第10話 承認欲求よりも向上心!

 真琴「うおおおおおおっ! やるぞ、やるぞーっ!」


 その日、わたしは必死に腕立て伏せをしてた。回数よりも質が重要とは聞いたことがあるけど、きょうのわたしにはそんなこと関係がなかった。


 真琴「これが終わったら、筋トレの成果をネットにあげないと……」


 そう、いつの間にかそれが趣味になっていた。


 真琴「質よりも回数! このほうがみんなに見てもらえるしっ!」


 一心不乱に腕を曲げ続ける。そんなことしてもほとんど無駄なのに。


 真琴「はぁ、はぁ……よし、これでメーターに刻まれた数字を……」


 そう思って記録された機械のほうを見る。なにも映ってない。


 真琴「えっ、いつの間に消えて……」


 電池切れだろうか。それともトレーニング中どこかヘンなところ押して……。


 真琴「くそっ! これじゃ成果をあげられないじゃないか……」


 そうか……わたしはここで気がつく。


 真琴「誰かに認められたいって思うあまり、トレーニングする意味を見失いかけてた……これじゃ健康になるために、人を必要としてるみたいになるじゃないか……」


 本当は自分のため。わかってはいるつもりだったけど……。


 真琴「いつの間にか、自分が自分でなくなっていたなんて……」


 ともかく気づくことができてよかった。このままずるずるやってたらどうなっていたのか、想像するだけでも恐ろしい。


 真琴「筋肉バカになってもしょうがない……あしたからこんなものつけずに丁寧にやっていこう……」


 なかなかここを脱するのは難しいと思う。ひとまず横に置いておくけど、つい手を伸ばしたくなってしまうかもしれない。


 真琴「とりあえず電池は抜こう……そしてそれをべつのやつに使う、っと……」


 やって大丈夫だろうな……念のためやめておくか。


 真琴「あぁっ、こんなに優柔不断だったらまた使いたくなりそうで怖い! わたしはどうすればいいんだ?!」


 頭を抱えてうずくまる。そこまでしなくていいだろって自分でつっこみながら。


 真琴「あしたよ来るな……いや、未来永劫来ないでくれ! あさって以降も……」


 なお湧き上がる向上心の前に、むなしくそう言いつづけるしかなかった。

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