第2話 未知との遭遇

 祖父の車に乗り、彗星(らしきもの)が落ちた林へ向かった。

「…ねぇ、おじいちゃん。もし本当におじいちゃんが言うようにUFOだったら、どうするつもり?」

 宇宙人が襲って来ないとも限らない。老人と15歳の少女二人では、きっと何の抵抗もできないだろう。

「まず搭乗者が居ないか確かめる。無人の可能性もあるからな。」

 得体のしれないものに遭遇するかも知れないのに、祖父は冷静だった。年の功というものなのか、それとも向こう見ずなだけなのか。

「てか、あんなに光って地響きもしたのに、消防とか警察が動いてる様子全然無いね。」

 普通なら山火事の危険もあるため様子を見に来そうな気がする。

「そんなに揺れたか?」

「揺れたよ!窓ガラスだってガタガタ鳴ってたし!」

 歳をとるとこんなにも鈍くなってしまうものなのか?否、祖父の場合は研究に夢中になっていたせいもあるだろう。


 車を走らせ5分程すると、多くの樹々がなぎ倒されている場所に着いた。

「わ!何これすご…!」

「うーん、こんなに木が倒れるほどの衝撃があったように感じなかったがなぁ…。」

 倒れている樹々を目で追っていくと、中心に大きな物体が1/3程地面にめり込んでいた。

「…宇宙船だ。」

 宇宙飛行士たちが地球に帰還する時に乗っている宇宙船にそっくりな、角が丸い三角錐の物体がそこにあった。

「え、宇宙飛行士が不時着したってこと?」

「そうともとらえられるが…、奇妙だなぁ。」

 普通、宇宙飛行士たちが帰還するときには大きなパラシュートを開いて衝撃を和らげながら降りてくる。

しかも、今回の宇宙飛行はまだ始まったばかりで、まだ帰還する予定ではないはずだ。

和正は、地面にめり込んだ宇宙船を注意深く観察した。

「宇宙船にしても、少し違う気がするな。」

「え?」

「こんなおしゃれな模様なんて、描かれていない。機能性重視の、もっとシンプルな見た目のはずじゃ。」

 目の前の機体は、側面に幾何学模様がびっしりと描かれていた。

「じ、じゃあ、これって……。」

 背中に嫌な汗が伝う。

 UMAは存在しないと思っていた。でも、目の前に存在する宇宙船の説明が出来ない。 

(あ、あり得ない…!本当にUFOが存在するなんて…!!)

 愛月の心情とは裏腹に、和正は嬉々として叫んだ。

「ついにUFOをこの目で見た!!」

 愛月は恐怖で体が動かなくなる前に、祖父の手を引っ張った。

「逃げよう!!」

「何を言っとる!?こんなチャンス、もう二度と巡ってこんぞ!!」

「危険だよ!!私達実験台になっちゃうかも知んないんだよ!?」

「本望じゃ!!嫌ならお前だけ帰れぃ!」

「車運転できないってのー!!」

 二人で言い合いをしている内に、宇宙船の一部が開き始めた。それに気づいた愛月は叫ぶ。

「命だけは奪わないでください!!」

 得体のしれない存在に、愛月は恐怖でいっぱいになった。

(あぁ、お父さんお母さん。私の人生、実験台にされて終わるかもしれません…。)


 祖父にしがみついて目をぎゅっと閉じていた愛月だったが、数秒経っても何も起こらないので恐る恐る瞼を開けた。

「……?」

 宇宙船の入り口を見ると、人が立っていた。

(あれ?宇宙人じゃない…?)

「ここで見たことは忘れる。」

 はそう言って、強いライトの光を照射してきた。

「わ!まぶし……!!」

 あまりの眩さに目を閉じたが、再び目を開けるとそこは自宅の庭だった。

「…あれ?」

 先程まで林に居たはずだ。訳が分からず辺りを見回していると、祖父がポン、と愛月の肩を叩いた。

「何キョロキョロしとるんじゃ?蚊に食われるぞ、中に入ろう。」

「え…。ねぇ、私達さっきまで林に居たよね?」

「何を言っとる?今までずっと庭で星を見てたじゃろ。」

 訳が分からない。祖父はUFOのくだりを丸々覚えていないようだった。

(今起こったことは夢…?)

 夢にしては、リアルな出来事だった。

 愛月の心臓は、まだバクバクと激しく音を立てていた。

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