第10話 食べる楽しみ
すべての食材が揚がったので、お皿に盛り付けて東くんの待つテーブルに持っていった。
「わぁ、いい匂い!」
見たことのない料理に、東くんは興味津々だった。
「はい、これ天つゆね。お蕎麦も茹でたから一緒にどうぞ。」
皿に盛られたグレーの麺を見て、東くんは眉をひそめた。
「…これは食欲そそられない見た目だな。」
「お蕎麦美味しいよ。薬味と一緒に食べてみなよ。」
愛月に促され、渋々薬味をつゆに溶かし入れて蕎麦をすすった。
「…おいしい。」
「でっしょ〜♪天ぷらも美味しいから食べて食べて。」
どれから食べようか迷ったが、見慣れた存在に気づいて箸をのばした。
「キノコはケプラーでも馴染み深いな。よくエキスを抽出して薬品にしたりしてるよ。」
とは言えそのまま食べるのは初めてだ。恐る恐る傘をひとかじり。
「美味しい!」
鼻に抜ける椎茸特有の香りと、口に広がるグアニル酸が唾液の分泌を促した。
「キノコって直に食べるとこんなに美味しいんだね!」
感動した様子で椎茸の天ぷらを頬張る東くん。愛月は嬉しくなって、自分の分も差し出した。
「気に入ったなら私の分もあげるよ。」
「いいの!?…否、他の食材も気になるから、貰うのは保留にしておこう。」
次はレンコンに手をのばす。正直一番気になる食材だ。
シャクっと一口かじると、油でまろやかになった塩味が出汁と共に舌の上を踊った。シャキシャキと心地よい食感は、いつまでも噛んでいたいと思わせる中毒性がある。
「あんなに固かったのに!」
料理というのは不思議だ。固いものも渋いものも手を加えるだけで和らいで、それどころか美味しくしてくれる。東くんは、地球の食技術に感銘を覚えた。
「地球は美味しいものがたくさんあって良いなぁ。」
どれを口にしても美味しかった東くんは、獅子唐の天ぷらを躊躇なく口に放り込んだ。ところが、運の悪いことに
「!?痛っ、痛たたた!!」
慌てて吐き出し麦茶をがぶ飲みするが、それでもまだ口はヒリヒリと痛い。
「なにこれ!?」
「あちゃー、辛いやつに当たっちゃったか。これは獅子唐といって、天ぷらにするととても美味しい野菜なんだけど、たまに辛いのが出来ちゃうんだよね。」
「そんな運任せの食材使わないでよ!」
よほど辛かったのか、麦茶に入っていた氷を口いっぱいに頬張っている。
「ごめんねぇ。私もおじいちゃんも辛いもの平気だから、いつもの感覚で獅子唐仕分けずに揚げちゃった。」
「…辛いのとそうでないのを見分ける方法があるの?」
「うん。形がいびつだったり小さいものは辛い事が多いの。だからすっと真っ直ぐで凹凸のないものは辛くない可能性が高いよ。」
「…絶対じゃないんだ。」
「絶対なんて言葉は地球には通用しない!」
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