第23話:脅迫交渉

「アンドレアス国王陛下より新たな全権大使に任じられました、ロッシュ宮中伯ダーヴィットと申します。

 謁見を許して頂けた事、心からお礼申し上げます」


「軍を盗賊に偽装させて、他国の村々を襲い、略奪や強姦をやらせるような国王の使者と会うのは反吐が出るほど嫌だが、1度くらいは会わないと我が主君アンネリーゼ殿下の評判にかかわるからな」


「恐れながらもうし……」


「ファーモイ辺境伯や2人目と同じような言い訳をくり返すのなら、謁見を打ち切って城から叩き出す!

 今アンドレアス国王が新たに任命しようとしている、4人目の全権大使がこの城にたどり着く前に、国王が竜の糞になると思え!」


「「!」」


 2人目と3人目の全権大使が息を飲んで黙り込んだ。

 周囲をよだれを垂らす肉食恐竜達に囲まれた状態では、俺がはったりを言っている訳じゃない事くらいは理解できるだろう。


「さて、もう後5日も経たないうちに、俺の竜軍団が貴国の王都を包囲する。

 もう侵攻を邪魔しようとする貴族士族は1人もいない。

 この状況で、卑怯な行いを詫びもせず、アンネリーゼ殿下非難するような連中に、一片の憐憫も必要ないと思っている。

 貴公達には、このままベルンハルト殿下やファーモイ辺境伯と同じ牢に入ってもらい、竜の糞となったアンドレアス国王に会ってもらってもいいのだぞ?」


「全てはそのファーモイ辺境伯が勝手にやった事でございます。

 アンドレアス陛下は何も御存じなかったのでございます!」


「そのファーモイ辺境伯に全権を渡したのは他の誰でもないアンドレアス陛下だ。

 失敗したらファーモイ辺境伯に責任を押し付け、成功したら我が国の領地を奪う気だったとしか思えない」


「そのような事は決してございません。

 本当にファーモイ辺境伯が勝手にやった事なのでございます。

 我が国で厳罰を下させていただきますので、御引き渡し願いたいのです」


「アンドレアス陛下は、自分がやらせた証人を奪うと申されるのか?

 やはり卑怯下劣な方だったのだな。

 これでは死んでいただく以外、アンネリーゼ殿下の名誉と誇りを保つ方法はない。

 まあ、ハミルトン王家も、大陸の歴史上初めて一族を竜に喰い滅ぼされた存在として、燦然と名を残せるのだから、それもある意味壮挙であろう。

 2人の全権大使殿を牢に御案内しろ。

 家臣の方々は、竜がお腹を空かしている頃だ、羊の代わりになっていただけ」


「お、お、お待ちを!

 どうか、どうか、どうかお待ちください!

 この通り、この通り詫びさせていただきます!

 ですから、陛下と家臣を竜に食べさせるのだけはお待ちください!」


 3代目の全権大使は2代目よりは腹が座っているようだ。

 いや、竜を恐れた国王が与えた権限の違いかな?

 3代目は詫びる許可を与えられているのかもしれないが……


「その詫びは、個人的な詫びかな?

 それとも、全権大使としての詫びかな?

 全権大使としての詫びなら、国王の命令で兵を盗賊に偽装させて襲わせた、極悪非道な行いを認めるのだな?」


「それは……」


「うやむやにして、今回の件を誤魔化そうとしても、もう手遅れだぞ。

 こちらとしても、腹を括って竜を向かわせたのだ。

 幾ら幼君を奉じる俺が独断でやったとは言っても、竜に他国の王族を喰い殺させると言う、極悪非道な方法を使っているのだ。

 アンネリーゼ殿下に名誉に傷がつく事は避けられない。

 まだ基盤の弱い殿下に、1兵も無駄に死傷させる余裕はないのだ。

 貴国は、その状態の殿下に対して、盗賊に偽装させた軍に民を襲わせたのだ。

 もう2度とそのような事を行う下劣な者が現れないように、仁君の評価を捨てていただき、暴君の汚名を着ていただいているのだ!

 いい加減な交渉で俺が引くと思うな!」


 俺がその気で殺気を放ったから、2人の全権大使は大小便を垂れ流して卒倒した。

 そのままの状態で、ファーモイ辺境伯と同じ牢に叩き込んでやった。

 目を覚ました時には、思いっきり落ち込むだろう。


 いや、全ての元凶であるファーモイ辺境伯を逆恨みして怒りを叩きつけるかな?

 あるいは殺して証言できないようにするかな?

 まあ、どちらにしても見張りの使い魔が止めてくれる。


「2人の随行員には、竜の餌になりたいか、全てを話して捕虜になりたいか、選ばせてやってくれ」


「はぃいいいいい、そのように伝えて参ります!」


 この侍従、運がいいのか悪いのか分からないな。

 こんな恐ろしい伝言をさせる時に限って当番が当たっている。


 当番の入れ替わりや顔触れを考えると、不当に長い当番をさせられている訳ではないし、使い魔からもそのような陰湿な虐めがあるとの報告もない。


 どう考えても何かの引きがあるのだろう。

 ちょっと気を付けて育成してやろうかな?

 自分でやらなくても、育成担当の使い魔に命じておけばいいだろう。


 そんな事よりも先に考えておかなければいけないのは、アバコーン王国とフェリラン王国以外の近隣諸国の動きだ。


 俺が肉食恐竜軍団をアバコーン王国に派遣した事で、戦力的に苦しい状態だと勘違いしているようだ。


 愚か極まりないのだが、今なら国境を接している部分に侵攻し、領地を奪い取れると欲をかいているとしか思えない会議を重ねている。

 さて、どうしたものだろうか?


 使い魔を増やして撃退するだけなら簡単だ。

 ただ、戦力を出し惜しみすると、更に勘違いして戦力を逐次投入して、戦争が拡大してしまうかもしれない。


 少しでも死傷する人間を減らすなら、各国境沿いに1番迫力のある肉食恐竜軍団を配備する事だが、そんな事をするには多くの家畜が必要になる。

 

 それに、リンスター公爵一派を刺激する事になり、無用な死傷者を出す内戦が望まに時期に勃発してしまうかもしれない。


 超巨大草食恐竜軍団を砂漠地帯から集める方法もあるが、そのためには、リンスター公爵一派の支配している地方に豊かなオアシス地帯を造らなければいけなくなる。


 この国の自然環境を一変させてしまったら、大陸にどのような影響を与えるのか想像もつかない。

 いい影響ばかりではなく、悪い影響もあるだろう……


 俺にこんな悩みを与えやがって!

 全部アバコーン王国が悪いのだ!

 これ以上悪足搔きするようなら、本当に喰い殺させてやろうか?


 いや、駄目だ、これ以上やったら悪夢に殺されかねない。

 悪夢を見なくなる魔術が完成するまでは、自重するべきだ。

 だとしたら、どのような方法が最適なのだろう?

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