第11話:多岐亡羊

 俺は一旦バンバリー領に戻った。

 乳呑児を連れて、これ以上戦い続ける訳にはいかなかった。

 それに、老弱な兵ではやれることも限られてしまう。


 問題は俺が集めた巨大恐竜軍団をどうするかだった。

 また集める方が手間なのか、餌を確保する方が手間なのか。

 少し考えて、餌を集めてでも手元に残すことにした。


 問題があるとしたら、全てを取り仕切るための使い魔の数だ。

 現状を維持するだけなら、使い魔を増やす必要など全くない。

 だが、現状を維持する事ができないのだ。


 俺の評判を聞いて、故郷で生きていけない半難民が続々と集まってくる。

 フェリラン王国からも義勇兵を名乗る者が続々と集まってくる。

 その中には密偵や刺客はもちろん、火事場泥棒までいる。


 そんな連中を野放しにしてしまったら、か弱い者達が蹂躙されてしまう。

 全権を任さられている身としては、そんな連中のやった事でも俺の名誉と評判にかかわってしまう。


 他人は全てを管理するのは無理だから、しかたのない些事だと言うかもしれないが、心の弱い俺には耐えられない。


 だから、全力で防ぐ努力をしてしまう。

 ジェラルド王国を取り戻す戦力を確保する事よりも、か弱い者達に被害を与える者を追い返す方向に政策を取ってしまう。


 日々溜まっていく莫大な魔力を活用して量産型の使い魔を作る。

 呪文を書き込んだ紙や木切れに魔石や魔晶石を埋め込み使い魔にする。

 前世でも比肩する者がいないと言われた魔力と知識を使って作る。


 それでも作れる使い魔の数には限りがあるので、どうしても受け入れなければいけない、父親や兄貴達の関係する義勇兵や商人以外はフェリラン王国に追い返した。

 それが例え王族であろうと有力貴族であろうとだ。


「ライアン様、新たな部隊を5つ編制しました。

 指揮官か教官の配属をお願いします」


 性根の腐っていない、ある程度は使えるフェリラン王国の義勇兵が聞いてくる。

 表向きは俺の親衛隊員として持ち上げておき、ジェラルド王国内に利権や影響を与えないようにしている奴だ。


「分かった、直ぐ行く」


 俺が量産している使い魔には幾つかの種類がある。

 時間のある時に趣味と実験を兼ねて創り出した使い魔は、全てにおいて突出した能力を持つ万能型だ。


 だが今作っているのは、個人戦闘、指揮能力、教育能力、統治能力などに特化させて生産時間を短縮した使い魔だ。

 中には全ての面で能力のある人間以上にした汎用万能型もある。


 全ての面で、前世で戦った魔王と互角に戦える使い魔を創り出すのは、時間的にも魔力的にも無理があるのだ。


「どうぞ、ご案内させていただきます」


「ああ、頼むよ」


 先ほど声をかけてくれた親衛隊員が先に立って案内してくれる。

 接収したバンバリー男爵邸は手狭になってしまっているのだが、何時公爵派が攻め込んで来るか分からないので、周囲の家を潰して拡大する事はできない。


 新たな外壁を築きつつ、その中に日々増える人用の家を建てなければいけない。

 日々増える人々には、城壁を築く仕事をやってもらわなければいけない。

 急激に発展拡大するバンバリーではあちらこちらから建築音が聞こえてくる。


「指揮官と教官の両方を配属する」


 俺は少し贅沢に2体ずつの使い魔を配属した。

 小さな魔石しか使っていないから量産ができるとはいえ、ほとんど役に立たない老弱の百人隊には、2体もの使い魔は贅沢と言う考えもある。


 だが、最初から戦闘で役に立ってもらおうとは思っていない。

 暴走して非戦闘員を傷つける事のないようにと思っているだけだ。


 それに、中に掘り出し物の人間がいたらそいつを指揮官か副指揮官にすればいい。

 そうすれば直ぐに使い魔の1体は他の部隊に転属させられる。


「では恒例の初陣を飾ってもらう事になる。

 必要な兵器と装備、兵糧の確認をしろ」


 これは最初から変わらない儀式になっている。

 俺や指揮官の命令に逆らわないように、恐怖で逃げだしたりへたり込んだりしないように、砂漠の狩りに連れて行くのだ。


「点呼!」

「1,2,3,4……」


 今は砂漠の奥地にまで行く事は減っている。

 そこまでいかなくても、巨大恐竜軍団が近くに放牧されている。

 俺が魔力で砂漠地帯に創り出したオアシスが彼らの楽園になっている。


 そこまで新人百人隊を連れて行って、俺が竜を操っているのを見せれば、もう絶対に逆らわなくなる。

 

 巨大恐竜軍団を相手に実戦訓練をさせれば、少々の敵が相手でも怖がらない。

 恐怖で大事な場面で逃げ出してしまい、友崩れや裏崩れを起こす事が無くなる。


 それに、俺が毎日のように巨大恐竜軍団のいるオアシスに行くのはそれだけが理由ではなく、他にも重大な理由がある。

 オアシスにいる草食恐竜を狙って肉食恐竜がやってくるのだ。


 少数の大型肉食恐竜を撃退するだけなら、仲良く暮らしている巨大恐竜軍団だけで十分なのだが、百頭以上で群れを成して襲ってくる小型肉食恐竜が問題だった。


 小型肉食恐竜の群れは、小回りの利かない巨大恐竜軍団の間隙を縫って、卵や幼体を襲うので始末が悪いのだ。


 まあそれも、撃退するだけなら、管理護衛につけている量産型の使い魔で十分だ。

 だが、ただ撃退するだけではもったいないと思ってしまう。


 せっかく向うから集まってきてくれた肉食恐竜だ。

 捕獲して活用しなければもったいない!


「いいか、よく見ておけ。

 俺にかかればどのような竜であろうと簡単に操る事ができるのだ。

 大きかろうと小さかろうと関係ない。

 どれほどの数が集まろうと全て操り活用してやる」


 恥ずかしくて穴があったら隠れたい心境だが、我慢して自慢しなければいけない。

 新人を完全に洗脳するには、見え見えの臭い芝居も断じて行わなければいけない。

 あまりの恥ずかしさに冷や汗で下着がずぶ濡れになろうともだ!


 肉食恐竜、それも小回りの利く小型恐竜を支配下に置いたのには理由があった。

 小山の上にある堅牢なベレスフォード城を攻略するためだ。


 ヴェロキラプトル2m16kg前後が542頭

 コエロフィシス2m30kg前後が466頭

 カウディプテリクス2m200kg前後が73頭

 ウベラバスクス2・5m300kgが59頭

 ティラノサウルス:13m7000kgが14頭


 これだけの肉食恐竜を確保してしまうと、活用しない訳にはいかない。

 ただ餌を食わしているだけで、人間に与えるべき肉が激減してしまう。

 色々と利用価値のある草食恐竜を、ただ餌に使う事になってしまう。


 だから、俺も嫌な決断をする事にした。

 人間を恐竜に喰わせると言う、外道な選択をした。

 前回と同じ侵攻路でベレスフォード城に向かった。


「いいか、この2人にこの村の領主と領主代理を務めてもらう。

 何かあった場合にはこの2人の命令に従え。

 公爵派の軍勢が攻めてきた時には、無理に抵抗する必要はない。

 降伏して身の安全を図る事を許す。

 だが、公爵派に降伏したら殺されると思ったら、この2人と一緒に逃げて来い。

 逃げて来るのなら必ず守ってやる」


「「「「「はい!」」」」」


 俺はまだ公爵派が取り返しに来ない30の町や村を順番に回った。

 小さな村には2体の使い魔を領主や指導者として残した。

 小さな町には3体の使い魔を領主や指揮官として残した。

 町が大きくなるごとに、順次4体5体6体と残す使い魔を増やした。


 30の町や村全てに使い魔を残してからベレスフォード城に向かった。

 公爵派の要衝ベレスフォード城を支配下に置くために。


「俺がベレスフォード城を落とすまで絶対にこの場所を動くな。

 命令に背いた者は実家がどれほどの権力者であろうと首を刎ねる!」


 俺は今回も新編成した老弱な百人隊5隊を率いてきた。

 ただ今回は、精兵で編制された部隊も率いている。

 反抗的で腹に一物ある問題児達を集めた百人隊だ。


 親父や兄貴達とのしがらみで、どうしても受け入れなければならなかった、高位貴族に連なる性根の腐った連中だ。

 傍流の鼻摘み者だけでなく、出来損ないの当主庶子までいやがる。


 6隊600兵をベレスフォード城外に残して、1人肉食恐竜軍団を率いて行った。

 魔法で軽く城門を吹き飛ばし、悠々と城内に入った。


「竜だ、また竜が現れたぞ!」

「うわぁああああ、中に入ってきたぞ!」

「逃げろ、逃げるんだ」

「群れだ、竜の群れだぞ!」

「敵は竜を自由自在に操っているぞ!」

「終わりだ、重装甲騎士団でも歯が立たなかった竜だぞ!」

「逃げろ、逃げるんだ」


 城内の民がパニックを起こして逃げまどっている。

 城内とは言っても、一般庶民を護るための最外部だ。

 城門を破壊して城内に入ったと言っても、小山の上にある城までは遠い。


 城にとりつくまでに、3つの防壁を越えなければいけない。

 普通ならとても大変な事だが、俺にとっては大した問題ではない。

 まして誰1人向かってこなければ、無人の野を行くのも同然だった。


 城門も城壁も軽く腕を振るう程度の労力で破壊する事ができる。

 必要なのは移動するための時間だけだ。

 あっという間にとまではいわないが、最短時間で小山の立つ城の前に立てた。

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