第35話:塞翁失馬4
俺はジェラルド王国の宰相として、ダウンシャー王国はもちろん、人質にした各貴族士族家にも賠償金と身代金の支払いを要求した。
貧しいダウンシャー王国が、賠償金も身代金も支払わないのは最初から分かっていたが、これも報復侵攻するための事前儀式のような物だ。
ただ、ここで、いい意味で驚きがあった。
そうなればいいなと思っていた可能性が実現した。
全貴族士族が賠償金と身代金の支払いを拒否する可能性も考えていたが、数十家の貴族士族家が応じてきた。
しかもその中には、何年何十年かかっても賠償金と身代金を支払わせてもらうので、どうか臣下に加えて欲しいと言う家まであった。
先見の明があると言うべきか、それとも現実を見つめるだけの目があると言うべきか、不運な状態で運を掴もうと努力できる者がいた。
そんな将来性のある者達は、できるだけ早くアンネリーゼ殿下の臣下に加えたかったので、急いで一騎当千の姿にさせた上級汎用使い魔を送り込んだ。
「ライアン宰相閣下、今回は軍を分派させるのですか?」
「はい、クリスティーナ伯爵。
私がダウンシャー王国懲罰軍の指揮を執りますので、クリスティーナ伯爵にはこのままフェリラン王国併合軍の指揮を執っていただきます」
俺はこれからの事を考えて、急いで爵位制度を変えただけでなく、クリスティーナに伯爵の地位を与えた。
クリスティーナが手に入れた領地の広さと生産力を考えれば、侯爵にしてもおかしくはないのだが、段階を踏んだ方がやっかまれない。
これからフェリラン王国を属国にするという大手柄を立てるのが分かっているのだから、爵位を上げるのはその時でいい。
俺がダウンシャー王国に送り込むのは、魔力や命力の蓄えられていない、空の予備魔晶石や魔法石を複数持つ使い魔だ。
俺も何の罪もない他国の平民を殺す気などない。
領主に無理矢理徴兵された平民兵を殺すのは嫌だ。
だが、殺さずに物理的戦闘で勝つのは難しい。
そこで魔力と命力を奪って昏倒させる事にした。
そうすれば空の魔晶石や魔法石を満タンにできる。
民を殺すことなく利を得られるのだから、一挙両得と言っていい!
もちろん、集めた魔力は適度に使わないと無駄になってしまう。
ダウンシャー王国も国をあげて戦いを挑んで来るのだから、兵数がとても多い。
集められる魔力と命力は莫大な量になるだろう。
魔力と命力を無駄にしないために、俺は新しい使い魔を創っていた。
土木作業、特にオアシス造りに重点を置いた使い魔だ。
もちろん自衛できる程度の戦闘力は付与している。
これまで俺が出会った、この時代最強騎士の10倍くらいの強さしかないが、最低限の自衛はできる。
土木使い魔に、アンネリーゼ殿下に忠誠を誓った貴族士族領にオアシスと草原地帯を造らせるのだ。
単に造るだけでは、無力な人間に金銀財宝を与えるだけ、悪人に襲われる原因を押し付ける事になってしまう。
もちろん一騎当千に変化させた使い魔を送っているから、実戦になれば最終的に勝てるのだが、勝つまでに結構な被害が敵にも味方にも出てしまう。
そんな事になったら、俺の不完全な良心が痛むので、敵が攻め込む気になれないくらいの目立つ戦力を駐屯させる。
目立つ戦力と言えは、恐竜軍団以外にない。
特に超巨大草食恐竜軍団を草原地帯に集めるなら、餌の肉を確保する必要もない。
ついでに羊や山羊を放牧すれば、味方の食生活も改善できる。
国境から侵攻させたダウンシャー王国懲罰軍は、アンネリーゼ殿下に忠誠を誓った貴族士族領を繋ぐような進路を取る。
最初に使い魔軍が無人の野を征くようにダウンシャー王国軍を蹴散らし、抵抗できない状態にしておいてから、オアシスを造る。
オアシスが完成したら、砂漠地帯から草食恐竜をオアシスに誘導する。
できるだけ大きな草食恐竜を集めるようにしたが、数を揃えようと思えば、どうしても中小の草食恐竜も混じってしまう。
オアシスで養い切れない草食恐竜は、殺して食料や素材にするから、無理に追い払う必要もないので、大型草食恐竜を集めるついでに集める。
もちろんその時に肉食恐竜に出会ったら、絶滅させる可能性がない事を確信させたうえで、狩る。
前世召喚前に食べていた、食用の牛馬に比べれば、吐き気がするほど臭くて硬くて不味い肉なのだが、この世界ではご馳走だ。
民や兵士に支給すれば喜んでくれるし、売ればそれなりの金になる。
実際軍資金に困っていた頃には、せっせと狩って軍資金の足しにしていた。
保存ができないのなら、無駄な殺傷になってしまうが、俺はもちろん使い魔も魔法袋が使えるので、必要になるまで時を止めて保存できる
だから殺して非常用の食料と素材にしてある。
圧倒的な戦闘力の差で、ダウンシャー王国懲罰軍は王都を囲んだ。
王都を囲んだ後は、もう戦おうとする諸侯軍はいなかった。
貴族士族は王家を見捨てたのだ。
だが、1度敵対しただけでなく、賠償金も身代金も支払わない貴族士族を許すわけにはいかない。
それに、王都より遠い場所にもアンネリーゼ殿下に忠誠を誓った貴族士族領があり、彼らだけオアシスを造らないと言う訳にはいかない。
だから、敵対する全ての貴族士族家に賠償金と身代金の支払いを求めつつ、アンネリーゼ殿下に忠誠を誓った全貴族士族領にオアシスを造る行軍を続けた。
もちろん敵王都の包囲を解いたわけではない。
軍を王都包囲軍とオアシス造り軍の2つに分けた。
同時に彼らは魔力と命力を集める軍でもある。
彼らの活躍と駐屯で、俺は労せずに魔力と命力を手に入れられるようになった。
ここで閃いた!
賠償金と身代金も支払ってもらえず、最低限の食料で重労働をさせている捕虜達に、十分な食糧を与えて最大限の重労働をさせて、魔力と命力を提供させるのだ。
元々俺は、平民を虐殺していても、貴族士族なら賠償金と身代金を支払えば許させるという、この世界の慣習が大嫌いだったのだ。
嫌々とはいえ宰相という地位を引き受けたのだ。
この機会と権力を利用して、貴族士族であろうと、どれだけの金を積もうと、簡単には許されない制度を作ろうか?
『爵位制度』
国王 :属国の王
大公 :王家の血を継ぐ王位継承家を持つ者が当主を務める家
公爵 :王家の血を継ぐ王位継承家を持つ者が当主を務める家
侯爵 :大きな領地を支配する、代々続く名門貴族家
辺境伯:他国と領地を接する重要な領地を預かる家
方伯 :敵性上級貴族を見張り、国内の担当地域指揮権を持つ重要な領地を預かる家
宮中伯:領地は持たないが、主君の信頼が厚く伯爵以下に命令権のある大臣
伯爵 :それなりに広く生産力の多い領地を預かる家
城伯 :他国と領地を接していたりする重要な城や都市を1つ預かる家
子爵 :敵性国内伯爵家を見張る家。
男爵 :それなりの領地を預かる最下級貴族
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