第22話:2代目と3代目

「宰相閣下、アバコーン王国の全権大使殿がしつこく謁見を求めております」


「放っておきなさい。

 向こうが先に侵略してきたのです。

 私達は報復のために竜を送っただけです。

 不利だからと使者を送ってきたからと言って、会わなければいけない義務などなく、会うか会わないかはこちらが決める事です」


「分かりました、そのように伝えます」


「ああ、それと」


「はい、何事でしょうか?」


「もし全権大使一行が、殿下の民に僅かでも傷を負わせるような事があれば、追加の竜を送って、全権大使一行の家族を喰わせると伝えておいてください」


「わっ、分かりました!

 ひと言一句間違えずにお伝えしてまいります」


 間違って伝えたら、自分の家族も恐竜の餌にされると思ったのだろう。

 伝言に来た侍従の1人が慌てふためいて戻っていた。


 あれだけ恐れているのなら、伝言ゲームで言った事とは違う内容が、2代目全権大使に伝わる事はないだろう。


 伝言ゲームのせいで、1国の王族が恐竜に皆殺しにされるなど、ちょっと笑えない失敗だからな。


 アンネリーゼ殿下の傷になるような失敗は、絶対にやらせない。

 侍従や侍女が楽するための仕組みは全部改変する。

 侍従や侍女が緩まないように、厳しい罰を設けておく。


 今はまだ侍従や侍女の大半は使い魔になっている。

 10日前の大粛清によって、人間の侍従や侍女が激減してしまった。

 新人を大量採用したが、まだ何の役にも立たない見習いだ。


 だがいずれは、全て人間の侍従と侍女にしたい。

 殿下には、俺の使い魔に頼らない、この世界の普通に生きてもらいたい。

 まあ、心配性で憶病な俺だから、影供の使い魔を付け続けるだろうが……


「宰相閣下、全権大使殿がどうしても会っていただきたいと懇願されています。

 なりふり構わず、会ってもらえなければ門前で自害すると言っております」


 色々考えながら趣味の使い魔を創っている間に、結構な時間が経っていたようで、先ほど2代目全権大使を脅迫するように言いつけた侍従が戻ってきていた。


「自害したいのなら好きにして頂いて結構ですと伝えてくれ。

 ただ、門前を汚した分だけ貴国の王が苦しんで死ぬだろうと伝えてくれ」


「はぃいいいいい、そのように伝えて参ります!」


 謁見の間から放り出されて10日も経つからな。

 このまま殿下や俺に会えもせずに、自国の王族が皆殺しになるような事があれば、無能の烙印を押されるだけでなく、遺臣達から命を狙われるからな。


 初代全権大使のファーモイ辺境伯一族も国王の側近達に恨まれているだろうが、俺が全員捕らえているから、恨みのはけ口がいない。

 2代目全権大使の一族が狙われるのは結構早いかもしれないな。


 侵攻軍に加わっている使い魔達からの報告では、もう進軍の邪魔をしようとする貴族士族はいないらしい。


 まあ、邪魔をしようとした貴族士族が全員捕虜にされてしまい、家が傾くほどの身代金を支払う事になったのだから、当然と言えば当然だ。

 誰だって自分の身が1番大切なのだ。


 まして完全王政とは言い難い、地方領主に武力も権力のある状態なのだ。

 忠誠を尽くしても報いてくれない王家に仕え続ける貴族士族はいない。


 今回我が軍の邪魔をしようとしていたのは、比較的中途半端な力しかなく、王家につく事で近隣の有力貴族に対抗していた連中だ。


 その連中の兵力が激減して財政も傾いたのだから、これを契機にアバコーン王国が戦国乱世に戻る可能性も高い。


「あのう、申し訳ないのですが、宰相閣下、宜しいでしょうか?」


「構わないぞ、また2代目全権大使が騒いでいるのか?」


 また趣味の使い魔創りに熱中している間に時間が経っていたようだ。

 申し訳なさそうに先ほどの侍従が扉の外から声をかけてきた。


「それが、新しい全権大使を名乗られる方々が門前に来られて、先に全権大使を名乗られていた方々と言い争いをされておられます」


「ああ、あの連中がやってくるのは知っていた。

 最後の行程を不眠不休で急いだのだな。

 見張らしていた者達には、民に被害を与えなければ報告しなくていいと言ってあったので、到着まで報告がなかったのだろう。

 新しい全権大使だからといって、会ってやる義理はない。

 卑怯下劣な国の使者とは会わないと言って追い払え」


 侍従達に俺が見逃したと思われてしまったら、愚か者の中には俺を舐める奴が出てきてしまうかもしれないから、しっかりと理由を話しておく。


 俺だって好きで愚か者を罰している訳ではない。

 侍従や侍女の役目が向いていないのに、利や欲に釣られて志願するから、性悪な性格を暴かれて罰を受ける事になるのだ。


 最初から多少の性悪が許される仕事を選べばいいのだ。

 権力や武力を預かる役目に、私利私欲は絶対に許されないのだ。


 早めに解雇してやる方が親切かもしれないが、それでは殿下に奸臣佞臣悪臣を見抜く練習をしてもらえないし、悩む。


「はい、直ぐに追い払うように伝えて参ります」


「ああ、それと、2人の全権大使に、門前を血で汚すような事があれば、その分国王や王妃が苦しみながら竜に喰われると伝えておいてくれ」


「はぃいいいいい、そのように伝えて参ります!」


 使い走りになってしまった侍従が、慌てながら城門の方に走って行った。

 小山の上にあるこの城から、都市部の最外部にある外壁城門まで行くのは、結構大変だろうな。


 確かこれで3往復めだったと思う。

 伝令用の侍従馬車を使うだろうが、それでも大変だ。

 特に俺が怒っていると思えば、少しの休息も取れないだろう。


 それにしても、アバコーン王国のアンドレアス王は焦っているようだな。

 王城に入り込ませている使い魔の報告では、4人目の全権大使も準備している。


 五月雨式に条件を悪くするよりは、最初から思い切った譲歩をする方が足元を見られずにすむのに、そんな事も分かっていない。


 今まで圧倒的な戦力と謀略で強気の交渉しかした事がないのだろう。

 あるいは、最初の全権大使であるファーモイ辺境伯に頼り切っていたかだな。


 ファーモイ辺境伯も成功を積み重ね過ぎて、若い頃の慎重さを失ってしまったのかもしれないし、才能がつきたのかもしれない。

 あるいは、思い上がってしまったかだな。


「あのう、宰相閣下、何度も申し訳ありません」


「ああ、構わないぞ、全権大使達がどうしても会いたいとごねているのか?」


「はい、その、3人目の全権大使殿が、国王からの親書を預かっているので、どうしてもお会いしたいと言って門前から動かないのです。

 城門を使う者達の邪魔になって困っております」


「分かった、明日2人の全権大使と会うから、謁見に相応しい服装と態度で来るようにと伝えてくれ。

 態度が悪ければ、謁見の間に入るまでに、首と胴を斬り離して城から放り出すと念を押しておいてくれ」


「はぃいいいいい、そのように伝えて参ります!」

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