第16話 宇宙人の笑顔

「ふぅ…。」

 落ちた衝撃で所々断線していたが、コツコツと繋げてやっと空調のファンが回り始めた。

「涼しぃ〜。」

 ケプラー542bの気温に慣れていた東くんは、地球の暑さに参っていた。

 室内に入ってしまえば大抵エアコンが効いていたのでそこまで不便していなかったが、壊れた宇宙船に戻ればまた灼熱地獄が待っていた。

 どうにかしないと脳が固まってしまう。そんなギリギリな状態だったので、空調が直ったのは有り難かった。


 暫く回復した空調システムに体を預けていたが、汗が引いて今度は寒くなってきてしまった。

 ブルッと身震いした東くんは、仕方無く設定温度を上げた。しかしそれも暫くするとじんわり汗が滲んできて不快な環境となってしまった。

「…仕方ない。」

 服を脱いで近くの小川で汗を流す。入浴システムの回復はまだだった。

 頭まで水に浸かり、ワシャワシャと洗う。水だけではなんだか洗った気がしない。川から上がってふかふかのタオルに顔を埋める。幸いにも洗濯機能は失われていなかったので、服やタオルだけはいつも清潔なものが手に入った。

「あ〜、温かいお湯を浴びたいなぁ…。」



「おはよ〜!」

「おはよう。」

 玄関を出ると東くんが待っている、という光景が定着しつつあった。

「疲れが抜けてない感じするね。大丈夫?」

「うん…。空調機能が回復したのはいいんだけど、暑かったり寒かったりでなんだか体が追いつかなくて。」

 肩をぐりぐり回しながら、東くんは気だるそうに答えた。

「大変だねぇ。」

「次は入浴システムを直さなきゃ。」

「あ、やっぱりお風呂の便利機能あるんだね?」

「あるはあるけど、今壊れてるから不便。墜落初日に銭湯に行ったんだけど、電子マネーが使えなくてとんぼ返り。ずっと川で体洗ってるよ…。」

 遠くを見つめているその目の下にはクマがあった。

「現金持ってないの?」

「持ってない…。地球の住所が無いから口座開設出来ないんだ。」

「そうなんだ…。」

 思った以上に苦労している様子に、なんだか可哀想になってきた。

「うちでお風呂入る?」

「いいの?」

「うん、疲れとれないのは辛いだろうし。おじいちゃんにも上手いこと言っておくよ。」

「助かる!和田さんは優しいね、ありがとう!」

「ど、どういたし…、まして。」

 東くんが笑った。

 それだけのことなのに、愛月はなんだか動揺してしまった。

(当たり前だけど、東くんも笑うんだな…。)

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