第19話:弁明

「罠だ、これは全て貴公が仕組んだ罠であろう!

 それでもアンネリーゼ殿下の宰相か?!

 恥を知れ、恥を!」


 自分の失態失策を誤魔化すために、俺を貶めようとする。

 前世召喚前のアメリカの裁判でよく使われた手法だ。

 自分の担当被告人に言い分がない時は、被害者の証人を罵るのだ。


「恥ですか?

 さて、そのような言葉がアバコーン王国にあるとは知りませんでした。

 盗賊団を手懐けて我が国の民から金穀を奪わせ、女子供を犯し、家族を護ろうとする男を殺せと命じた恥知らずが、辺境伯の地位を得ている国にですか?」


「決闘を申し込む!

 そのような名誉を傷つける言葉に対して、貴族として決闘を申し込む!」


 俺が思っていた以上に辺境伯は無能なようだ。


「生憎ですが、我が国の法は、犯罪者が苦し紛れに決闘を申し込むのを禁じていますので、そのような卑怯下劣な手法は使えないのです」


「だったら証拠を見せろ、証人を出せ!

 私が盗賊団を使って貴国の村々を襲わせた証拠と証人を出せ!」


「誠に申し訳ありませんが、貴男方のような小者のために、大切な証拠と証人をこの城にまで連れてくるわけにはいかないのです。

 全ての黒幕である、貴国の王の前で証言させなければいけませんから」


「なっ、なんだと?!

 国王陛下の前で証言させるだと?!」


「何を驚いておられるのですか?

 当たり前の事ではありませんか。

 6人もの仲介者を挟んで証拠や証人が現れないようにしただけでなく、辺境伯軍に盗賊を皆殺しにするように命じられましたね。

 関わった者達は全員捕らえていますから、辺境伯を処刑するための証拠と証人は十分ですが、それだけでは済まされません。

 その辺境伯を全権大使に任命して、我が国の防衛を弱めようとしたのは、あなたの国の国王ではありませんか。

 全ての黒幕は国王だと断じるのが当然の事です」


「まっ、まさか、国王陛下を捕らえようと言うのではないでしょうね」


 今までずって黙っていて、自分は係わりがないと見せかけようとしていた王弟ベルンハルトが、兄王が囚われるかもしれないと知って口を開いた。


「捕らえる?

 そのような手間をかけるほど私は暇ではないのです。

 私にはアンネリーゼ殿下に国を取り返して差し上げると言う役目があるのです。

 卑怯下劣な王など、竜に喰い殺させるに決まっているではありませんか」


「許さん!

 そのような事は絶対に許さん!」


「よくまあ、そのように責任を転嫁できますね。

 貴男が無能で、王の命令通りに我が国を侵攻できなかったから、王は黒幕として竜に喰い殺されるのですよ?

 全ては貴男の無能が原因ではありませんか。

 侵略の全権を任されたのならば、命に代えて成功させなければいけませんよ」


 普段の俺の話し方ではないが、こいつらの心をえぐり、自分達がやろうとしていた事の下劣さを思い知らすには、この言い方の方がいい。


「待ってください、宰相殿。

 これはファーモイ辺境伯が勝手にやった事で、国王陛下は無関係です。

 全ての責任はファーモイ辺境伯にあります。

 煮るなり焼くなり好きにして頂いて結構です。

 ですが、国王陛下に手を出すのだけは止めていただきたい」


「王弟殿下ともあろう御方が、何を愚かな事を口にされているのですか?

 ファーモイ辺境伯は同盟締結の全権大使ではありませんか。

 全ての言動は、アバコーン王国の責任においてなされた事です。

 その悪逆非道、下劣極まりない行いを、国王が責任を取るのは当然の事です。

 まあ、私は国王がやらせたと思っていますから、忠臣のファーモイ辺境伯に断る術などなかったと同情しますがね」


「……違う、違うのだ、ライアン殿。

 全ては私の独断でやった事だ!

 陛下はあのような事を命じられてはいない。

 私が全責任をとる!

 だから陛下を竜に喰わせるような下劣な真似は止めてくれ」


「下劣?

 それを貴男が私に言いますか?

 いやはや、流石忠誠無比のファーモイ辺境伯だ。

 卑怯下劣な国王を庇って、全ての罪を自分で着ると言われるのですな。

 その天晴な忠誠心、感服いたしました。

 ですが、私もアンネリーゼ殿下に宰相を任されております。

 殿下が舐められて黙っているわけにはまいりません。

 殿下が二度と舐められる事がないように、国1つ、竜に喰い滅ぼさせます。

 ただ、忠臣のファーモイ辺境伯殿には特別な計らいをいたしましょう。

 アンドレアス国王の御遺体を引き渡し、弔う許可を与えます。

 もっとも、竜に喰われた後ですから、他の者達と一緒に消化吸収された、無残なお姿になっているでしょうが」


「ウォオオオオオ!

 止めてくれ、お願いだ、頼む、全て俺が悪かった!

 俺はどのような殺され方をしてもしかたがない。

 だが陛下は無関係なのだ!

 全部俺がやった事なのだ!

 頼む、行かないでくれ、お願いだ!

 ウォオオオオオ!」


 さて、1番の悪人にはそれなりの苦しみを与えたが、責任者にも罰を与えなければ不公平だし、言葉にした通り、アンネリーゼ殿下が舐められてしまう。


 アンネリーゼ殿下の安全のためにも、絶対に舐められるわけにはいかない。

 ほんの僅かでも殿下に敵対すれば、生まれてきた事を後悔するほどの報復を受けると、大陸中に広めなければいけない。


 肉食恐竜軍団と使い魔軍団は、予定通りアバコーン王国の王都に向かっている。

 行程的にファーモイ辺境伯領から王都までの半分くらいの所まできている。


 我が国とは違って、貴族や騎士がそれなりに勇敢で、肉食恐竜軍団と使い魔軍団を止めようと戦いを挑んで来るから、身代金がとれる連中を沢山捕虜にできた。


 本気で非情に徹するなら、身代金がとれない連中は、肉食恐竜軍団の餌にしなければいけないのだが、流石にそこまではやれなかった。

 やれたのは、魔力と命力を奪って使い魔軍団のエネルギーにする事だけだ。


 周囲に広く薄く存在する魔力や命力を吸収する事で、使い魔達は半永久的に動き続けられるのだが、生物の魔力や命力を奪った方が効率がいい。


 普段そのような事をさせないのは、やり過ぎたら生物の命を奪ったり寿命を縮めたりしてしまうからだが、捕虜を奴隷として売らずに開放するのなら、それくらいのモノは徴収させてもらわなければ割に合わない。


「ライアン宰相閣下、アンネリーゼ殿下がお呼びでございます」

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