第4話 清楚系
次の日曜日、アキラはお見合いしただろうか?結果はどうだっただろうか?気になったがアキラと2人で話ができたのは水曜日の午後だった。
実は私はそれが気になってキャンパスでアキラを探していたのだが、偶然会ったふりをしてやっと水曜日の午後、学食にいるアキラを見つけて話しかけることができた。
アキラには親友(藤堂タケシ)がいて、2人で学食でお昼を食べてることが多かった。お見合いの話を親友に話しているかどうかは知らないが、念のためアキラが1人でいるところを見計らって話しかけることにしたのだ。
水曜の午後3時過ぎ、アキラは学食で1人でコーヒーを飲んでいた。眉間にシワを寄せて物理の本を読んでいる。アキラはマジメだから単位はひとつも落としたくないんだろう。訂正。アキラはすでに1年留年してる。だから2回目の留年はどうしても避けたいのだろう。
私はさりげなく自分のコーヒーを持ってアキラの隣の席に座った。アキラはすぐには私だと気づかなくて怪訝そうにしたが、気づいてびっくりしたように私の顔見た。
「ごめん。びっくりした?」
「なんだ、みゆきか。 誰かと思ったよ」
「それで、どうだったの? お・み・あ・い」
「単刀直入だな」
「そりゃ、気になるよ。師匠としては。スカート履いてきた?」
「うん。スカートだった。靴もスニーカーじゃなかった。化粧もちゃんとしてた」
「そうかそうか。で、美人だった? 可愛かった?」
私がずんずん迫ったせいか、アキラはちょっとのけぞってまわりを見た。
「ちょっと待てよ。ここじゃ、マズイだろ。前に話したパン屋に行こう」
「またおごってくれるの?」
「もちろんだ」
私とアキラはちょっと距離をとって歩きながら裏門を出てこの前のカフェに行った。
今日はクリームパンとフルーツカップケーキとアイスカフェオレにした。
アキラは小倉アンパンとアイスコーヒーだった。
「で、どうだったの? お見合いのほうは?」 私は座るなりさっそくきいた。
「まあ、そうせかすなよ。話すから」 アキラはアンパンをかじった。
「ハタチの看護学科だったよね? どんな感じのヒト? カワイイ?」
「うん。可愛かった。・・・かな?」 アキラが頭をポリポリかいた。
「かなってナニよ? 相手の顔、よく見なかったの?」私は前のめりになった。
「まてまて。声が大きい」 アキラがアイスコーヒーをストローで吸った。
私はクリームパンをかじりながらアキラが話すのを待った。
「しっかりしたヒトだったよ。キレイだったな」
生意気にもアキラが落ち着いてる。
「で、ケッコン前提の交際することになったの?」
「まだわからない。結果待ちだ」
「結果待ちってどういうこと? アンタのほうはOKってことなの?」
「まあな。断る理由がない。こっちは就職も決まってないのに、それでもいいんですか?ってきいたら、イイですってさ。マジかよ? って思ったよ。どういうつもりか知らないが、本人も両親もそれでイイらしい。ほんとにそれでいいのかな?」
アキラが首をかしげている。
「ふーん。そういうもんかあ」
私はナゼかちょっと感心した。
「身長は? 髪は長い? 目は大きい?」 私は前のめりで連続して質問した。
「背はみゆきより小さい。髪は黒くて中くらい。目は二重でパッチリしてた」
「ほほ~。清楚系美人か。なるほどねー」 ナニがなるほどなんだか。
「セイソケイ?よくわからんがまあ美人だな。うん」アキラが満足げに笑った。
私はその名も知らぬ「清楚系美人」になんとなーく嫉妬を覚えた。
「ね、名前は? きいていい?」
「名前かあ。言っていいのかな。ま、みゆきにならいいか。リホだ」
「リホ? まさか…まさか、アトーリホ? じゃないよね?」
「アレ? どうして知ってるんだ? 知り合いなのか?」
私はびっくりした。相手はアトリボだったのか?一体どうなってるんだ?念のために看護学科の大学名をきいたら間違いなかった。アトリボが推薦で入った県立の医療看護大学だった。
ハタチの看護学科と聞いて初々しい女の子を想像してたのだが、考えてみれば、早生まれのアトリボがまだハタチなのは当たり前だった。アイツ、テガタイ看護師への道を選んだと思ったら早々に婿取りに走ったか!
阿藤里穂(あとう・りほ)は私の高校時代の親友だった。あだ名はアトリボ。妹がひとりいるが男の兄弟はいない。親は婿養子が欲しいと言ってたな。にしても、目は一重の切れ長だったはずだが。さてはアイテープ使ったな。それとも春休みを利用して二重に整形したか?阿藤とは電話ではよく話すがしばらく会ってなかった。
アキラが不審そうにジロジロこっちを見ている。
「おい? どうした? やっぱり知り合いなのか?」
私は困った。アトリボのことはどっちかというと言わないほうがいい気がした。
「ああ、いや、気にしないで。私の勘違いだったみたい」
私は知らないふりをすることにした。アトリボのことだ。どうせOKなんだろうけど、もったいつけてるに違いない。
「ほんとか? なんか知り合いみたいな言い方だったけど」
「それで、相手からの回答はいつ来ることになっているの?」
「明日の夜。だったかな」
「ふーん。そう。たぶんOKだと思うよ」
「どうしてわかる?」 アキラが不思議そうに見ている。
「私のアドバイスどおりやれば、OKだってことよ」私は笑ってごまかした。
「もしそうなら、みゆきに感謝するよ」アキラがくったくなく嬉しそうに笑った。
私はなんとなくトンビに油揚げをさらわれたような気がしてちょっと残念に思った。
つづく。
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