第34話:塞翁失馬3

「逃げろ、逃げるんだ!」

「喰われるぞ、喰い殺されてしまうぞ!」

「駄目だ、竜に勝てるわけがねぇ!」


 クリスティーナ宮中伯が全責任を持ってマティルダ王女に援軍を送ると言うのなら、俺に否やはない。


 毎日趣味に飽かして創り続けた最強使い魔達がいる。

 人間の騎士など足元にも及ばない汎用使い魔達もいる。

 彼らを引き連れてフェリラン王国に転移した。


 殺された人々を蘇らせる事も、踏みにじられた人の尊厳も取り返す事はできない。

 だが、奪われた金品を取り返す事はできる。

 殺してしまう事は簡単だが、それではこちらに利が少ない。


 どうせ戦うのなら、最大限の利を手に入れたい。

 そのためには殺すよりも捕虜にした方がいい。

 俺の使い魔達なら、魔力と命力奪って捕虜にする事など簡単だ。


 何も死傷させるだけが勝つ方法ではない。

 魔力と命力を奪える使い魔がいるのだから、奪って勝てばいい。

 奪えば奪うだけ俺の使い魔が強くなる。


 奪われた金品だけでなく、彼らの武器や防具を奪った。

 生きたまま捕らえたから身代金を請求した。

 ダウンシャー王国軍が占領していた土地を俺達が再占領した。


 それだけでなく、まだダウンシャー王国軍が占領していなかった、3王女の側近や王家王国の直轄地も占領した。


 今回の総司令官はクリスティーナ宮中伯なので、全軍が俺の竜と使い魔だとしても、宮中伯にも領地を割譲しなければならない。

 これで彼女も領地を持つ伯爵や侯爵に成れる。


 クリスティーナ宮中伯はアンネリーゼ殿下を背景にした権力だけでなく、戦力と財力も手に入れたのだ。

 彼女に権力を移譲したい俺からすればとても順調だ。


 ここまでは全て軍を派遣する相談をしていた時に予定した通りだった。

 だが、全く予想していなかったことが、相談直後に起きてしまっていた。


「私も行く、絶対に行く。

 ライアンとクリスティーナが行ってしまうのに、私だけ残るのは絶対に嫌。

 私が主君なのだよね?

 私が言う事を聞いてくれるのよね?

 これだけは怒られても聞かない!

 絶対に2人について行く!」


 侍女から俺とクリスティーナがフェリラン王国に行くと聞いたアンネリーゼ殿下は、普段の聞き分けの好さをかなぐり捨てて駄々をこねた。


 1番信じている母代わりとも言えるクリスティーナと、俺が自分で言ってしまうのはとても恥ずかしいのだが、殿下が1番苦しい時に手を差し伸べた俺。

 その2人が同時に側からいなくなるのが耐えられないのだろう。


 寂しく恐ろしかった時の事を思い出してしまって、絶対に信用できる最強使い魔達がいても、ベレスフォード城で待つことができないのだろう。


 そこまで慕われてしまうと、王女なのだから、侍女や侍従が沢山いるのだから、ベレスフォード城で待っていなさいと言えなくなった。


 もう大丈夫だと思って、2人でフェリラン王国に行く事を計画したが、まだ早すぎたようだ。


 だから、全ての戦いにアンネリーゼ殿下が加わる親征という事になっていた。

 親征をする以上、殿下がいる事を最大限活用しなかればいけない。

 殿下の名声を大陸中に響かせなければいけない。


「マティルダ、貴嬢はアンネリーゼ殿下に永遠の忠誠を誓うか」


 俺達の前には跪き首を垂れるマティルダ王女がいる。

 だが、アンネリーゼ殿下と同じ王女としては遇さない。

 あくまでも臣下の1令嬢として扱う。


 本来なら、悔しがるはずの本人も側近達も諦観の態度だ。

 超巨大草食恐竜軍団と肉食恐竜軍団、更に使い魔軍団という、圧倒的な戦力差に、意地も誇りも粉々に砕けているのだろう。


「はい、アンネリーゼ殿下に永遠の忠誠を誓わせていただきます。

 これからは殿下の忠実な騎士として、殿下に従わない者達を討ち平らげる事を誓わせていただきます」


 もう少し強く確認させておいてもらおう。


「マティルダ、それは個人としての誓いなのか?

 立場や地位が違っても、もし王位を継ぐことになっても、アンネリーゼ殿下に永遠の忠誠を誓えるか?

 偽りを口にしていたら、この場で命を失うと思え。

 誓いを破ったら、俺の魔術が発動して死ぬことになるが、それでも誓えるか?!」


「誓えます!

 城を出て民を助ける決断をした時から、アンネリーゼ殿下に永遠の忠誠を誓う心算でした。

 ただ1つ、運命を恨むとしたら、我が国がライアン宰相閣下を失った事です。

 ライアン宰相閣下が我が国に残ってくださっていたら、このような事にはならなかったと、王とチャーリーを恨むばかりでございます」


「チャーリーを恨んでいるようだが、復讐させるわけにはいかない。

 あいつらには、ダウンシャー王国に攻め込む大義名分になってもらわなければいけないからな」


「ライアン宰相閣下、そんな話しは聞いていません!」


 クリスティーナ辺境伯が俺とマティルダの会話に加わってきた。

 

「ああ、言っていなかったからな」


「これ以上戦線を広げる気ですか?!

 ライアン宰相閣下の戦略に私が口出しするべきではないのは分かっています。

 分かってはいますが、できる事なら、戦線を広げるのではなく、リンスター公爵一派を滅ぼす事に力を注いでもらいたいのです」


「ライアン、父王陛下の仇は何時討ってくれるのだ?

 我儘を言うつもりはないが、何時ぐらいになるかは教えて欲しい」


「何の心配もいりません、アンネリーゼ殿下。

 殿下がこの国を属国に置く事を決断してくださったので、来年までには先王陛下の仇を討てると思います」


「本当か?

 本当に父王陛下の仇を討ってくれるのか?」


「はい、御約束いたします。

 ダウンシャー王国に攻め込むのも、先王陛下の仇を討つ為でございます」


「それはどういうことなのですか?

 何故戦線を広げる事が先王陛下の仇を討つ早道になるのですか?」


「クリスティーナ辺境伯にも覚えておいていただきたいのだが、アンネリーゼ殿下がこの国を属国にされた以上、民を護る責任が発生するのだ。

 民を護りきれなければ、殿下の汚点になるのだ」


「そうでした、単に国土を得ただけではなかったのでした。

 後々の公正な統治も殿下の大切な役目でした」


「私達がリンスター公爵一派を滅ぼそうとしたら、必ず死に物狂いで抵抗します。

 その1つの方法に、近隣諸国に領地を割譲すると言う方法があります。

 欲に目がくらんだ近隣諸国に中には、戦力差も理解できずに攻め込んでくる国も現れますし、その機に乗じて恨みを晴らそうとする国もあります。

 最近殿下に忠誠を誓った者の中には、裏切る者も出てきます。

 それでも、1度属国にした以上、民を見捨てる事は許されません」


「リンスター公爵一派を滅ぼす前に、必ず攻め込んで来るであろう、ダウンシャー王国を臣従させようと言うのですか?」


「いえ、臣従させてしまったら、ダウンシャー王国の民も護らなければいけなくなりますから、臣従させません。

 絶対に攻め込んで来られないように、徹底的に叩くだけです」

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