第2話 三度目の開始地点
次に意識が戻った時、俺は随分と酷い頭痛に襲われた。今まではゲートを通った後でもこれほどまでの頭痛を感じることはなかったのだが、三度目の召喚にして一体なんだというのだろうか。
「っつーかやたらと蒸し暑いな…………どんな場所で召喚してんだ…………よ?」
そんな文句を言いながら瞼を開いた俺の目に飛び込んできたもの。それは薄い煙の中に浮かぶ、二つのお山…………否、メロンとでもいうべきだろうか。
「誰だてめェ‼」
半ば思考が停止していた俺の耳に届いたその咆哮は、二つのメロンの持ち主である大きな二本の角を生やした全裸の女のものだった。
一旦落ち着こうか。結局俺は異世界に召喚されてしまったわけだが、どうやら何かの手違いで女浴場に召喚されてしまったらしい。しかもあの大きな角と圧死しそうになるほど放っている凄まじいオーラは、魔王とまではいかずとも、魔族の中にかなりの強者と見受けられる。
…………などと俺が推察している間にも、その女は俺に向かってとてつもない勢いで突っ込んできていた。
「てめェ…………ぶっ殺す‼」
「ちょっ…………待て!『アイアンウォール』!」
その女のあまりの勢いに、咄嗟に魔法を発動させた俺。しかしよく考えると、素手で殴りかかってきた女に対して鉄の壁で迎え撃つというのは、下手したら勢い余って相手の拳が粉砕してしま…………
「は?おい…………うそだろ⁉」
そんな俺の心配は無用とでも言いたいのか、その女は鉄の壁を殴りつけると、まるで豆腐でも潰すかのように安々と粉々にして見せた。
そして、再び俺に向かって突っこんでくる。
「奇妙な魔法使いやがって…………ぜってェ殺す‼」
「待てよ!俺の話を…………クソ!聞いちゃいねえ!」
その女に迫られては、アイアンウォールで防ぐ。迫られて、防ぐ。そんなことを繰り返しているうちに気が付くと俺たちは出入り口のような場所までやってきており、閉ざされた扉の向こうから女の人の声が響いてきた。
「ディエラ様⁉どうかなされましたか⁉」
「うるせェ‼てめェら後でぶっ飛ばすからな‼」
へー、ディエラって名前なんだ…………っていやいや、そっちにも喧嘩売るのかよお前。
などと脳内でツッコんだところで、現実の状況が変わるわけでもなく。とにかく下手に手を出して話が拗れてしまうことを避けたかった俺は、その扉に突っ込んでこの場から退散することを選択した。
「待ててめェ‼ウチの裸を見て…………」
「ディエラ様!」
「おい‼てめェらはそこの人間をとっ捕まえろ‼」
「は、はい!」
「チッ…………‼捕まえたら牢獄の最下層にぶち込んどけ‼ウチが後で殺しに行く‼」
ディエラはそう叫ぶと、湯煙の奥へと消え去っていった。
どうやらあの狂暴女は退けられたらしいが、状況は相変わらず最悪だ。今度はそれなりにやれそうな女従士たち十名ほどが俺を取り囲んでいて、どう考えてもこの包囲を突破することはできそうにない。かといって後ろに戻っては先程の狂暴女がいるわけで…………これは万事休すか。
「貴様、どこから入ってきた!」
そんな俺に警戒心むき出しでそう問うてきたのは、給仕たちの中でも一人だけ違う服装を纏ったやつだった。
どこからと聞かれれば地球からだが、そんなことを言っても火に油を注ぐ様なものだろう。俺は諦めて降参の仕草を取ると、給仕たちの問答にはだんまりを決め込んで素直に牢獄へとぶち込まれたのだった。
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