第20話:陰口
「ライアン、ライアンが何の罪もない者を竜に食べさせていると聞いたが、それは本当の事なのか?」
「なっ?!
誰が殿下にそのような偽りを告げ口したのですか?!
バルバラ、お前ならばその者を知っているはずですね?
極刑にしてやりますから、その者の名前を教えなさい」
「まあ、まあ、まあ、そんなに怒る事ではありませんよ、クリスティーナ殿。
人が自分の無能や性悪な本性を棚に上げて、有能で性格の好い者を妬み、陥れようと悪口陰口を主君の耳に入れるのはよくある事です。
アンネリーゼ殿下には、そのような卑怯下劣な者がこの世にいる事を、知ってもらわなければいけません」
「それはそうですけれど、殿下がそのような事を信じられては一大事です」
「何の問題もありません。
殿下の信を失ったのなら、潔く御側を離れれば済む事です。
私に宰相や爵位への執着などないのです。
幼い頃からの夢である、冒険者に戻るだけです」
「ライアン閣下!
殿下!
直ぐに閣下にお詫びしてください!
このままでは閣下に見捨てられてしまいます!」
「悪かった、ライアン。
私が愚かだった。
だから私を見捨てないでくれ。
何処にも行かないでくれ」
「私など些細な存在に過ぎません。
殿下にはクリスティーナ殿がついておられます。
殿下には各国王家が欲する魅力があるのです。
クリスティーナ殿と2人、何処の国に行かれてもちゃんと生きて行けます」
「ライアン閣下!
どうか殿下を見捨てないでください!
閣下に見捨てられてしまったら、殿下はリンスター公爵一派に殺されるか、他国に好いように利用されるだけの一生になってしまいます」
「ごめんなさい、ライアン。
私が悪かったから、ライアン以外の者が言いう事はもう信用しないから、だから私を見捨てて出て行くなんて言わないで!」
「殿下、殿下が奸臣に言葉に踊らされるような事があれば、忠臣が殺され、民が塗炭の苦しみを味わう事になるのです。
その事を絶対に忘れないようにしてください。
忘れられるようなら、次は何も言わずに出て行きますよ。
私は好きでここにいる訳ではない事を忘れないでください」
「分かった、忘れない、絶対に忘れない。
だからずっと側にいて、ライアン」
「では、今回の件を説明させていただきます。
アバコーン王国は、同盟すると見せかけて、我が国の領地を奪おうとしました。
卑怯にも、盗賊を手懐けて我が国の村々を襲おうとしました。
我が配下の竜軍団を使って防がなければ、民はリンスター公爵一派に殺された王族の方々や忠臣の方々と同じ目に会っていたでしょう」
このような説明は、アンネリーゼ殿下の心傷に塩を塗るような言い方だが、こういう例え方をしなければ、幼い殿下に襲われる人々の苦しみは理解できない。
可哀想だが、これも王位を継ぐ者の逃げられない責任だ。
「アバコーン王国は私の民にあのような想いをさせるきだったのか!」
「はい、ですから、それに相応しい罰を与えなければいけません。
普通に命を奪うだけでは許されない罪なのです。
それに、同じような事をしようとする者がでないようにしなければいけません。
自分の命が奪われないのなら、安心して人の命を奪える下劣な者が多いのです。
人の命を奪う者は、同じように命を奪わなければいけないのです」
「竜に人を食べさせるというのは、そういう事なのか?」
「はい、我が国の民を襲う者は、竜に喰い殺される。
そう他国の者に知らせることが、我が国の民を護る事になるのです」
「何の罪もない者を竜の餌にしている訳ではないのだな?」
「はい、殿下の名を貶めるような事は絶対にいたしません」
「では、侍女は何故そのような事を私に言ったのだ?」
「さて、それはこれから取り調べなければ分かりません。
考えられるのは、殿下が幼いのをいい事に、殿下と私の中を裂こうとした。
裂こうとした目的も、近隣諸国が我が国を攻めようとしていた場合もあります。
リンスター公爵一派が、殿下を殺そうとしたのかもしれません。
あるいは、私に代わって宰相に成りたい者がいたのかもしれません。
全ては厳しく取り調べなければ分からない事なのです」
「誰がやらせたのか、調べてくれ。
私に愚かな事を言わせた者を許さないでくれ。
もう、大切な人を失うのは嫌だ。
うっ、ぐっ、うっ、うっ、うっえええええん」
「クリスティーナ殿、殿下を奥で休ませて差し上げてくれ」
「承りました。
バルバラ、殿下のために、もふもふ達を集めて差し上げて」
クリスティーナが最強使い魔達と侍女使い魔達を引き連れて奥に引っ込んだ。
これから俺が行う凄惨な拷問の場から殿下を遠ざけようとしたのだろう。
だが、そのような心配は無用だ。
そのような残虐な真似をしなくても、簡単に自白させられる魔術がある。
それに、奸臣佞臣悪臣も、殿下の教育のためには必要だ。
今回のような、金で敵に寝返る小汚い連中もだ。
そうでなければ、侍女も侍従も近衛も、全員使い魔にしている。
もっとも、人間嫌いの俺は、ジャック以外に人間の側近を置いていない。
まあ、そのジャックも、今は騎士として配下を率いる鍛錬を重ねているから、殆ど俺の側にはいない。
こう考えると、俺は人間失格だと言える。
他人がプライベートの場にいる事が耐えられないのだから。
恋人であろうと家族であろうと、俺が本当に大切にしている空間に入る事が耐えられないのだから、家庭を築くなど不可能な話しだ。
こんな人間が、理想の王を育てようと言うのだから、噴飯物だな。
適当な所で役目を返上して、自由気ままな生活に戻ろう。
ある程度人材を育てて、殿下の安全だけは確保しなければ、気になって自由を楽しめないから、早く自由が欲しければ、スパルタ教育も必要か?
それとも、国境を接する全ての国を、殿下に逆らえないくらい徹底的に叩くのも1つの方法だな。
今回のファーモイ辺境伯の失態は、いい機会かもしれない。
ある程度の所で手を打つ気でいたが、徹底的に叩いておいた方が、後々のためになるかもしれない。
「閣下、ライアン閣下。
疑わしい侍女を全て捕らえました。
本当に閣下直々取り調べられるのですか?」
人間の侍従長が話しかけてきた。
「ああ、竜の餌にするのなら、直々に取り調べなければいけないだろう?
もし無実の者が混じっていたら、連座させられる一族一門の恨みが殿下に行ってしまうから、俺が取り調べて、恨みも俺に来るようにするよ」
「一族一門まで連座させるのですか?!」
「殿下を惑わして失政をさせようとしたのだぞ、絶対に許されない罪だ。
もう誰も同じ事をしないように、厳罰にしなければいけない。
計画を知った妻子や一族一門が、自訴するくらいの厳罰にしなければね。
もちろん、見て見ぬ振りを者もだよ。
成功しても失敗しても自分の利益になると黙っていた卑怯者がもうでないように、一族一門皆殺しにしなかければいけないのだよ。
分かるだろう、侍従長殿!」
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