第22話 火照った心とアイスクリーム
脱衣所と戸を閉めた愛月はその場にへたり込んでしまった。
(感じ悪かったかな…。)
自分の態度に反省しつつ、先程のことを思い出し顔が熱くなった。
(あんな状態、ドラマでしか見たこと無いよ〜っ。)
平凡な高校生が裸の男の子に押し倒されるという構図は現実的に考えると中々破壊力があった。
(どんな顔して東くんを見ればわかんないよ…。)
彼は裸であることに抵抗がないし、女性の体についても「同じ作り」と冷めたことを言っていたので先程のことも対して気にしていないだろう。しかし地球人の愛月にとっては衝撃的な体験である。
愛月はぐしゃぐしゃな感情を洗い流すために冷たいシャワーを浴びた。
「つめたっ」
***
愛月がリビングを出ていった後、東くんは用意された梅ジュースを口に含んだ。
フルーティーな香りと甘酸っぱい爽やかな味。炭酸で割っているようでパチパチと喉を刺激した。
(和田さんが用意してくれるものは全部美味しいなぁ。)
うっとりしながら梅ジュースを飲んだ。
(そう言えば、あの時の和田さん……。)
顔が真っ赤にさせている愛月のことを思い出した。その表情は今まで見たことがなく、どんな感情を表しているのか分からなかった。でも―
「…可愛かった。」
東くんは自分が発した言葉に驚いた。まさか自分の口からこんな言葉が出てくるとは。
(…地球の風に当たり過ぎたのかな。)
***
愛月がシャワーから戻ってくると、何故かソファーの上で体育座りをしている東くんが居た。
「あれ、どうしたの?体育座りなんかして。」
「…なんでもない。」
東くんはこちらを見ずに答えた。
「あ、そうそう!東くんに食べてもらいたいとっておきがあるの!」
「とっておき?」
愛月は冷凍庫から2つのカップを取り出した。
「じゃーん、ハーゲンダッチョ!!アイスクリームだよ、甘くて冷たくて美味しいの!」
何度も食べたであろうその食べ物を、愛月は嬉しそうに持っていた。
「まだカチカチだから、テレビでも見て待とう。」
「なんで固いの?」
「うーん、濃厚だからかな?少し待てばなめらかで美味しいよ。」
「売られている段階で丁度いい固さにしない?普通。」
またここでも無駄を見つけた。買ってすぐに食べられなければ食べたいという気持ちが冷めてしまう。
冷たい食べ物だから、きっと体を冷やしたいときに食べるものだろう。先程の自分のようなときに悠長に待っていたら死んでしまう。
「よほど暇人なんだね、地球人は。」
「そうかもね(笑)」
愛月は否定せずにテレビのリモコンを操作した。
「あっ、UFO特集やってる!ねぇねぇ、東くんから見て本物かどうかって見分けつく?」
「見てみないとわかんないな。」
二人並んでランキング形式で紹介される映像を見ていった。
「このUFOは?」
「この窓の付き方だと危ない。自動運転が故障したときには自分で操作しなきゃいけなくなるから、これだと視界が狭い。だからフェイク。」
「なるほどぉ…。」
「効率で考えたらわかりそうな気がするけど。」
「なんでも効率効率って言わないでよ〜、夢がないなぁ。」
本物かどうかを見てほしいと言われたから答えているのに、そんな言い方があるだろうか。
少しムッとしながら見ていると、愛月が次の映像を指さした。
「これは?」
「あぁ、レプティリアンだね。」
「前に言ってたやつ?」
「そう。普段は人に化けて生活してるんだけど、こいつはまだ飛来して間もないんだろう。この映像を撮った人、よく無事だったな。」
「まさかの危機一髪映像?」
CMに入ったタイミングで愛月はアイスクリームのカップを確かめ、それを東くんの前に並べた。
「そろそろ良いかな。バニラ味と抹茶味があるんだけど、どっち食べたい?」
「どちらも食べたことない味だし、出来ることならどちらも食べてみたいかな。」
「じゃあ味見して決めるといいよ。」
お言葉に甘え、まず始めにバニラ味をひとすくいして口に入れた。
まったりとした濃厚な味、そして甘い香り。一口に美味しさがギュッと詰められていた。
「うわ、美味しい…。」
「ふふ。こっちもどうぞ〜。」
今度は緑のアイスクリームに手を伸ばした。
こちらはバニラとは違いほろ苦さを感じた。心地よい苦味のあとに柔らかい甘さが追いかけてきて、最後にやってくる奥深い茶葉の香りが心を和ませた。
「こっちがいい!」
東くんは抹茶味を選択し、嬉しそうに受け取った。
「確認だけど、乳製品と卵は大丈夫だよね?」
「卵!?」
「うん…ダメだった?」
「肉よりひどいじゃないか!!新しい命を刈り取ってる!」
「でも、美味しかったでしょ?」
「……。」
「私達は確かに沢山の命を食べてる。でもそのおかげで健康な体を保てるの。だから命に感謝して、食べるときにはありがとうって意味を込めて”いただきます”って言うんだよ。残したらそれこそ命が可愛そうだよ?」
「確かに…。」
「どうしても食べられないなら私が食べ」
「食べる!」
東くんは愛月からアイスクリームのカップを遠ざけた。
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