第3話:裁判
「チャーリーの恥ずべき行為は王族の品位と信用を著しく損ないました。
チャーリーのような、非道下劣な者に王族を名乗る資格はありません。
わたくしフィービーは、第一王女としてチャーリーの王家追放を要求します」
俺の思っていた事とは違う方向に進んでしまっている。
王国法務院に訴えたのは、イヴリンとの婚約破棄を公的に認めてもらいたかっただけで、王位継承権争いに巻き込まれたかったわけではない!
「黙れ、フィービー!
妹の分際で俺様を王家から追放するだと?!
お前こそ王位継承権一位の俺様がこの国から追放してやる!」
どうやら、日頃から兄妹間で王位を争っていたようだ。
話と表情から察するに、国王と王妃は愚かでも年長の第一王子であるチャーリーに王位を譲りたいようだが、妹達はまともな判断力があり、反対しているようだ。
「わたくし、第二王女のマティルダもフィービー第一王女と同じ考えです。
このままチャーリーに好き勝手させていては、王家は国内の心ある貴族から見捨てられ、阿諛追従の輩しか残らなくなります。
そんな事になれば、全ての隣国が領内に攻め込んで来る事でしょう。
今が最後の機会です!
チャーリーを王家から追放してください!」
この場での言動だけで判断するのは愚かな事だが、第二王女のマティルダが一番才覚があるように思える。
「マティルダ、お前もか!
許さん、許さん、絶対に許さんぞ!
マティルダもフィービーも王家から追放して売春宿に叩き売ってやる!」
まあ、どの王女が王位を継ぐにしても、チャーリーが継ぐよりは遥かにマシだと断言できる。
「国王陛下、王妃殿下、お二方が亡くなられたら、わたくし、どうなるのですか?
他国の捕虜にされ、奴隷にされてしまうのですか?」
第四王女のジャスミンは両親を泣き落とそうとしている。
第三王女のハリエットは狂犬のようなチャーリーとは争わない気なのか?
「わたくし、第三王女のハリエットもお姉様方と同じ意見です。
このままでは我が国が滅んでしまいます。
国王陛下と王妃殿下は、チャーリーがとても可愛いようですが、そのためなら、国が滅び私達が奴隷にされてもいいと申されるのですか?
チャーリーも国が滅んだら殺されてしまうのですよ!
王国法務院の方々も、チャーリーについて一時の富貴を得られたとしても、国が亡ぶ時には一緒に殺される事になるのですよ。
それとも新しい支配者に尻尾を振って生き永らえられると思っているのですか?」
第三王女のハリエットが一番才子なのか?
それとも、この四姉妹を陰で操る奴がいるのか?
「黙って聞いていれば、どいつもこいつも好き勝手言いやがって!
そんなに奴隷になるのが嫌なら、さっさとこの国から出て行きやがれ!
この国は俺の物だ!
俺の好きなように支配してどこが悪い!」
うん、決めた、最初から決めていたけれど、思い直す必要はない。
こんな国はさっさと見捨てて他の国に行こう。
「お話し中ですが、思い出してもらえませんか。
ここは王家のいざこざを裁く場ではなく、私とイヴリンの婚約破棄を裁く場です。
私としては、イヴリンとチャーリー殿下の恥知らずな姦通を認めていただき、不逞の賠償と婚約破棄の賠償を支払っていただければいいのです」
「あっはん。
ライアン卿は、結婚と男爵家の相続を求めないのですか?」
法務院の議長が、王家の争いから目を背けるように聞いてきた。
議長も王位継承権争いに首を突っ込みたくないのだろう。
「議長は、一盗二婢三妾四妓五妻と言う下世話な言葉を聞いた事がありませんか?
そんな変な顔をされないでください、チャーリー王子の事です。
私が無理にイヴリンと結婚しても、必ず間男します。
もう十分屈辱的な目にあっています。
これ以上恥をかかされるような事があれば、剣を抜いて名誉を護らなければいけませんが、この国にも王家にもそんな価値はないでしょう?」
「おのれ、お前のような底辺貴族に殺される俺様ではないわ!」
「それに、もう二三年で滅ぶと分かっている国に残るほど愚かではありません。
賠償金を頂けるのなら、直ぐに他の国に逃げたいのです。
王族の方々に少しでも羞恥心と臣下に対する思いやりがあるのなら、今直ぐ賠償金を支払ってください。
私はその金で安心して暮らせる国に移住いたします。
そうすれば、この国が亡ぶときに家族や領民を助ける事ができますから」
「おのれ、恥知らずの不忠者が!
王家に対してその悪口雑言、今直ぐ叩き斬っやる!」
「……これほどの恥をかかされライアン卿が、この国に対する忠誠心を失うのは当然だが、残念ながら賠償金を支払うか支払わないかは、王家の方々が決められる事だ。
我ら法務院がどのように決めようと、王家の方々が実行されなければ無意味だ」
「確かにそう言う意味では無意味でしょう。
ですが、私と法務院の方々には無意味ではありません」
「それはどういう意味かね?」
「私はこの国から逃げ出したのではなく、堂々と王家と争って出て行ったと証明され、どの国に行っても元貴族としての誇りを保てます。
法務院の方々は、この国が亡ぶときに、王家を滅ぼした阿諛追従の輩ではないと証明され、新たの支配者にも堂々と仕える事ができます」
もうこんな見苦しい王位継承争いにかかわりたくない。
法務院の連中を誘導してでも、さっさと終わらせる。
賠償金を手に入れられなくても、堂々と他国に入れれば金など幾らでも稼げる。
「ライアン卿がそのように考えておられるのなら、実効性はないが、今回の件の正邪を法務院で確定させてもらう。
各委員は良識に恥じる事のない裁定をしてください。
ライアン卿とイヴリン嬢の婚約は、イヴリン嬢とチャーリー殿下の不逞により、実現不可能でいいか?」
「「「「「賛成」」」」」
「貴様ら、そのような事をしてただですむと思っているのか?!
王国軍を派遣して領民共々滅ぼしてくれるぞ!」
チャーリー殿下が法務院委員達を脅迫しているが、一部の委員を除いて虫けらでも見るような目になっている。
「婚約不可能に至った主な原因がイヴリン嬢とチャーリー殿下にある以上、賠償金は両者が支払うべきだと思うが?」
「「「「「賛成」」」」」
「払わんぞ、そのような不当な決定に誰が従うか!
臣下は俺様の言う通りにしていればいいのだ。
逆らう奴は皆殺しにしてやる!」
「賠償金の額だが、今回の事例は著しく悪質なため、ライアン卿が結納金として納めた額の三倍とするのでよいか?」
「「「「「賛成」」」」」
「許さん、許さん、絶対に許さん!
何が法務院だ、何が法務院委員だ!
解任だ、ライアンに味方した連中は全員解任だ!」
「お黙りなさいませ、チャーリー殿下。
我々を法務院委員に任命されたのは国王陛下でございます。
チャーリー殿下の恣意で解任できるものではありません」
「やかましいわ、偉そうに説教しても無駄だ。
父上や母上が俺の言う事を聞かなかった事は一度もない。
俺が解任と言えば、解任されるのだよ。
精々首を洗って待っているのだな!
だがその前に、俺様に逆らった野良犬を始末しなければいけないな。
殺せ、こいつを殺してしまえ!」
チャーリーは叫ぶと同時に、狂犬のような目をした側近達が襲い掛かってきた。
今までどれだけ多くの人々を泣かしていたのだろうか?
絶対に逆らえない相手を、何千人も一方的に嬲り者にしてきたのだろうな!
俺から見れば、スローモーションのような動きだ。
その気だったら、もう何十回もぶち殺せている。
だが、こんな腐れ外道達を一撃で殺してやるほど俺は慈悲深くない。
「今まで苦しめてきた人達の悔しさと辛さを味わえや!」
俺はそう叫ぶと封印してきた力の極一部を解放した。
最初に両手首と両足首の関節を粉砕してやった。
次に、両肘と両膝の関節も粉砕してやった。
「「「「「ギャアアアアア」」」」」
「この程度で済むと思うなよ。
お前らのような腐れ外道には、耳も目も口も贅沢なんだよ」
歯を全て砕いた後で、舌を引きちぎってやった。
死なない程度に手加減して、両耳の聴覚器官を潰してやった。
最後に両の目玉を引きずり出してやった。
「「「「「ギャアアアアア」」」」」
「チャーリー、今まで多くの人を苦しめてきたんだろう?
人喰いの獣なら、実際に喰ってみろよ、人間の目玉を!
それと、よく覚えておけよ。
俺の家族や領民に手を出したら、何処に隠れていてもぶち殺しに行くからな。
例え地の果てにいようと、必ず探し出してぶち殺してやるからな。
だが、簡単に死ねると思うなよ。
この連中のように、身体中の骨を砕いた後で、口も耳も目も潰してから、お前が言っていた売春宿に売ってやる!」
俺はそう言ってから、火炎魔術でチャーリーの顔をこんがりと焼いてやった。
男前が自慢のようだったから、二目と見られない顔にしてやった。
王家なら腕のいい治癒魔術士がいるだろうから、直ぐに直せると思うが。
「こんな腐った王子に好き勝手させてきた責任は自分達で取ってください。
こいつに殺されるか、自分達で始末するか、好きにしてください」
最後に王女達に念を押しておいた。
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