第20話 決まりごと

 3人で楽しく食事をしていたのだが、和正のスマホに電話がかかってきた。

「あ、真田さん。お疲れさんです、どうしたんですか?」

 和正は電話をしながら部屋を出ていった。

「君のおじいさん、忙しい人なんだね。」

「そうだね、一応教授だから。でもご飯くらいゆっくり食べたらいいのに…。」

 話しているうちに和正が身支度をして戻ってきた。

「ちょっとトラブルがあったらしいから行ってくる。東くんはゆっくりしてってな。そんじゃ行ってくる!」

 愛月が返事をしないうちに和正は玄関を飛び出していってしまった。

「…もう、いつも突然出ていっちゃうんだから。」

 呆れているような、悲しんでいるような眼差しで愛月はため息を吐いた。

「…寂しい?」

「少しね。でもこんなの慣れっこだよ。」

 そう言って残りのご飯を口に入れた。


 後片付けをふたりでしていると、お風呂が湧いたことを告げるメロディーが流れた。

「あとやっておくし、お風呂先どうぞ。」

「ありがとう。でも一回入浴方法確認したいし一緒に来てくれる?」

「いいよ。」

 浴室で諸々確認すると、浴槽に入る以外は同じであることが判明した。

「こんな暑い日にお湯に浸かるの?水じゃなくて?」

「うーん、水風呂も無いわけでもないけど、一般家庭ではお湯に浸かるかな。夏はシャワーって人も多いけど、うちは冬でも夏でもお風呂を沸かして入ってるよ。」

「そうなんだ…。」

 地球のことを調査している身としては、一般家庭の常識を体験する必要がある。火照った体を更に温める行為にはいささか疑問が湧いたが、教えられた通りにすることにした。

「分かった、じゃあ湯船にも浸かってみる。」

 東くんがその場で服を脱ぎだしたので愛月は焦った。

「ちょっと待った!!ふ、服は私が向こう行ってからにして!」

「なんで?」

「なんでって、一応私女だよ!?恋人でも家族でもない異性の前で裸はダメだよ!」

「そうなの?」

 当たり前が通用しないケプラー人に愛月はどっと疲れた。

「もしかして東くんの星では裸が当たり前なの…?」

「当たり前っていうか、そっちの方が楽?でも外だと紫外線とかがあって肌に良くないし推奨されてない。外でも裸の人はたまに居るけどね。だから何も抵抗ないし、体の作りも個人差はあってもだいたい同じだからどうとも思わない。」

 文化の違いでこんなに驚かされるとは。愛月はケプラーの習慣に驚きながら自分の星のルールを話した。

「地球は外で裸になるのはNGなの。この間の変質者がいい例。室内でも他人の前では裸になっちゃダメなの。下手すれば逮捕されちゃう。」

「逮捕!?」

 生まれたままの格好になって何が罪なのか理解に苦しむ東くんだった。


 愛月がダイニングに移動したことを確認し、東くんは服を脱いだ。

(地球は色々面倒なことが多いなぁ。)

 地球人はどうも無駄が好きなようだ。

 車やバスがあるのに自転車や徒歩で移動する人が居るし、自宅で勉強すればいいのにわざわざ学校という施設を作って通わせる。ケプラー人からしたら時間のロスが多すぎる気がしてならなかった。

 体を洗い終わり、浴槽と向かい合った。

(だ、大丈夫なのか…?)

 ゆっくり入ると、お湯は体温より少し温かいくらいに設定されていた。

(もっと熱いのかと思ってた。)

 思ったよりぬるかったので安心し、ゆっくり首から下をお湯に沈めた。

 浴室は小窓が開けられていて、網戸の外から蛙の声が聞こえてきた。

(そう言えば夜になるとずっと鳴いているな。どういう理由で鳴いているんだろう?)

 色々考えているうちに心地よい睡魔に襲われ、そのままウトウト。だんだん視界は暗くなっていった。

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