい曲ができたわ。譜面にはまだ表せてないけど、いますぐ来てほしいのよ」

 未咲「わかった、すぐ行くね」


 さて、どんな曲だろう。

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