第7話 ちょい短:マッスル芸人

 進「僕がやっておくから、ゆっくりしてて」


 わたし入野未咲はキッチンに立つ進くんにまかせきりになって、ソファにくつろぎながらテレビを見ていた。


 マッスル「どもー! マッスル芸人やらせてもらってますマッスル葉摺はずりです! 『葉っぱ』に『摺る』と書いてはずりと読みます! ですが! ちょっと読みを変えてみると……はい! ハッスルになりまーす! よろしくお願いします!」


 フリップを作りながら説明するテレビに映る芸人さん。どこか懐かしく感じてしまう。それにしても、そっちの読みにしなかったのはなんでだろう……。


 マッスル「マッスルこの前、トレーニングジムに行ったんです。そこでカップルかな? 男女ふたり組を見たんですよ。そしたらいちゃいちゃし始めて……『いやいやいや、ここトレーニングジムだから!』って思いながら見てたんです。そしたらですね、いいですか? キスしながらお互いに親指一本の腕立て伏せを始めたんです! マッスルー!」


 決め台詞を言ったとたん、会場から拍手が湧きおこる。


 マッスル「ありがとうございます! いやー熱い! こっちまでやる気になりそうでしたー! はーい……」


 ならなかったのかな……尻すぼみになっていく速度がすごい……。


 マッスル「はっ!」


 決めポーズをする。この時間いる人にはいるんだろうな……ほとんど静かだけど。


 マッスル「どもー! マッスル芸……」


 繰り返しそうになったところで幕がおろされた。これなんだったんだろう……。


 未咲「なんか怖いね、筋肉って……」

 進「未咲ちゃん?」

 未咲「ううん、なんでもない……きょうはもう寝ようっと……」


 これからの人を見ると応援したくなる。まるで進くんを見ているようで。ちょっと疲れるけど……。

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