第4話 秘密の地下通路


「…………ところでどこ目指してんだよ?俺たちは」


 地下牢から脱獄となれば、やるのは当然上を目指してのぼることだ。それは地球だろうと異世界だろうと変わらない…………と思うのだが、ユーゴに連れられたのは上ではなく俺たちが捕らえられていた牢のさらに奥だった。

 そしてこらえきれずにそう問うた俺に対して、ユーゴがゆっくりと口を開く。


「ジョーは知らねェだろうが、俺は少し前までこの地下牢の…………裏の顔を知る一人だったんだ」

「裏の?」

「ああ。ジョーは不自然に思わなかったか?この地下牢は広すぎると」

「広すぎる…………のか?」


 そもそもこの世界に召喚されてからまともに見たのがこの地下牢だけなので、俺にはユーゴの言っていることがピンとは来なかった。だが従士たちに囲まれながらやたらと連れまわされたのは確かなので、そうなのかもしれない。


「まァ、人間社会じゃ違うのかもしれねェな。ここは表向きには魔王城を中心とした城下町で罪を犯した魔族を収容する地下牢だ。たしかにここの城下町は魔族の集落の中では一番デカいが…………魔族ってのは力社会なんだよ。魔王様は強い。わざわざそんな魔王様が君臨するこの街で犯罪をしようってやつはそうはいねェんだ」

「へぇ…………そうだったのか」


 魔王城に城下町。すると俺はやはりいきなり敵陣の本拠地に召喚されたってわけか。…………いや、まだ魔族が敵と決まってわけでもないが。


「んで、表向きはってことは裏の役割があるわけだな?」

「ああ。ところで少し話は逸れるんだが、今はやはり人間と魔族は戦争になってるのか?」

「戦争…………?いや、ちょっと世間には疎くてな」

「…………まァここまで風呂覗きに来るような奴だもんな。仕方ねェか」


 渇いた笑いをこぼす。

 しかし、やはりということはそうなっていると確信めいたものがあるのだろう。現に俺も召喚されたわけだし、人間と魔族は争っていると見てもいい。


「とにかく俺がここの責任者だったのは十五年前の話でな。その十五年前に政権交代があったんだが、少なくともそれまでは人間と魔族はせいぜい小競り合いをする程度だったんだよ。そしてこの地下牢は、そんな小競り合いで捕らえた人間を収容するための施設でもあったんだ」

「人間を…………まさか、それで人体実験でもしてたってのカ?」

「さァな。俺の役目は捕らえた人間をここへ連れてくることだけ。それからのことはしらねェが…………少なくとも少しはやってるだろうよ」

「…………」


 人体実験。同じ人間としていい気分ではないが…………魔族と人間なんてのはそんなものだ。前に召喚された世界でも魔族は人間で実験をしていたし、その逆も然り。お互いさまってやつだろう。


「そこでだが、人間を捕らえてくるのにわざわざ城下町を通って魔王城に入って…………なんてやってたら、好戦派の奴らが暴れて人間を殺しちまう。だから秘密の地下通路を通ってここまで連れてきてたってわけよ」

「なるほどな。それでその秘密の地下通路とやらの入り口を今目指していると」

「そういうこった」


 俺はユーゴの説明に、納得を示すようにして頷いた。

 しかし、十五年前に政権交代か。ユーゴの話から推察できるのは、十五年前までは反戦派が魔王だったのが、その政権交代で主戦派に魔王の座を取られたってところだろう。そう考えれば、反戦派の魔王に仕えていたであろうユーゴがこの地下牢に捕らえられていたのも納得できる。とはいえ、まだ前魔王や他の前魔王に仕えていた魔族はどこにいるのか。なぜこの地下牢に詳しいユーゴをわざわざこの地下牢に捕らえたのかなど疑問は残るが…………俺がそれを知る理由も意味もない。だから、詮索をする気もない。

 …………というか、過去の経験から魔王討伐が地球に帰る方法とは何の関係もないことを知ってしまっているのだ。だからこの手の問題にはあまり首を突っ込む気がないというのが本音だった。

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