第18話 お財布事情


 放課後、東くんが当たり前のように校門で愛月を待っていた。

「あっ、東くん。待っててくれたの?」

「まぁね。」

 慣れた様子で東くんはワープゲートを開いた。

「さ、帰ろ。」

「待って。今日は食材の買い出しがあるの。」

 そう言って愛月は買い物リストが書かれたメモを取り出した。

「マヨネーズとトイレットペーパー、あと鶏肉と人参が今日安売りしているみたいだから買いたいの。」

「と、鶏肉…。やっぱりこの星の人間は動物を日常的に食べているんだな…。」

 また肉が話に出てきて表情を暗くする東くん。

「うーん、ビーガン料理もあるっちゃあるけど、買ったりお店で食べるってなるとかなりお金がかかるかも。」

「そっか…。」

「そう言えば、東くんの収入源って何?調査がどうとかって言ってたけど、何の仕事をしているの?」

 地球に降り立ってから数日経ったが、地球で生活していくには何かと入用だ。

 電子マネーを利用しているからにはお金はいくらか持っているのだろうが、財産には限りがある。そのうち飢えてしまうのではと愛月は心配だった。

「僕の収入源はこの星の情報量によって変わる。日本円で換算すると情報一つに付き2万円くらいかな。」

「えっ、やっす!」

 思わぬ低価格で驚く愛月。星を出て調査に来ているくらいなので、もっと頂けるような気がしていた。

「安いの?ケプラーではまぁまぁ貰ってる方なんだけど。」

「2万なんて月の食費で消えちゃうよ!」

「そ、そうなんだ…。」

「しかも外食なんてしたら千円は超えるだろうし、牛丼屋なら数百円で済むけど東くんはお肉食べられないし…。」

 やはりこのままでは心配だ。そう思った愛月は東の手を取った。

「ご飯はうちで食べよう、三食!!」

「えっ、三食?」

「あ、学校がある日は別だけど、土日祝日はうちで食べよう。おじいちゃんには単身の留学生だってことにしておくから!」

 あまりの気迫に東くんは首を縦に振るしかなかった。

「あ、ありがとう。」



 買い物を済ませた二人はスーパーを出てワープで和田家へ向かった。丁度和正も大学から帰宅したようで、車から降りてきた。

「あれ、いつの間に帰ってきたんだ?道中会わなかっただろ。」

 車で帰宅した祖父は道で愛月を見かけなかったことに疑問を抱いていた。

「えっと…、あ、東くんと少し寄り道してたの。」

「東くん…?」

 毎朝迎えに来ているものの、東くんは和正と初対面だった。東は想定していたのか、ありきたりな自己紹介をした。

「はじめまして、愛月さんのクラスメイトの東一と申します。彼女にはいつもお世話になっております。」

「はぁ。」

「東くんね、単身で留学に来てるの。日本人なんだけど、ずっとアメリカで過ごしてたみたいなの。日本の文化にまだ慣れて無くて一人で過ごすのが大変らしいから、ご飯うちで食べてもらおうかなって。あっ、ほら、東くんのおかげでトイレットペーパー余分に買えたんだよ!」

 思わぬ対面に焦りはしたが、入浴の件もあったのである程度設定は考えてあった。愛月は少し早口になりながらも東の身の上を説明した。

「それは大変だなあ。買い物にまで付き合ってもらって申し訳ない。今はどこに住んでいるんだい?」

あけぼの町のアパートに。」

「は!?学校からすぐじゃないか。なんでまたこんな遠くまで。」

「毎日一人で下校する愛月さんが心配で。学校では色々とお世話になっているので、せめてもの恩返しです。」

 東くんはスラスラと嘘の情報を話した。顔色変えずに返答する東くんを愛月はぽかんと見ていた。

「義理堅い青年だなぁ。汗かいたろ、ご飯食べたらお風呂にでも入んなさい。」

「ありがとうございます。」

 まさか祖父から入浴の話を出してくれるとは思わなかった。愛月はホッとしながら東くんをリビングに通した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る