第21話:2代目全権大使

 アンネリーゼ殿下に仕える者達のクリーニングを行った。

 誰が密偵で誰が金に転んだかは前々から分かっていた。

 粛清するのは殿下の勉強になる時にと思って、今日まで待っていた。


 ただ、侍従長を脅かしたように、直ぐに一族一門を恐竜に喰わすわけではなく、これも最良のタイミングに行う事になっている。


 色々なケースが考えられるが、1番は密偵や刺客を放ってきた敵、隣国やリンスター公爵一派を威圧出来る時だ。


 まずは密偵や刺客を捕らえて自白させたと通告する。

 その上で、報復を行うべきなのだが、1番効果があるのはどの方法だろうか?


 こちらが損害を受ける可能性がある事はできない。

 こちらにそんな余裕など全くない。


 普通に考えれば、肉食恐竜軍団を越境させて襲わせるのが1番精神的な威圧になるのだが、これ以上人間を喰い殺させるのは、俺の神経が持ちそうにない。


 民を殺すことなく、敵に報復する方法。

 できる事なら少しはこちらに利のある方法……

 使い魔軍団を送って魔力と命力を奪う事しかないか?


 それまでは時間も魔力もあるし、また趣味を全開にした使い魔を創ろうか?

 などと言いながら、実際には毎日1体は創っているのだが、もっと本気で魔力と手間を投入した、俺史上最強の使い魔を創ろうかな?


「宰相閣下、入って宜しいでしょうか?」


「ああ、いいよ」


「失礼いたします。

 アバコーン王国からの使者が来られたのですが、いかがいたしましょうか?」


「俺が対応するから、殿下には休んでいてもらう。

 使者が来た事だけ伝えて、俺が対応するから心配いらないと伝えておいてくれ」


「承りました。

 閣下は謁見の間で使者とお会いに成られるのですか?」


「ああ、俺の護衛は側近がやるから、お前は殿下の所に報告に言ってくれ」


「はい、では直ぐに行ってまいります」


 粛清の嵐を乗り越えた、良心と忠義の心で殿下に仕える侍従が戻っていった。

 侍従と侍女の人数は激減してしまったが、1人も残らなかった訳じゃない。


 残った精鋭に、新たに召し抱える者達を鍛えてもらう。

 俺が知能を組み込んだ使い魔だと、この世界の細やかな常識に欠けている。

 俺流は教えられるが、殿下の好みは教えられない。


 いや、バルバラをはじめとした、殿下専属の最強使い魔達と殿下専属の側仕え使い魔達なら、殿下の好みを完璧に把握しているだろう。


 あいつらに侍従と侍女の教育をやらせてもいいな。

 などと考えていたら、いつの間にか謁見の間に辿り着き、土下座に近い平伏をしているアバコーン王国の全権大使の前にいた。


「おお、お待たせして申し訳ない、2代目全権大使殿。

 そちらが送られた初代全権大使殿が国王に命じられて行った、卑怯下劣な宣戦布告前の侵攻によって、とても多忙でしてな」


「恐れながら申し上げさせていただきます。

 我が国が貴国を侵攻したなどと言う事実はございません。

 言いがかりをつけて不当な侵攻をするのは止めていただきたい」


「ほう、これは流石だ。

 竜に喰われようとしている時に、頭を下げて詫びるのではなく、反省も詫びもせずに逆に脅迫してくるとは、よほどの戦力をお持ちなのでしょうね。

 私もそのような戦力を手にしたいものです。

 ただ、そのような御用件でしたら、私は貴国の行われた卑怯下劣な侵攻後始末で忙しいので、お帰り頂きましょう」


「なっ、私はアバコーン王国の全権大使ですぞ!

 何も話し合う事なく追放するなど、大陸の礼儀に反する事ですぞ?!

 そのような事をして、貴国の評判が地に落ちてもいいと申されるのですか?」


 俺はもう2代目全権大使に返事もしなかった。

 俺の護衛使い魔に、謁見の間から引きずり出される2代目全権大使は、声の聞こえない所まで連れていかれるまで叫び続けていた。


 あんな礼儀知らずをアンネリーゼ殿下に会わせなかったのは正解だ。

 話しの内容も声の質も、殿下の情操教育に悪い。


 まあ、あんな奴でも全権大使に任命されるくらいの才能はある。

 俺の基準ではなく、アバコーン王国基準だが、全くの無能ではない。


 自国と王家の危機的状況は理解している。

 かなりの譲歩を許されているだろうが、自分の評価をあげたくて、できるだけアバコーン王国に都合のいい条件で条約を纏めたいのだろう。


 その間に、どれほど多くの国民が犠牲になってもいいと思っているのだ。

 だが、その犠牲の中に、多くの貴族士族がいる事を理解できているのだろうか?


 国王が初代2代と続いて愚か者を全権大使に任命した事で、莫大な損害を受ける事になった貴族と士族が、王から離反するかもしれないと思わないのだろうか?


 俺の下に就けば、恐竜に襲われることがないと考え、主を替える貴族士族が現れるかもしれないと、想像もできないのだろうか?


 ある程度創造力がある者で、欲望を持っている者なら、俺に味方する事で、アバコーン王国に忠誠を尽くす貴族士族を斃して、領地を拡大できると考えるかもしれない事を、全く想像できないのだろうか?


 まあ、他国がどのような道筋で滅ぼうと俺の知った事ではない。

 今俺がしなければいけないのは、どのような方法で2代目全権大使の心を折るかだが、今いい方法を思いついた。


 まずはもう1度超巨大草食恐竜軍団を放牧しているオアシスに放り込む事だ。

 都市に入る事を許す前に、オアシス草原近くで待たせた。

 その時に超巨大草食恐竜軍団に威圧させたが、もう少し強く脅かしてやろう。


 謁見前の2代目全権大使一行は、草原地帯の外にいたので、超巨大草食恐竜軍団に睨まれただけだが、今回は使い魔達に草原地帯の奥深くに連行するように命じよう。


 そうすれば、縄張り意識を刺激された超巨大草食恐竜軍団が、2代目全権大使一行を縄張りから追い出そうと襲う。

 巨大な恐竜に追いかけまわされたら、並の神経の持ち主ならトラウマになる。


 抵抗する勇敢な護衛もいるだろうが、俺が魔力と命力を探った範囲では、もっと小型で大人しい草食恐竜にも勝てない護衛ばかりだった。


 いや、殿下のもふもふ要員に過ぎない、犬達にも勝てない護衛ばかりだった。

 もふもふ要員の犬であっても、万が一の時を考えて、指導役の使い魔が護衛犬にも成れるように鍛錬しているからな。


 ああ、そうだ、肉食恐竜軍団の行軍速度を早めよう。

 あんな使者を送ってきたアンドレアス王には罰を与えなければいけない。

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