第21話 事故

 洗い物を終えた愛月は、見逃していたドラマをサブスクで見ていた。

(そう言えば東くん遅いな。今何時だろ?)

 軽い気持ちで時計を確認すると、東くんが入浴し始めてから1時間以上経っていた。

(えっ、流石に長すぎでは!?)

 不安になった愛月は脱衣所から声をかけた。

「東くん、結構長いこと入ってるけど大丈夫ー?」

「……。」

 返事が返ってこない。

 何度呼びかけても応答しないので恐る恐る戸を開けると、東くんは浴槽から上半身をだらりと出して気を失っていた。

「東くん!!!」

 愛月は慌てて蛇口をひねり東くんの頭に水をかけた。

「東くん、東くん!!」

 何度か呼びかけると彼は「うぅ…」と小さくうめき声をあげた。

「つ、浸かり過ぎた…。」

「良かった、意識戻ったんだね!?」

 愛月はシャワーヘッドを東くんに持たせ、浴槽の栓を抜いた。お湯が抜けているうちに冷蔵庫へ走り、コップとストロー、スポーツドリンクを浴室に運んだ。

「水分取ろう、ストロー持ってきたから飲めるよね?」

「うん…、ありがとう。」

 水分を取って頭を冷やした甲斐がありだいぶ回復した東くん。しかし自力で立てるほど回復していないようで、気絶したときのままの体勢だった。

「その姿勢つらそうだし、とりあえず浴槽から出よう。」

 愛月は東くんの両脇に自分の腕を通した。

「うーーーんっ。」

 体の力が抜けた人間は通常より重く感じてしまう。このときの東くんも全身に力が入っていないため愛月にはかなり重かった。

「もうちょっっっとぉ〜〜〜っ……きゃっ!」

 精一杯の力で引っ張り、あと少しというところで足を滑らせてしまった。

 転んだ勢いで東くんの体は浴槽から抜け出したが、そのまま愛月の上に覆いかぶさってしまった。

「いたたた…。」

「ごめん、大丈夫…?」

 まだクラクラするが、いつまでも彼女の上に乗っかっているわけにもいかない。東くんはやっとの思いで上半身を起こした。

「だいじょう…ぶ…。」

 そう答える愛月の顔は真っ赤になっていた。

「えっ、ごめん、打ちどころ悪かった!?」

 自分のせいで頭を強打したと思い東くんは慌てた。

「ち、違う。そうじゃない…気にしないで。」

「でも…」

「大丈夫だから服着て!!」

「あ、ごめん。」


 先にリビングに戻った愛月を見届けてから、東くんはワープゲートを開き新しい衣服を取り出した。

 着替えて部屋に戻ると、お茶にしては色が薄い飲み物を用意してくれていた。

「さっきはごめんね。助けてくれてありがとう。」

「どういたしまして。これ、梅ジュース。美味しいから飲んでみてね。」

 愛月は早口で答えると、逃げるように脱衣所へ行ってしまった。

「…もしかして僕逮捕される?」

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