第12話:虐殺

「忠誠を誓った国王陛下を弑逆した逆臣共!

 忠勇の戦士を恐れ、領地と民を見捨てて逃げ出した卑怯で臆病な豚共。

 僅かでも貴族士族の誇りを持っているのなら、出て来て戦え!」


 最初から出てこないと分かっていての挑発だ。

 俺は自分の弱い心を少しでも奮い立たす為に、騎士らしい一騎打ちを求めている。


 卑怯下劣な連中は、俺も同じような卑怯下劣な手段を取ると疑う。

 絶対に城から出てこないと分かっている。


 それでなくても各城門前は肉食恐竜が待ち構えているのだ。

 恐ろしくてとても出てこられないのは分かっている。


「一騎打ちに応じないような卑怯臆病な者に儀礼を尽くす必要なし!

 お前らのような貴族士族とは言えない憶病者は竜の餌にしてくれる!」


 俺はそう言い放つと、目の前の城門を魔術で破壊した。

 内側にいた連中を肉片に変えるほどの魔術を放って破壊した。

 その城門跡に小型肉食恐竜が殺到した!


「うわぁああああ、竜だ、竜が中に入ってきたぞ!」

「逃げろ、逃げるんだ」

「「「「ギャアアアアア!」」」」」

「食ってやがる、人間を喰ってやがる!」

「人喰いだ、人喰い竜だぞ!」

「「「「ギャアアアアア!」」」」」

「終わりだ、もうこの城も終わりだ!」

「逃げろ、逃げるんだ」


 都市ベレスフォードの中核であり象徴でもある場所。

 ウォーターフォード侯爵家の居城であるベレスフォード城は、阿鼻叫喚の地獄絵図となっていた。


 これまで城に頼ってろくに戦った事がなかったのかもしれない。

 権謀術数による謀殺しか経験がなかったのだと思う。


 肉食恐竜の前に立って戦える貴族士族は皆無だった。

 ただ肉食恐竜に切り裂かれ喰い殺されるだけだった。


 本来なら貴族士族を守って戦うはずの護衛も、主を押しのけて逃げた。

 重装甲騎士団を壊滅させるような恐竜と戦う勇気はなかったのだろう。


 ベレスフォード城には俺が破壊した城門以外にも3つの城門がある。

 俺が破壊した城門が正門、大手門と呼ばれる最大の城門だから、他の城門は守備力が高い分小さくて、多数が1度に使うのは不向きだ。


 だがその小さい城門に、竜から逃げようとする人が殺到した。

 だから、城外に逃げ出す前に押し合い圧し合いの競争になる。

 弱い女子供がこの時点で後に残される事になる。


 先に城門からでたからと言った助かるわけではない。

 城門の前には肉食恐竜の群れが待ち構えているのだ。

 それも、食欲だけでなく殺戮衝動にかられた肉食恐竜が。


「「「「ギャアアアアア!」」」」」

「竜だ、竜が待ち構えていたぞ」

「逃げろ、城に戻れ」

「すり抜けろ、戻っても竜がいる」

「「「「ギャアアアアア!」」」」」


どん

「今の内に逃げろ」

「「「「ギャアアアアア!」」」」」

「追いかけてきやがる」

「「「「ギャアアアアア!」」」」」


 ベレスフォード城は中だけでなく周囲も地獄絵図となっていた。

 城から逃げようとする者と城に逃げ戻ろうとする者。


 どちらも命懸けなのだ。

 生き残るために人間同士が殺し合う事になる。


 肉食恐竜の間隙をついて逃げようとする者もいる。

 その中には、周りの人間を肉食恐竜の生贄に突き出し、自分だけ逃げようとする者もいるが、そんな連中を見張っていた俺の使い魔が許すはずがない。


 人を犠牲にして逃げようとした者は、密かに使い魔に殺される。

 何をしようと城から逃げる事などできないのだ。


 ベレスフォード城にいた者は、肉食恐竜に喰い殺されるか、殺戮衝動で嬲り殺しにされるかしかなかった。


 俺はベレスフォード城の連中を取り逃がす心配がない事を確認して、もう1つの大切な義務を果たすことにした。


 ★★★★★★


「きゃあああああ、いや、いや、いや、やめて!」

「うっへへへへへ、逃げろ、叫べ、その方が興奮するわ!」

「ギャアアアアア」

「わっははははは、死ね、死ね、死ね」

「おい、こら、そんな事は後でやれ!

 あいつが戻ってくる前に、金目の物を奪えるだけ奪うんだ」

「慌てなくても大丈夫だよ。

 堅牢で有名なベレスフォード城がそう簡単に落ちる訳がない」


 俺があれほど動くなと厳命していたのに、親や実家の身分や権力を笠に着る連中は、何をやっても罰せられないと思っている。


 確かに、フェリラン王国内なら大抵の事は許されただろう。

 だがここはフェリラン王国ではなくジェラルド王国だ。


 平時なら、勝手に処分される事はないだろう。

 だが今は、平時ではなく戦時で、しかもここは最前線の戦場だ。


 指揮官が普通の下級貴族なら、後難を恐れて見て見ぬ振りをしただろう。

 だが俺は、王子が相手でも後に引かない強情者だ。

 しかも、その気になればジェラルド王国の宰相を僭称できる立場なのだ。


「腐れ外道ども!

 戦場で指揮官の命令を破れば斬首だと言い聞かせていたぞ!

 それでも俺に逆らった以上、殺される覚悟があるのだな?!」


「ふん、いつまでも攻撃命令がないから援軍に来てやったのだ」

「そうだ、指揮官を助けに来てやったのだ!」

「援軍に来た貴族に文句を言えないよな!」

「そうだ、俺様の父親は伯爵だぞ、男爵の三男ごときが、ぎゃっ!」


 俺は、卑怯下劣な屑の戯言を最後まで聞いてやるほど暇でもなければ我慢強くもないので、耳が穢れる前にぶち殺してやった。


 魔力を無駄使いする必要もないので、その辺に落ちていた小石を投げて、頭部を粉砕してやった。


「なにをしやがる?!

 そんな事をしたら俺様の父親、ぎゃっ!」


 律義に最後まで聞いてやる必要など何もない。

 丁寧に頭を狙って即死させてやる必要もない。


 激痛にもだえ苦しむのは今までやってきた事に対する正当な報いだ。

 まあ、胸や腹に大穴が開いたら長く苦しむ事はないが、頭が粉砕して即死するよりは苦しむ時間が長いだろう。


「やめてくれ、許してくれ、罰金を払うから、ぎゃっ!」

「有り金払う!

 家に罰金を払ってもらうから、ゆる、ぎゃっ!」


 卑怯下劣な言い訳も罰金も不要!

 最後の機会として与えた、厳しく命じた軍令を破ったのだ。

 後は問答無用で罰を与えるだけだ!


「「「「「ギャアアアアア」」」」」


 たかが100人の不良貴族を殺すのに大した時間はかからない。

 両手の指で小石を弾けは50回で100人殺せる。


 瞬きする間とは言わないが、急いで指を50回鳴らす程度の時間さえあれば、ケダモノ貴族を屠殺する事など簡単だ。


「お前達にはこの腐れ外道どもがやった命令違反と虐殺を証言してもらう」


「「「「「はい!」」」」」


 老弱の新兵で編制した百人隊は最初から証人とする為に連れてきている。

 同時に、俺の命令に逆らったらどうなるのか見せつける。


 ここにいる老弱兵だけでなく、この老弱兵から俺の軍律の厳しさを聞いた者達も、逆らう気がなくなるだろう。


 問題はベレスフォード城をどう扱うかだ。

 ウォーターフォード侯爵家の居城としてのベレスフォード城は、まだ肉食恐竜軍団が包囲し皆殺しを実行している。


 だが、10万人を超える住民を抱える、都市としてのベレスフォード城どう扱うかが頭の痛い問題なのだ。


 腐れ外道の貴族連中を処罰するために行われた悪行は、俺の使い魔が見せた幻覚だから、都市住民には全く実害を与えていない。


 俺の支配を素直に受け入れてくれるのなら、ウォーターフォード侯爵家が支配していた時と同じように暮らす事ができる。


 いや、公明正大な統治をして見せるから、ウォーターフォード侯爵家時代よりも遥かに暮らし易い都市にして見せる。


 問題は無用に俺を恐れて民が恐慌状態に陥った場合だ。

 そんな事になれば、考えたくもない暴力と略奪、殺人が繰り広げられてしまう。


「お前達に言って聞かせる事がある。

 俺様はアンネリーゼ王孫殿下の宰相ライアンである。

 お前達が恐れる恐竜軍団を自由自在に操る者だ。

 現に今も山の上にそびえるベレスフォード城を蹂躙し、貴族士族を皆殺しにしているところだ」


 俺は決断した!

 自由気ままな生活を諦めて、民が生きていく道筋を作る。


 長い間やり続ける気はない。

 アンネリーゼ殿下に信頼できる家臣が集まるまでだ。

 長くかかっても公爵派を皆殺しにするまでだ。


 まずは手始めとして、都市ベレスフォード住民を全員支配下に置く。

 この国有数の要衝、ベレスフォード城をアンネリーゼ殿下の拠点とする。


 そのために、俺は空に浮かんで民を威圧している。

 絶対に勝てない超越した存在だと思い込ませる。


 俺が急いで集めた情報によれば、今この世界に空を飛べる人間はいない。

 飛行魔術はロストマジックになってしまっている。

 

 ロストマジックを使える者がアンネリーゼ殿下の味方になり、この城を統治しているとなれば、恐慌状態になる事なく支配を受け入れるかもしれない。

 

 恐らく受け入れてくれると思うのだが、問題はパニックを起こしやすい、気の弱い連中がどう動くかだ。


 使える限りの使い魔を放って、気の弱そうな連中を見張らしている。

 少しでも使い魔を増やすために、今も魔石内に積層魔法陣を刻み込んで使い魔を創り出しているが、10万を超える民を押さえ込めるかどうか……

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