第7話:千客万来

 俺は恐竜を恐れて逃げ出した連中を街から追い出した。

 味方の足を引っ張る連中などいない方がいい!


 俺は殿下の寵愛を笠に着て傍若無人に振舞う成り上がり者を演じた。

 俺の評判が落ちる事で殿下の安全が買えるなら安い物だった。


 王家派を名乗って集まった新人は、必ず狩りに連れて行き本性を確かめた。

 観相術である程度予測はつくが、それだけで人の価値を判断したりはしない。

 実際に修羅場に立った時の覚悟と働きこそが人間の真価だ!


 やはり人間は底辺から這い上がろうとするときほど力を発揮する。

 圧倒的に有利な公爵一派には全く相手をしてもらえない、騎士ですらない兵士や冒険者が成り上がろうと集まっていた。


 そんな連中1人1人の性質と実力を見極めて部隊編成と配属を決定する。

 親衛隊が増員され、防衛部隊や侵攻部隊、遊撃部隊を新設する。


「よう、ライアン。

 手助けに来てやったぜ!」


「俺は伯爵待遇の領主代理だぞ!

 領主様と言えや、マイケル兄貴」


 ありがたい事に、実家の次兄マイケルが味方に駆けつけてくれた。

 これで安心して背中を任せられる。


 いや、勝負時にタイミングよく奇襲を仕掛ける遊撃部隊を任せられる。

 単に背中を護らせるだけなら、経験不足のジャックでもやれる事だ。


「頼まれていた商人はもちろん、一旗揚げたい子弟も連れて来てやったぞ」


 俺は以前使った事のある商人を通じて恐竜を売っていたが、王都に常駐している親父やローマン兄貴の方が、大手の商人や貴族との交流が多い。


 彼らに話しを通してもらえれば、大量の恐竜であろうと値崩れさせる事なく販売する事ができる。

 マイケル兄貴がそんな連中を引き連れて来てくれたのだ。


 国内の商人達が談合して俺の恐竜を買い叩こうとするなら、交流のある貴族に手数料を払って他国の商人に売ってもらう事も可能なのだ。

 そう言うカードをちらつかせるだけで、販売価格を維持する事ができる。


 それだけでなく、品質の好い武器や防具を買う事ができる。

 ジェラルド王国の商人は、リンスター公爵派が勝つ事を予測して、よほど大金を積まなければ質の悪い武器すら売ってくれないのだ。


「ライアン様、マイケル様が来られたのなら、今度の狩りには俺も参加させてくださいよ!」


 魔力が高まり魔術も覚え始めたジャックは、覚えたばかりの魔術を使いたくて仕方がないようで、狩りに同行したいと駄々をこねる。


「参加するならジャックにも竜を狩ってもらうからな!

 それと、同行させる部隊を選んでおけよ。

 ジャックの実力を見せつけておいた方がやりやすくなるぞ」


「わかりました。

 実は俺も自慢したかったんですよ!」


 ジャックが満面の笑みを浮かべて出て行った。

 魔術が使えるようになった喜びは、俺も体験した事だからよく分かる。


 ジャックには才能があったが、これだけ短期間に魔力が高くなり、魔術を習得できたのには理由がある。


 それは、俺が外部からジャックの魔力路を広げて流れを良くしたからだ。

 精霊と魔晶石を埋め込んだ使い魔を作ってやったからだ。


 それによってジャックの魔力は、碌な修行もしていないのに急激に増えた。

 術式を覚えていないのに魔術を発動する事ができるようになった。


 俺を敵に回したら魔術を発動する事ができない、俺の使い魔と言ってもいい存在になっている。


 俺のやった事を酷いと言う奴もいるだろう。

 だが、全てを説明したうえで、受けるか受けないかはジャックに選ばせた。


 ジャックは俺の使い魔のような状態でもいいから魔力と魔術が欲しいと言った。

 最底辺に生まれ育った人間の中には、悪魔に魂を売ってでも、その環境から抜け出したいと言う者もいるのだ。


 ジャックの生まれ育った環境は、最底辺とまではいわないが、とても恵まれているとは言えない環境だった。


 俺は悪魔よりはずっと善良な存在だし、多少身勝手な主人に仕える事は、ろくな人権のないこの世界では当たり前の事だ。


 なによりジャックには手に入れたい夢があった。

 嫁さんを貰って温かな家庭を築くと言う大きな夢があったのだ!


 その夢のために、ジャックは今も頑張っている。

 俺が広げた魔力路を、自力でもっと広げようと頑張っている。

 

 今は魔晶石に頼ってしまっている、魔力を蓄える為の魔力器官の容量を大きくしようと、苦痛に耐えて魔力器官を硬く大きくしている。


 今は精霊に頼っている魔術の術式も、自分で理解し覚えようと、今まであまり使ってこなかった頭を、痛みと眠気に耐えながら使っている。


 冒険者に成るだけだったら、俺が付きっきりで教えてやれた。

 だが俺の騎士になりたいと言うのなら、自力で頑張ってもらうしかない。

 俺の騎士になるには、まず俺が貴族にならなければいけないからだ。


 ★★★★★★


「報告いたします。

 北方より公爵派の軍勢が近づいてきます」


「数は分かるか?」


「砂塵の高さと幅からの推測ですが、およそ五千から六千と思われます」


 偵察を任せた元冒険者の判断は、俺が放っておいた使い魔の報告と一致していた。

 この元冒険者は偵察能力があり信用できると査定表に書き加えた。


 騎士や兵士の能力や性格は、全指揮官が共有できなければいけない。

 俺一人が分かっているだけではいけないのだ。


 普段から率いている部隊しか理解できていないのでは困るのだ。

 全部隊の能力を完全に発揮させろとは言わない。


 だが、全く能力を発揮させられずに戦いで負けるようでは困るのだ。

 最低単位である百人隊長の性格と能力くらいは把握し適材適所に投入できる。

 ある程度の力を発揮させられなくては、指揮官とは言えない。


 それを出来るようにするのも俺の役目だ。

 公爵派との実戦が始まるまでに、全百人隊長の性格と能力を記した査定表を完成させておくのだ。


 俺は編制した全部隊に、命の危険のない任務を頻繁に与えた。

 交代で俺の狩りに同行させて命の危険を感じさせることもした。


「俺と狩りに行った事のない百人隊は俺について来い。

 俺の実力と敵の弱さを教えてやる」


「「「「「おう!」」」」」

 

 俺は毎日新設される百人隊の一部を率いて迎撃に向かった。

 百人隊に戦ってもらう心算など微塵もない。

 俺の実力を敵味方に思い知らすのが目的だ。


 そもそも今この街に王孫殿下の味方だと言って集まっている連中は、故郷にいては生きていくのが困難な半難民なのだ。

 

 戦う力などない者が大半で、中には家族に捨てられた老人や子供までいる。

 いや、働ける成人がほとんどいないのが普通だ。

 成人がいたら公爵派の密偵や刺客だと思った方がいい状況なのだ。


 俺はそんな連中2000人を率いて敵軍約五千の前に立った。

 ゆっくりと進軍したから、国教の街から半日の場所での迎撃になった。


「殺せ、王国に仇なすフェリラン王国の手先を殺すのだ!」


「「「「「おう!」」」」」


 敵は俺をフェリラン王国の尖兵として殺したいようだ。

 確かにフェリラン王国男爵家の三男だが、手先ではない。

 むしろフェリラン王家と敵対している立場だ。


 そんな事は敵も味方も承知している事だ。

 ようは自分に都合よく解釈して味方の戦意を高め敵の戦意を低くしたいだけだ。


「国王陛下を弑逆した不忠者を許すな!

 奴の首を取った者には莫大な恩賞と騎士位を授けるぞ!」


「「「「「おう!」」」」」


 などと言ったが、烏合の衆でしかない味方を戦わせる気などない。

 そもそも痩せ細った老人と子供が大半の配下は行軍するだけで精一杯だった。


「卑怯で憶病者な謀叛人でないのなら一騎打ちを受けろ!」


 俺はそう大声で叫びながら突撃した!

 魔力で創った軍馬は生きた馬では絶対に発揮できない早さで駆ける。

 それこそ瞬きする間に敵将の間近に出現するのだ!


「バンバリーの領主代理ライアン、敵将を生け捕ったり!

 我と思わん者は一騎打ちを挑んでこられよ!」


 そうは言ったが、卑怯で臆病で下劣な敵の中に、一騎打ちを挑む者がいないのは最初から分かっている。


 正々堂々とした一騎打ちで生け捕りにされたと敵味方に思い込ませたかっただけ。

 人質にした敵将を身代金と交換する時に値を釣り上げるために。

 人質にした敵将を家族や一族が簡単に見捨てられないようにするために!


 俺は大将を任されていた伯爵1人と副将を任されていた子爵1人。

 配下を率いて参加していた男爵3人と領主騎士9人を生け捕った。


 軽く見積もっても10万人の兵士を1年養える身代金が手に入る。

 上手く交渉できれば、10万人の兵士を3年養えるだけの身代金が手に入る。

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