第8話 乾杯

アキラと阿藤のデートの前日、私はアトリボに知らないふりして電話した。


「おひさ。アト。その後どう? カレシとは?」

「うまくいってるよー。うらやましいだろー。みゆきはどうよ?」

「私はなんにもナシだよ。ところでさ。アンタ、カレシと手つないでる?」

「な、なによ? いきなり。 つ、つないでるわよ。手くらい」

「ソレ、ウソでしょ。 そろそろ手つながないと逃げられるかもよ?」


「な、な、なによ? わ、わかってるわよ。みゆきに言われなくたって」

「あー。白状しちゃったー。わかりやすいなー。アトーは」

「し、失礼な。とにかく余計なお世話だからね」

「ごめん。それはわかってる。でも、手つなぎなよ。友人として助言しとく」

「うん。わかった。ありがと。明日会うからやってみるよ」


というような会話をして、これで両方に工作してうまくいった。ハズ。あとは本人次第だな。「どちらからともなく自然に2人が手をつなぐ」というシチュエーションになれば、私の工作もグッジョブということになるのだが。




日曜日に2人はデートしたらしい。すぐにでも結果を聞きたかったが、金曜まで待った。金曜の午後4時。パン屋のカフェで私とアキラは待ち合わせした。アキラは先に来ていた。同時に出入りしないように時間を10分ずらすようにしている。用心に越したことはない。



「よっ。こっちだ。」アキラが手を挙げた。いつも同じ席というわけにはいかない。わたしは夕張メロンパンとアイスカフェオレを乗せたトレーを持って席に着いた。アキラはめずらしくアイスティーを飲んでいる。皿には食べかけのピザトースト。


「どうだった? 日曜のデートのほうは?」


席に着くなり私はさっそくデートの結果をきいた。

細工は隆々。仕上げはどうだ?


「ああ、うまくいった」


アキラがニコッと笑った。

うん。いい笑顔だ。アトリボにはもったいないイイ男だ。


「ほ~。で、手、つないだの?」

「うん。かなり勇気がいったけどな。つないでみればなんてことなかった」

「拒否られなかったでしょ?」

「ああ、ふんわりして小さな手だった。彼女、ちょっと恥ずかしそうだった」

「やるじゃん。ヤルときはヤル男なんだね。アキラは」

「おう。ヤルときはヤルぜ。俺だって」


たかが手をつないだくらいで、なんかずいぶんと自信つけたな。


「じゃ、その後はずっと手をつないでデートしたの?」

「まあな。なんか今までとは違って、彼女もいろいろしゃべってくれたよ」


だろうね。それがアトリボの本性だよ。やっと男とマトモにしゃべれたか。

お母さん嬉しい。私はアトリボの保護者になった気分で満足した。


「そっかー。よかったねー。とりあえずカンパイ」


私はアイスカフェオレのグラスをアキラのアイスティーのグラスにカチンと当てた。


「ありがとな。これもみゆきのアドバイスのおかげだ」アキラもグラスを当てた。

「まあね。たいしたことじゃないよ。私は手をつないだらって言っただけで」

「でも言われなきゃ、俺、なにもしなかったと思う」


そうだろうな。アキラはボクネンジンだから。良く言えば紳士的なんだが。

アトーに知恵を付けたことは内緒だ。いつか本人からアキラの話を聞きたいな。



そのあと、アキラからノロケ話をいっぱい聞かされた。ちょっと妬けたけど。まあいい。この2人はうまく背中を押してやらないとなかなか先に進みそうにないからね。これからもちょくちょく工作してやる必要があるかもしれないなと私は思った。


とりあえず、手をつなぐイベントは成功した。いずれ自然と恋人つなぎになるだろう。次は頃合いを見計らってキスするイベントだな。ハードルは高いがなんとかしよう。そんなことを思いめぐらしながら、アキラとは今後もいいトモダチでいようと思った。


アトリボとアキラのファーストキス作戦。まずはシチュエーションを考えなきゃね。校舎の裏しか思い浮かばないようなアトリボとボクネンジンのアキラだからねえ。気が付いたらまわりのカップルがみんなキスしてるような環境を考えるしかないな。そんなことを考えつつ、私は不思議な満足感に満たされつつ家路についた。






つづく。

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