第26話:亡命

 そもそもの原因は、俺がフェリラン王家の恨みを買っていた事だ。

 きっかけは、俺が広大な領地を手に入れた事だ。

 止めは、実家のラスドネル男爵家が弱小だった事だ。


 侯爵達が寄って集って脅せば、簡単に言う事を聞くと思ったようだ。

 俺が手に入れた領地を寄こせと言っても、抵抗もできずに簡単に渡すと考えるとは、馬鹿としか思えない。


 どれほど運がよかったにしても、全く何の実力もなしに体1つで他国に乗り込んで、2つの辺境伯領と1つの侯爵領を奪えるはずがない。


 そんな当たり前の事も考えられない愚か者が集まった派閥だから、これまでは碌な影響力もなかった。


 それが、俺がチャーリー王子と王子を担ぐ主流派閥を壊滅させた事で、一躍表舞台に出てしまい、能力に相応しくない権力を手に入れる事になった。


 今まで馬鹿にされ続け、国内貴族の中で何の影響力も持っていたかったのに、急に影響力を手に入れて暴走しているのだ。


 その所為で苦しんでいる弱小貴族や士族が数多くいると聞いている。

 中には娘を差し出せと命じられた者までいると聞いている。

 手加減が必要な連中でない事だけは確かだ。


 だから、こちらの都合による力加減以外は何の遠慮もしなかった。

 近隣諸国やリンスター公爵一派が、こちらの戦力が減ったと勘違いしないように、恐竜軍団は派遣しなかったが、使い魔軍団は派遣した。


 父上とローマン兄上が、フェリラン王国を見限る決断ができるように、ギリギリまで助力するのを我慢した。


 俺を逆恨みするジェイコブ国王とイモジェン王妃が、父上達の苦境を見て見ぬ振りをして、俺を苦しめようする中で、遂に俺の使い魔軍団が動いた。


 相手を殺す事も寿命を縮める事も厭わず、侯爵一派の魔力と命力を奪い、その場に昏倒させた。


 ここでかねてから密かに派遣していたマイケル兄上に、父上とローマン兄上を説得してもらった。


 ジェイコブ国王は忠誠を尽くすに相応しくない卑怯惰弱な王だと。

 ジェイコブ国王を止められない王女達も、止めようともしない重臣達も、命を預けるのに相応しくない相手だと。


 王家に対する忠誠心の強い父上と兄上の気持ちを崩すために、家臣領民が殺されるか奴隷にされる寸前まで待ったことがよかった。


 自分だけの事ならば、諌死する覚悟があった父上だが、逆恨みした国王に家臣領民まで地獄の苦しみを味合わされると理解して、遂に王家を見限る事を決断をした。


 父上の考えが変わる前に、急いでフェリラン王国から脱出させるべく、侯爵一派を昏倒させた使い魔軍団が活躍した。


 無人の野を行くように、フェリラン王国内をラスドネル男爵家の家臣領民を護りながら行軍する。


 もっとも、使い魔軍団の行く手を阻む者は誰1人いなかった。

 俺の実力を正確に把握している者は、城に隠れてやり過ごそうとしていた。

 侯爵一派のやり方に苦しんでいた者達は、密かに喝采をあげていた。


「父上、母上、兄上、よく決断してくださいました。

 暫くはマイケル兄さんが治めるバンバリー辺境伯領でお休みください。

 家臣領民達の疲れが取れたら、父上達に治めていただくファーモイ辺境伯領にご案内させていただきます」


「……マイケル、お前が辺境伯に叙爵されたとは聞いていないのだが」


「私の先日ライアンから聞かされたばかりです。

 私もライアンの領地を代官として預かっているとばかり思っていました」


「だとすると、私が辺境伯領を治めると言うのも冗談ではないのだな?」


「はい、たぶん……」


「ライアン、父親として、息子が切り取った領地を与えられるというのは、忸怩たる思いなのだが、分かっているのか?」


「辺境伯になるのがどうしても嫌だと申されるのでしたら、ローマン兄上に治めていただきますが、それはそれで兄上の矜持が傷つくのではありませんか?」


「それはそうだが……」


「それに、父上と兄上が統治してくださらないと、予定通り竜の放牧地にしなければなりません。

 ラスドネル男爵領から逃げてきた者達に、他の土地を与えるとなると、宰相として誰かの土地を奪わなければいけなくなります」


「そうですよ、父上。

 父親としてライアンの土地を横取りするのは嫌だと申されますが、そんな事を言う方が、ライアンの負担になるのですよ。

 俺だって、ライアンが自力で切り取ったこの地を譲られるのは嫌ですよ。

 だけど俺が断ったら、ライアンはこの国の宰相とバンバリー辺境伯領主の両方をしなければいけなくなります。

 父上は代官として仕えればいいと言われるかもしれませんが、それだと、私が失策を犯した時の責任をライアンが取らなければいけないのです。

 私がファーモイ辺境伯を引き受ければ、失策をした時は、この首を差し出すだけで済むのですよ」


「……そこまで言われたら、引き受けない訳にはいかないな。

 分かった、ファーモイ辺境伯を引き受けよう。

 そこに行けば、家臣領民の土地があるのだな?」


「はい、竜を放牧するために造ったオアシスと草原地帯があります。

 草原地帯を農地に開墾してくださってもいいですし、そのまま羊や山羊を放牧してくださっても構いません」


「オアシスと草原があるのか、治めるのが楽しみな場所のようだな。

 だが、噂ではもう竜が放牧されていると聞いているが?」


「はい、竜は放牧されていますが、それは別のオアシスです。

 それに、放牧されているのは羊や山羊のように草木を食べる竜です。

 縄張りを荒らさない限り襲ってきたりはしません」


「オアシスは1カ所ではないのか?

 2カ所もオアシスがあるのか?!」


「ああ、ええ、その、オアシスは全ての村や町にあります。

 水がないと人は暮らしていけませんから」


「……ライアンが切り取ったアバコーン王国の領地は、全ての住民を移住させたと聞いていたのだが、違うのか?」


「どうしても生まれ育った土地から離れたくないと言う者がいましたので、その者たちが生活に困らないように、オアシスを造ったのです」


「……それだけの数のオアシスを、この短時間に造った非常識は、ライアンの事だから何も言うまい。

 だが、残っている住民が何人いるかは、領地を任される者として、正確に聞いておかなければならない。

 いったい何人の住民が残っているのだ?!」


「正確な数は後で書面にしてお渡しさせていただきます。

 ただ、元の住民がほとんど全員残っていると思ってください」

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