第6話 危険な下り坂

 翌日、いつものように自転車で坂道をくだっていると、道の真ん中に人が倒れていた。急いで自転車から降りて駆け寄ると、倒れていたのは東くんだった。

「大丈夫!?」

 体を揺すると、「うーん…。」と唸りながら彼は目を覚ました。

「どうしたの!?」

「と、遠い…。」

「え?」

「ワープ装置の充電が切れてしまって、仕方無く徒歩で学校に向かったら遠すぎて…。足がパンパンでもう動けない。」

 熱中症で倒れているのかと思ったら、どうやら疲労で動けなくなっていたらしい。

「後ろに乗る?一応うちの私有地だし、車も入ってこないから二人乗り出来るよ。」

「乗る…。載せて欲しい…。」

 東くんはぐったりした様子で起き上がり、愛月の後ろに跨がった。

「おっけー、じゃあしっかり掴まっててね!」

 愛月は自転車を支えていた足を地面から離し、舗装されていない細い坂道を下り始めた。最初はゆっくり動いていた自転車が、傾斜によって段々とスピードを上げていく。

 体験したことのない振動と風圧に、東くんは恐怖した。

「あわわわわわっ!早い、早いぃぃ!!」

「あはは、もうちょいだから頑張って〜。」

 しがみつく東くんを励ましながら、愛月は近づく公道に向けてスピードを落とした。

「はい、ここからは歩きね。」

 自転車を止めて後ろの東くんに声をかけたが、彼に声は届いていない様子。真っ青な顔で何やらブツブツと呟いていた。

「あり得ない、こんな危険な乗り物が存在するなんて…。」

「東くん。」

「えっ?な、何?」

「ここからは歩きで行くよ。」

「分かった…。」

 よろよろと自転車から降りた東くんだったが、腰が抜けていたのかそのままへたり込んでしまった。

「大丈夫?」

「大丈夫じゃない。…君、いつもああやって登校してるの?」

「うん、下り坂は漕がなくていいし楽ちん♪」

「…楽かどうかより、安全面を気にした方がいいよ。」

 

 自転車を押しながら、二人並んで歩道を歩く。疲労がとれていない東くんは、足取りが重かった。

「東くん、急がないと遅刻しちゃうよ。」

「もう遅刻でもいい…。」

 相当疲れているようで、少し歩いては立ち止まってを繰り返していた。

「ケプラーでは移動はワープが基本だったから、こんなに歩くことはなかった…。地球人の基礎体力が高い理由が分かったよ。」

 東くんは、はぁはぁと息を切らしながら苦しそうに言った。

「私の家が学校から遠いっていうのもあるけどね(笑)。街に住んでいる人はバスに乗ったり出来るから、もう少し登下校が楽だよ。」

 それを聞いて、彼は首を傾げた。

「君はわざわざ不便な場所に住んでるの?なんで?」

「なんでって…、あそこが私の家だから。」

「家なんて都合のいい場所に移ればいいじゃん。」

 利便性を考えると、確かに彼の言うとおりだ。しかし今の家は亡き両親が残してくれた大切な場所だった。

「便利がどうかが重要じゃないこともあるんだよ。」

「ふぅん…、地球人の考えはよく分からないな。」

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