第24話:城下之盟

「ライアン、アバコーン王国が降伏したというのは本当か?」


「はい、本当でございます」


「1国が降伏するのは色々と手続きが必要だと侍従達が申していたぞ?」


「はい、その通りでございます」


「私は何も署名していないが、いいのか?」


「殿下が、あのような下劣な者の相手をする必要などありません」


「ライアンがやってくれるのか?」


「いえ、私が殿下の御側を離れる訳にはいきません。

 アバコーン王国に派遣した使い魔が、私の代理として全ての手続きをしますので、何の心配もありません」


「私はこれまで通りでいいのか?」


「はい、これまで通り、よき女王になるための勉学に励んでいただければいいので、何の心配もいりません」


「ちょっと待ってくれ、ライアン宰相閣下。

 殿下も私もライアン閣下を心から信頼している。

 だが、降伏の条件を知らないと言う訳にはいかない。

 全てを任せているが、内容だけは教えて欲しい」


「色々細かい条件がありますので、紙面にしてご報告させていただく心算だったのですが、クリスティーナ宮中伯殿が心配だと申されるのでしたら、大まかな所だけ口頭でご報告させていただきます」


「余計な手間をかけさせてしまって申し訳ないが、そうしてくれれば安心出来る」


「では、1番大切な所として、アバコーン王国が盗賊に変装した軍に我が国を侵攻させ、民の金穀を奪い、女子供を強姦し、抵抗した男達を殺した事を認めました。

 実行したのはファーモイ辺境伯ですが、ファーモイ辺境伯を全権大使に任命したのはアンドレアス王なので、王の責任として頭を下げさせました」


「1国の王が盗賊を使ったと認めて頭を下げたのですか?!」


「罪を認めて責任を取るか、認めずに竜に喰われるか、好きな方を選ばせましたら、頭を下げる方を選びました」


「……ライアン閣下だけは怒らせたくないな」


「私は温厚な人間ですから、怒らせるにはよほどの悪事を犯さなければいけません。

 だから殿下やクリスティーナ宮中伯殿が気にする必要はありませんよ。

 説明を続けましょうか?

 それとも、もう十分ですか?」


「説明して欲しいと言いだしたのは私の方です。

 聞き始めて直ぐにもういいとは言えません。

 最後までお願いします」


「はい、では、肝心なところだけ纏めて話させていただきますね。

 今回の実行犯であるファーモイ辺境伯とその一族一門は、全員我が国の方で裁く事になりました」


「そうですか、殿下の主権をアバコーン王国が認めたのは何よりです」


「敗戦国に文句を言う力も権利もありませんから、当然の事です。

 大切なのは、アバコーン王国が殿下の主権を認めた事で、近隣諸国も認めなければいけない状況になった事です」


「そうですね、それはとても大きい事ですね」


「それと、ファーモイ辺境伯とその一族一門が手にしていた領地と利権は、全て我が国の物となりました。

 端的に言えば、アバコーン王国内に我が国の飛び地ができた事になります」


「「「「「ウォオオオオオ」」」」」


「お静まりを」


「「「「「……」」」」」


「実際には、我が国と国境を接していた、ファーモイ辺境伯の領地は地続きで我が国の版図となり、地続きでない一族一門の領地が飛び地となります」


「ライアン宰相閣下なら考えておられる事だと思いますが、広がった領地の統治や防衛はどうなるのですか?

 情けない話しですが、任せられるだけの人材がいるとは思えないのですが?」


「クリスティーナ宮中伯殿が心配させるのは当然の事です。

 烏合の衆でしかない我々に、広大な領地を統治するだけの力はありません。

 アバコーン王国が奪還しようと攻め込んでくる可能性もあれば、アバコーン王国の有力貴族が独立を目指して攻め込んで来る可能性もあります。

 殿下の力が増すのを恐れたリンスター公爵一派が、漁夫の利を得ようとこの城に攻め込んで来る可能性まであります」


「そのような場合はどうする心算なのですか?」


「新たに手に入れた領地は、統治しない事にしました」


「「「「「ザワザワザワザワ」」」」」


「統治、しないのですか?」


「統治するだけの力がないのなら、最初から統治しなければいいのです。

 無理な事に手を出して、殿下の守りが薄くなる方が問題です。

 ですから、新たに手にいれば領地は、竜の放牧場にします」


「「「「「なっ?!」」」」」


「竜の、竜の放牧場ですか?!」


「はい、恐ろしい竜が、大切な卵を育てている場所と知って、攻めようと思う愚か者はいないでしょう?」


「確かに、その通りではありますが、民は、民はどうするのですか?」


「ここに移住を希望する者は迎え入れます。

 アバコーン王国に残りたい者には、好きな所に行ってもらいます。

 これで此方は全く戦力を減らすことなく、リンスター公爵一派の殲滅に専念できますので、ご安心ください」


「そう、ですか、そう、ですね。

 私達が1番大切にしなければいけないのは、先王陛下の仇を打つ事でした。

 僭王に奪われた国土を取り返す事でした。

 他国に得た領地などに目を奪われてはいけないのでしたね」


「はい、1番大切な事、当初の目的を忘れてはいけません。

 それと、領地だけでなく、莫大な賠償金も手に入れることができました。

 ファーモイ辺境伯の一族一門が溜め込んでいた金銀財宝だけでなく、責任者であったアンドレアス王からも賠償金を支払わせました」


「……それは、侵攻の賠償金でしょうか?」


「はい、侵攻の賠償金もございます」


「賠償金だけではないのですね?」


「はい、王を1度捕虜にして我が軍の陣中に連行しました。

 最初は詫びを言わなかったので、竜に体を咥えさせて甘噛みさせました。

 一緒に連行していた王族と家臣達の前で、粗相をした上に泣いて謝りましたので、王城にある全ての金銀財宝と引き換えに解放して差し上げました」


「……私は、ライアン宰相閣下には絶対に逆らいたくありません。

 お前達が何かしても、絶対にかばいませんからね!」


「まだあるのですが、もう話さない方がいいですか?」


「ライアン宰相閣下に嫌われたくないですから、最後まで聞かせていただきます。

 他にどのような条件を出してアンドレアス王を許してあげたのですか?」


「大したことではありません。

 卑怯下劣に加えて憶病な所まで見せてしまったアンドレアス王に仕え続けたくないと言う貴族士族が、主をアンネリーゼ殿下に変えたいと言ったら、邪魔しないと言う条件です」


「「「「「なっ?!」」」」」

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