第8話 変質者

「ねぇねぇ、体育の時東くんと何話してたの?」

 女子ABCと一緒に食堂でお昼を食べていると、栄子がニヤニヤしながら聞いてきた。

「何って…。」

 東くんが宇宙人であることは、二人だけの秘密だ。それに付随する事も、他人に言ってはいけない。

(東くんがずるをしていても、それを人に報告することは出来ないんだよなぁ…。)

 もどかしく思いながら、「なんでもないよ。」と答えるしかなかった。

「え〜、なんか怪しぃ〜。」

 ABCの三人はどうしても恋の話に結びつけたいようで、コソコソああでもないこうでもないと話している。

(普通の恋人すら出来たことないのに、宇宙人と恋愛なんて無理に決まってんじゃん…。)

 このぼやきも、誰かに言えるはずもなく。愛月は面倒なことを約束してしまったとため息を吐いた。


 放課後になり、ちらほらと部活に向かうクラスメイト達。

 愛月は学校から家が遠く、通学に時間がかかるという理由で部活に入ることを許してもらえなかった。

「和田さん、またね〜。」

「うん、皆部活頑張ってね〜。」

 クラスメイトたちを見送って、愛月はゆっくり下校の支度をした。

 一人で居たくない愛月にとっては、家が遠かろうが部活に入って時間を潰したかった。しかしそれは大人たちに許してもらえず、仕方無く帰宅部になったのだった。

「…はぁ。」

 トボトボと自転車小屋に向かうと、東くんが待っていた。

「やぁ。」

「東くん。どうしたの?」

「どうって…、一緒に帰ろうと思って。」

 他人とあまり関わろうとしない節があった東くんにしては意外な申し入れだ。

「もしかして、変質者の件を心配して待っててくれた?」

「まぁね。僕は記憶操作できるからいいけど、地球人は逃げるしかないんでしょ?」 

 朝のホームルームのことを真面目に聞いていた東くんは、一人で下校するのは危険と判断して愛月を待っていたのだった。

 自分の都合のいいようにしか道具を使わないのだろうと思っていたので、愛月は少し反省した。

「体育の時はごめんね。心配してくれてありがとう。」

「…いいよ、別に。」


 二人で朝来た道を歩いた。日が傾き始めた空は、雲を橙色に染めながら少しずつ暗くなっていった。

「地球人の変質者って、どんな感じの人?」

「うーん、露出狂が多いかな。あとは”一緒に遊ぼう”とか声をかけてくるとか?」

「露出狂…。それって、危ないの?」

「え?…うーん、危ないんじゃない?そのまま襲われたりすることもあるだろうし。」

「じゃあアレは危ないってことかな?」

 東くんの指差す方を見ると、真っ裸にスニーカーという出で立ちのおじさんが仁王立ちして遠くを見ていた。

「うわあぁぁぁぁ!?」

 びっくりした愛月が悲鳴を上げると、おじさんはこちらに気づき慌てて逃げていった。

「…逃げた。」

 おじさんの遠くなるお尻を見つめながら、東くんは呟いた。

「こ、怖かったぁ…。」

 まだ心臓がバクバク鳴っている。東くんが一緒に居てくれてよかった。

「和田さんの声にびっくりして逃げていったね。」

「そ、そうなのかな…。」

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