第13話 優柔不断

 東くんは一人、お昼に何を食べるか悩んでいた。

(興味をそそられるものは多いけれど、大抵何かしらの生き物が使われているんだよなぁ…。)

 肉を食べる文化で育っていない東くんにとって、食肉は死活問題だった。

(どうにか肉を避けて注文したい。)

 メニュー表とにらめっこしていると、クラスメイトの伊波拓郎いなみたくろう六尾学ろくおまなぶがやってきた。

「そんなに真剣に悩んでどうしたー?」

「肉の入ってない料理を選びたいんだけど、美味しそうなものは大抵何かしらの肉が入ってて…。」

 東くんがそう答えると、拓郎がにやりと笑った。

「好きなの頼めよ、肉は俺が食ってやるからさ。」

「拓郎はただ肉を食べたいだけだろ。」

 六尾がため息を着いて拓郎の首根っこを掴む。

「焼き魚定食でも頼めば?」

「うーん…。」

 焼き魚も結局は魚の肉だ。申し訳ないが食べられない。

 蕎麦は昨日食べた、ならばうどんか?

 食券機の前まで来つつも悩んでいると、後ろから新たに声がした。

「俺野菜嫌いだからサラダあげるよ。うどんで物足らないならおかずにどうぞ。」

 振り返ると、羽生伊織が財布から小銭を出していた。

「早く買わないと、食べる時間なくなるよ。」

「それもそうだね。」

 伊織の言葉で決心が付き、東くんはうどんの券を購入した。


 学校の食券機は最近新しくリニューアルされ、現金以外に電子マネーで購入可能になった。

 東くんはケプラー542bから口座を変換し全て電子マネーで買い物をしているので、この食券機リニューアルはとても助かった。


 うどんを受け取り、座る場所を探していると拓郎に手招きされた。

「おーい、こっちこっち!」

 どうやら東くんの席も確保してくれていたようで、六尾と伊織も一緒に座っていた。

「なんだ、うどんにしたのかよ。肉無いじゃん。」

 葱とかまぼこしか乗っていないシンプルなうどんを見て、拓郎はがっかりした。

ベジタリアン・・・・・・な東に肉料理を期待する方がおかしいだろ。」

 行儀よく手を合わせながら六尾が突っ込んだ。

「そう言えば、かまぼこ大丈夫なの?」

 唐揚げを頬張りながら伊織がそれ・・を指さした。

「…かまぼこって材料なんだっけ。」

「魚。」

「…誰か食べてください。」

 まさかこんなまんま見た目人工物にまで動物が使われているとは。地球、怖い。


「そう言えば伊織、花姫と一緒に食わねーの?」

「お昼くらい友達と食べたいだろ。」

「やっさしー!流石モテ男!」

「拓郎はモテないだろうな。」

「うるせー!」

 男同士で集まる方がなんだか気が楽だ。女子は何かにつけ騒がしい。…騒がしいのは拓郎もだが。

 東くんは遠くで騒いでいる女子達を遠目で見ながらうどんをすすった。

「東は和田と付き合ってんの?」

「付き合ってない。」

「なんだー、面白くねぇな。」

 拓郎は少しあの女子たちに似ている気がする。他人の色恋を知って何が楽しいのだろう。

「…お前、AB型だろ。」

「は?」

「だから、血液型。なんか性格伊織と似てるよな。」

 どうやら伊織はAB型らしい。

「性格が似てるからって、血液型が同じとは限らないだろ。」

「じゃあ何型なんだよ?俺はちなみにO型!学はAな。」

「…Rh null型。」

「は?何?」

 聞き慣れない型を不意に言われたので、拓郎は聞き取れなかった。

「アールエイチ、ナル!」

「なんだそりゃ?そんな血液型聞いたこと無いぞ。」

「聞いたこと無くても存在するんだよ。はい、この話終わり。」

 詳しく説明したところで大して記憶には残らないだろう。そう判断した東くんは食事に集中した。

「学、お前知ってる?」

「どの血液型にも輸血できる血液型だよ。でもめちゃくちゃ少ない。まさかお目にかかれるとは思わなかった…。」

 学は医師を目指しているからか、黄金の血のことを知っているようだった。

「ふーん、そんな珍しいんだ。」

 拓郎は予想通り薄い反応をし、伊織は気にもとめない様子で唐揚げを頬張っていた。

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