第5話魔眼を宿す少年〜5〜
師匠の隣で目を擦りながら、むにゅむにゅと眠そうな仕草をしているイリスに気付いたハジメはイリスに問いかける。
「眠いなら寝たらどうだ?」
「…むにゅ…まだ起きてるの…むにゅ…」
力のない返事をしながら瞼が落ちかけようとしている力に抗うイリス。
そんな必死な姿にハジメはクスリと笑いが溢れる。
「全く。眠いなら無理して起きてなくてもいいのだがな」
「そこが可愛いんじゃないか。さて、イリスももう限界みたいだからハジメ、イリスを隣の部屋のベッドに寝かせてやれ」
「わかった。ほら、ベッドに連れてってやるから捕まれ」
ハジメは、ゆっくりと椅子から立ち上がり、今にも意識の糸を手放そうとしているイリスの側に近寄り、ゆっくりと抱き上げる。
「…むにゅ」
硬く落ちた瞼を開かず、イリスは無意識に手を広げながら弱々しくハジメの背中に小さな手を回すと、すぅすぅと心地良さそうな寝息を溢し始めた。
「……………」
「…ハジメ、いくらイリスが可愛いからと言っても襲うなよ?まぁ、互いに合意の元なら…」
「!!?襲わねーよ!!何、訳がわからない事を言い出すんだ!?」
「あはは。冗談だ冗談。ほら、早いとこイリスをベッドに連れてってやってくれ」
子供が悪戯でも成功させたかのように、師匠はにやにやと笑いを溢すと、机に置かれていた3人分のコップを手に持ち、キッチンへと姿を消した。
そんな後姿を苦虫でも潰したかのような表情を師匠に向け、イリスを起こさないようにゆっくりとベッドへと運ぶ。
肘でドアノブを開け、塞がっている手を使わず足でドアを開放し、暗い部屋へと入る。
すると壁際に設置されているベッドが暗い視界に捉えたハジメはゆっくりと近寄り、起こさない様に降ろすと掛け布団を優しく小さな体にかける。
「……こんな小さな子供が血で血を洗う様な凄惨な人生を歩む…か…。その小さな体にそんな重い未来はそれは酷な人生だな。師匠はイリスをどうするのか…」
すやすやと安心した寝息を溢しているイリスを黙って見つめながら、ハジメは小さな声でぽつりと言葉を溢す。
この小さな少女にこの先、どんな未来が待ち受けているのか?
どんな残酷な世界を見る事になるのか?
それに耐えられるのか?
それらを恐らく詳しくは知ってはいないだろう。
だが、子供という者は、大人でも驚くぐらい純粋だ。
もしかすると、雰囲気で何となく感じ取っているのかもしれないのではないかとも思う。
そんな色んな考えがぐるぐると頭の中を駆け巡る。
ハジメはそれを振り払うかの様にゆっくりと立ち上がり、部屋を後にした。
若き魔眼の剣聖と特異点の少女 ゆずどりんこ @yuzudorinko
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