第14話:最強護衛部隊

 王が戴冠するという特別な儀式は、早々簡単にできる物ではない。

 近隣諸国など無視すればいいとは言ったが、最初から無視もできない。

 一応参加を求める体裁だけは整えなければいけない。


 各国の重鎮に参加してもらうのだから、余裕を持って事前に知らせなければいけないのだが、あまりに長すぎると、必ず邪魔が入る。


 国内の敵、リンスター公爵一派ならいいのだが、近隣諸国が戴冠式前に領地を切り取ろうなんて考えると、多くの被害がでてしまう。

 もちろん俺の配下ではなく、近隣諸国の将兵にだ。


 俺は鋼鉄の心を持っている訳ではないので、大量虐殺などしてしまうと、悪夢を苦しむ事になるのだ。

 俺の安眠の為にも隣国が手出しできない状況を作っておきたい。


「アンネリーゼ殿下。

 フェリラン王国と同盟を結びたいのですが、宜しいでしょうか?」


「フェリラン王国はライアンの母国であったな?

 よい、ライアンの母国とは仲良くしておきたい」


「お待ちください、アンネリーゼ殿下。

 ライアン閣下はフェリラン王国のチャーリー王子と敵対されていたはずです。

 王家からとても警戒されているとマイケル殿から聞いております。

 本当にその様な国と同盟を結びたいのですか?

 アンネリーゼ殿下のために無理をされているのではありませんか?」


「本当か、ライアン?

 私のために無理をしているのか?」


「そのような事はございませんので、ご安心ください、殿下。

 確かに私とチャーリー王子との間には因縁がございます。

 ジェイコブ国王とイモジェン王妃は私の事を恨んでいるでしょう。

 ですがそれは私情でございます。

 今回の件は、殿下から大任を任された宰相としての公務でございます。

 無理をしているのではなく、役目を果たしているだけでございます」


「お待ちください、ライアン閣下。

 それが無理をしておられるという事ではありませんか。

 私情を抑え、殿下のために下げたくない相手に頭を下げる。

 そのような事が続いたら、閣下が殿下を恨むようになるかもしれません。

 そのような事が無いように、私情も大切にしてください!」


 クリスティーナは、俺が公務に頑張り過ぎて無理を重ね、アンネリーゼ殿下を逆恨みしてしまうのが怖いのだろう。


 私情を優先し、時には私利私欲に走っても好いから、アンネリーゼ殿下への忠誠心を維持して欲しいと願っているのだろう。

 

 殿下の身近にいた連中が裏切るのを見て、そう思ってしまっているのなら、俺の事を安く見るなと怒るわけにもいかないな。


「大丈夫ですよ、クリスティーナ殿。

 私がジェイコブ国王に頭を下げるとしても、それは国王にではなくフェリラン王国に頭を下げているのです。

 フェリラン王国にはなかなか優秀な王女達がいます。

 彼女達の代になれば、そこそこいい国になるはずです。

 今から関係を深めても損にはなりません」


「ライアン、私はどちらでもかまわない。

 王になれなくても構わない。

 ライアンとクリスティーナがずっと側にいてくれるだけでいい」


「殿下とクリスティーナ殿の思いはしっかりと受け止めさせていただきます。

 今一度よく考えて、殿下の安全を最優先にさせて頂きます。

 ですから、フェリラン王国と同盟するにしてもしないにしても、ご安心ください」


「うん、ライアンがそう言ってくれるなら安心だ。

 ずっと3人でいられるようにしてくれ」


「お任せください。

 クリスティーナ殿も安心してください」


「余計な事を口にしたのは重々承知しております。

 ただ、殿下と私の想いを忘れないでいただきたいのです」


「大丈夫ですよ、絶対に忘れたりしません。

 だから、安心してください」


 女子供は護るべき相手。

 前世で叩きこまれた教えは、そう簡単に忘れなれない。

 だがそれに加えて、安心させてあげるという配慮が抜けていた。


 仕事上の報告連絡相談はやっていた心算だが、家族や友人に対する報連相が十分できていなかった。

 特に女性が相手だと、俺が十分だと考えている量では足りないのだ。


 この辺が人間嫌いだった俺の欠点だ。

 直ぐに直せればいいのだが、苦手の克服などそう簡単にできない。

 そもそも、転生してからの親兄弟に対する態度だって、仕事相手状態だからな。


 自分ができないのなら、誰かに代わってもらえばいい。

 何もかも自分でやろうとするのが俺の悪い癖だ。

 いや、癖というよりは、他人が信用できない俺の小心さの表れだ。


 他人が信用できないからこそ、自分の意のままになる使い魔ばかり創ったのだ。

 人間に被害を出したくないと嘘をついていた。

 本当は他人が信用できないから使い魔を使っているのだ。


 自分の欠点は分かっているが、今直ぐ他人を信用できる性格になどなれない。

 特にアンネリーゼ殿下とクリスティーナを他人に委ねられるのかと言われれば、絶対に委ねられないと即答するだろう。


 だったら、この俺の性格と能力で出来る最善を尽くすだけだ。

 今までは、誰にも見えない形で使い魔に2人を護らせていた。

 だがこれからは、見せつける形で使い魔に護衛させる。


 2人には窮屈な想いをさせるが、鉄壁の護衛部隊に護らせる。

 俺の趣味全開で創り出した、エンシェントドラゴン並の知能と戦闘力を備えた使い魔16体に常時守らせる。


 最強使い魔を1体作るには、魔力的にも作業時間的にも丸1日かかる。

 2人分なら32日は必要だ。

 フェリラン王国に使者を送るのはそれ以降にしよう。


「アンネリーゼ殿下、殿下を御守りする使い魔が完成いたしました。

 エンシェントドラゴン並の知能と戦闘力を備えた、1体で国を滅ぼせるほどの強大な力を持った使い魔です。

 私が側にいられない時には、この者が殿下を御守りします。

 どうかご安心ください」


 俺がそう言ってアンネリーゼ殿下に使い魔の護衛を付けると、殿下とクリスティーナは心から喜んでくれた。


 だが2人以外の者は、使い魔を胡散臭そうに見ている。

 エンシェントエルフのように美しい使い魔が、エンシェントドラゴン並に強いとは信じられないのだろう。


 別に他の誰に信用されなくてもいい。

 アンネリーゼ殿下とクリスティーナの不安が少しでも軽くなればいい。

 他の事など些事でしかない。

 

 ただ、心から喜んでくれていた2人も、その最強使い魔が16体も送られるとは思ってもいなかったのだろう。


 最後は実に微妙な表情になっていた。

 この辺が心配性で凝り性な俺の悪い所だ。

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