第12話 思い出とともに

 足りないなにかに気づいたハルミはあるとき、中古の商品が売っているお店に足を運んだ。


 春泉「このへんにあるかな……あっ」


 あれだけ人気あったからあるよね、って思ってたらやっぱりあった。


 春泉「はぁぁ……やっぱり進くん好き、すきぃっ……」


 気持ちが昂ってきてしまい、ここにいられないほどの気分になってしまった。


 春泉「トイレいきたい……けど、ここからうごきたくない……」


 息はあがるいっぽうで、どうして自分でもこうなってるかわからない。


 春泉「店員さんにはメイワクかけちゃうけど、ハルミもう我慢できない……」


 ぶるぶるカラダが震えるのと同時に、言いあらわしようもない高揚感に包まれた。


 春泉「ハルミ、ここでおもらししちゃうんだ……」


 そう悟ったことはあったけど、どこかうれしい。写真集の進くんの前でしてしまうことが。できれば本人の前で……ううん、そんな勇気ない。


 春泉「店員さんにばれちゃう……だけどもう……」


 そのとき、かばんを背負って学校に通っていたときのことを思い出した。


 ♦


 春泉「せんせー、おもらしちゃいそうなのでここでおしっこしていいですかぁ?」


 屈託のない笑顔で先生に詰めよるハルミ。間に合わないといつもこうしてた。


 先生「だめよ草津さん! ここでしちゃ!」

 春泉「もうまにあいませーん……えへへ……」


 自らスカートのすそを持ってうれしそうにおもらしする。誰にも見えてない。


 女子「えっ、春泉ちゃんどうしたの?」

 男子「うえっ、なんかすごいにおいするんだけど……」


 鼻をつまむ男子をよそに出し続けると、なんだかそれが心地よくなって……。


 春泉「だめ、もっとだしたいっ……」

 先生「あーもう……保健室、自分でいけるわよね?」

 春泉「はーい、いってきまーす……♡」


 この頃から人前でおもらしするのには多少慣れていた。だから今回も……。


 ♦


 春泉「はぁ……やっぱりキモチいい……」


 すでにおもらしは始まっていて、止めることができない。まだ持ってない進くんの写真集を購入するってここで決めてるから、ぎゅっと胸の前で抱き続けてる。


 店員「あの、お客さま……」

 春泉「ふぁい……?」

 店員「その……大丈夫、でしょうか……?」

 春泉「あっ、これはその……すみません……」


 いまも恥ずかしい水の音がお店の床を叩き続けている。早く止めなきゃ……。


 春泉「だめ、止めようと思えば思うほどでちゃう……見ないで、ください……」


 出したのは自分のほうなのに……ハルミってばあのころから変わってない……。


 店員「すごい音してますけど……」

 春泉「言わないでください……この本はちゃんと買いますので……」

 店員「それならいいですけど……終わったらまた呼んでくださいね?」

 春泉「はい……もうちょっと出したい、です……」


 より一層手に持つ力が加わって、しわがいきそうになっている。新品と違ってむき出しなので、いつくしゃっとしてしまうかわからない。もうなってるかも……。


 店員「わかります、わたしもよくおもらししますので……」

 春泉「ごめんなさい、したくてやっちゃいました……」

 店員「はい……?」

 春泉「その、ハル……わたし、この人が大好きで、じっと見てるとつい……間に合わなかったわけじゃなくて、自然と気分が高まっちゃったというか……」

 店員「そうですね、わたしもよくしてました」

 春泉「ですよね……ん?」


 まだ終わってない排泄行為中に沸き起こる疑問。もしかしてハルミと同じってこと……?


 店員「わたしの場合好きなカップリングを見つけるとそうなりやすいといいますか……ここでするのも大変恥ずかしい話なんですが……」

 春泉「そう、なんですね……」

 店員「なので尿もれパッドは必須なんですよね……いつそうなるかわからないので……」

 春泉「大変ですね……ハルミもそうしたほうがいいのかな……」

 店員「ハルミさん、とおっしゃるんですか?」

 春泉「はい、ハルミはハルミのこと、名前で呼んでしまうので……」

 店員「面白いです! そういう子いましたよね」

 春泉「ハルミはなんか、自分のことどう言っていいのかわからなくて……気づいたらこうなってて……」

 店員「そういうのいいと思います。わたしにもそんな時期あったのかなぁ」

 春泉「おもらしの話なんですけど……」

 店員「だいぶ落ち着いてきたようですね。お顔もすっきりされて……」

 春泉「お騒がせしました……ハルミはそこまでおもらししないので、パッドはあまりつけないんです……」

 店員「だめじゃないですか! 今回こんなことになっちゃってますよね?!」

 春泉「はい……でもこれつけてるとハルミは人前で簡単におもらししちゃういけない子だってキモチが強くなっちゃうので、あまりつけたくなくて……」

 店員「そこは恥をしのんでつけるべきです! 気持ちいいのに……」

 春泉「えっ、いまなんて……」

 店員「だから……二度も言わさないでください、とにかく気持ちいいんです!」

 春泉「それってどういう……」

 店員「女の人なら一度はつけたことあるはずですよね……まさかのレアケースだったとは……ま、まぁそういう人がいるのはもちろん知ってますけど……」

 春泉「ハルミ、あまりお金もってないので……」

 店員「えっとですね、尿もれパッドとは……なんで書店員がこれ言ってるのかちょっとわからないんですけど、とにかく吸収力抜群なんです!」

 春泉「……それだけ?」

 店員「あとなんでしょう……出したあとのさらっとしたあの感じ! ぜひお客さんにも味わってほしいので、よかったら探してみてはいかがでしょう?」

 春泉「そうですね、考えてみます」


 店を出たあとぶるっと震えてしまい、さっきの店員さんのことばを思い出した。


 春泉「買ってみようかな……」


 なけなしのお金を出して、試してみることにした。


 春泉「いま濡れちゃってるけど……この上につけてみて……」


 残ってる分を出してみることに。ホントなら一枚すらもったいないけど……。


 春泉「あっ、ちゃんとつかえる……今度からこれにしよう……」


 進くんのことを思いながらするおしっこは、特別気持ちよかった。


 春泉「はぁっ……しゅきぃっ……」


 生きがいがそこにある。ハルミにはこれで十分なのかもしれない。

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