第15話 ぬか床のきゅうり

「ただいま。」

 3日ぶりだろうか、祖父がようやく大学から帰ってきた。

「おかえり、おじいちゃん。今回はやけに力入れて研究してたみたいだね?」

 汗を拭っている祖父のために、愛月は冷えた麦茶をコップに注いだ。

「まぁな。大学でUFOらしき飛行物体が飛んでいるのを見たという生徒が居たもんだから。」

「えっ、UFO!?」

 以前の愛月なら「またか」だの「ただの見間違い」だのと答えていたが、宇宙人と交流している身としてはもう否定できない。何星人だろう、なんて考えている自分の変化に驚いた。

「なんじゃ、珍しく食いついて。やっとUMAの魅力が分かってきたかの?」

 和正はニヤリと笑って受け取った麦茶をすすった。

「…ちょっとね。気の迷いってやつかな。」


 今日の夕飯は和正のリクエストでそうめんを茹でることになった。こう毎日暑い日が続くと、つるりとのどごしの良いものが食べたくなる。しかし考えてみれば、蕎麦にうどんにそうめんと、麺類ばかり食べていることに気がついた。これでは栄養が偏りバテてしまう。

 愛月はそうめんのお湯を沸かしている間にササミを蒸し、細かく割いて千切りしたきゅうりの上に乗せた。豆板醤と甜麺醤、すりごま、ごま油、砂糖、醤油、すりおろしたにんにくを混ぜた特製ダレも上にタラリ。

 そうめんはゆで時間を短く。麺を湯に入れて1分半弱でザルに開け、素早く冷水でぬめりを流す。水につけたままではふやけてしまうので、さっと水気を切って適当な大きさに丸めて氷を敷き詰めた皿に盛り付けた。

「ご飯できたよ〜。」

「おぉ、待ってました。」

 久々に家族での食事。愛月はこの時間が好きだ。大した会話はしていないが、それでも心が和む。

「棒々鶏、きゅうりが美味いな。」

「旬だからね〜。…あ、ぬか漬けもあるんだった。」

 家庭菜園で育てているきゅうりは、取っても取ってもどんどん実るのでキリがない。ぬか床に何本か沈めておいたが、それを食卓に出すのを忘れていた。

「明日の朝でいいさ。今日はもう腹いっぱい。」

 膨れた腹をさすりながら、満足そうに和正は風呂場へ歩いていった。

「…そう言えば、東くんってどうやってお風呂入ってるんだろ?」

 彼が乗ってきた宇宙船には入浴スペースなんてなさそうだった。宇宙飛行士のように、濡れたタオルで体を拭いているのだろうか?それとも入浴専用便利アイテムがあるのだろうか。

 見た目は同じなのに文明が随分違う。祖父がUMAに夢中になるのは、そういった違いを見比べることが楽しいからなのだろうか。

 今までは祖父の居ない時間は孤独でしかなかったが、知的好奇心が湧いてきたお陰か「寂しい」と思う事が少し減ったように思う。

「東くん、今頃何してるのかなぁ。」

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